
8割の企業に「給料もらいすぎ」人材
日本企業で起こる人材ミスマッチの真実:働き盛りの30代が「過小報酬」の裏側
現代の日本企業において、人材に関する深刻な問題が表面化している。アビームコンサルティングの調査によると、実に企業の61%が「人材不足」と「人材過剰」という矛盾した状態を同時に抱えているという。さらに衝撃的なのは、8割もの企業で「職務に対し給料が高すぎる過大報酬人材」と「低すぎる過小報酬人材」が存在する実態である。この人材ミスマッチは個人のキャリアのみならず、企業の成長を阻害する要因ともなり得る。果たしてその全容はどのようなものか、そして企業と個人はどのように対応すべきなのかを探る。

Q. 日本企業の人材ミスマッチにはどのような実態があるのか?
アビームコンサルティングの調査では、日本企業において3つの大きなミスマッチが存在することが明らかになった。1つは人員配置の「量」に関するミスマッチ、2つ目は従業員の能力と職務の間の「質」のミスマッチ、そして3つ目は職務への対価である「報酬」のミスマッチである。
特に、全企業の61%が人材の不足と過剰を同時に感じている。ある部署で人員が足りないと言われている傍ら、別の部署では人員が余っている状態だ。これは企業が人材を有効に活用できていないことを示唆している。さらに、80%の企業では従業員の能力が職務要件と合致していない「質」のミスマッチがあり、また「報酬」のミスマッチも同程度の企業で発生していると報告された。
Q. なぜ「量」と「質」のミスマッチは同時発生するのか?
「量のミスマッチ」において特筆すべきは、30代から40代という働き盛りの年代で、不足と過剰が同時に起きている点だ。この現象は個人の能力に起因するのではなく、会社の人材配置の仕組みに問題があることを示唆している。

「質のミスマッチ」では、特に30代から40代に「オーバースペック」人材が多いことが分かった。オーバースペックとは、持っている能力が現在の職務要件を上回っている状態である。多くの企業では新規事業より既存事業に優秀な人材を配置する傾向がある。これは、出世コースの人材には失敗させられないという企業側の保身や、部署による優秀人材の「抱え込み」が原因だ。事業部間の縦割りや、全社視点での人材流動性の欠如が、人材の硬直化を招き、企業の変革を妨げる課題となっている。
Q. 報酬ミスマッチの実態とその根本的な問題とは?
報酬のミスマッチも8割以上の企業で深刻化している。ここでは、職務の成果に対し報酬が高すぎる「過大報酬人材」と、低すぎる「過小報酬人材」が存在し、社内に不公平感を生み出している。
年代別の傾向を見ると、働き盛りの30代から40代に「過小報酬」人材が多く、一方で40代から50代には「過大報酬」人材が集中している。これは、ジョブ型雇用が推進されているにもかかわらず、日本企業に根強く残る年功序列的な給与体系が背景にあると推測される。この現状は、今後の会社を担う若手・中堅層のモチベーションを低下させ、優秀な人材の外部流出を招く大きなリスクである。

多くの企業が、市場の求める「職務」に基づいてではなく、既存社員に合わせた「人ありき」の職務定義をしてしまうことが、市場価値と乖離した過大報酬を生み出す構造的な問題だ。過大報酬は一時的に得であるように見えるが、その職務が不要になった際、個人の収入が保証されないという将来的なリスクを抱えることを忘れてはならない。
Q. 企業はこれらの複雑なミスマッチに対してどのように対応すべきか?
ミスマッチ解消のためには、まず自社の実態をデータで可視化し、従業員全体で認識する必要がある。そして人事制度や企業文化のボトルネックを特定し、根本的な解決を図ることが重要だ。
特に、「降格」に対するネガティブな文化を変革することが求められる。「降格」を、従業員が最も活躍できる場への最適配置と再定義するのだ。管理職に向かない人材がプレイヤーとして抜群の成果を出せるのであれば、管理職以上の処遇を与えられる「第3のキャリアパス」を設計するなど、多様なキャリアの選択肢を提供することが人材流動性を高める鍵となる。これにより、従来の「経営人材」と「専門人材」の二軸だけでなく、実務能力の高い「プレイヤー」も評価される道を拓くことができるだろう。
社内における多様な活躍の機会の存在を従業員に明確に伝えることも不可欠だ。大企業ほど、他部署には「転職レベル」の新しい仕事が隠されている可能性があるが、縦割り文化や情報不足により、その魅力を知る社員は少ない。企業は、自社の仕事の面白さを積極的に発信し、社内での人材流動を促す努力をすべきである。
ミスマッチの迅速な解消が企業の競争力を左右する。抜本的な人事評価システムの見直しには根気を要するが、10年、20年先を見据えた持続可能な企業を創るためには避けて通れない道だ。改革には、「誰に活躍してほしいか」という会社の明確なメッセージが不可欠であり、時には既得権益の見直しも辞さない覚悟が求められる。
Q. 個人はミスマッチを避けるためにどのようにキャリアを築くべきか?
個人もまた、自らのキャリアを主体的に形成していく姿勢が重要だ。まず、社内外の情報を積極的に集め、自身の市場価値と現在の報酬が市場と比べて「過大」か「過小」かを正確に把握することから始めよう。これが客観的なキャリア判断の土台となる。
ミスマッチを感じた時、安易に転職を考える前に、今の会社内に自分にとってより力が発揮できる選択肢はないか徹底的に探るべきである。社内異動を「左遷」と捉えるのではなく、「勝てる場所への移動」とポジティブに捉えるマインドの柔軟性(アジリティ)を持つことが重要だ。
一時的な報酬の減少を恐れる必要はない。より活躍できるポジションに移れば、短期間で以前の報酬を超える可能性も十分にある。大切なのは、今の報酬を「全て」と見なさず、長期的なキャリア視点で、自身の成長と貢献を最大化できる環境を選択することである。
Q. AIが人材ミスマッチ解消に役立つとは、具体的にどのようなことか?
AIは単に仕事を奪う存在ではなく、キャリアの可能性を広げる強力なパートナーとなり得る。専門知識をAIに補わせることで、今まで経験がなかったり、能力が足りないと感じていたりした分野への挑戦ハードルが劇的に低下するのだ。

例えば、職務変更の際に必要な専門知識の多くを生成AIが代替してくれることで、リスキリングがより容易になり、今までとは全く異なる職種やポジションへのスムーズな転換が可能になるだろう。これは、年齢に関わらず、個人がAIと協業することで、自身のキャリア選択の幅を広げられることを意味する。
Q. ミスマッチを避けるために個人と企業がすべきことは何か?
個人は、自身の市場価値を客観的に把握し、「勝てる場所」を自ら探す柔軟なマインドを持つべきだ。現在の報酬が市場と比べて過大であればそれを「おまけ」と捉え、過小であればそれを「伸びしろ」と認識することで、冷静なキャリア判断に繋がる。そして、自分のスキルや興味に合致しないミスマッチな状態が続かないよう、主体的に社内外の情報を収集し、必要に応じて最適な行動を取る心構えが求められる。
企業は、市場価値と連動した透明性の高い職務・報酬制度を設計し、従業員に対して社内の多様なキャリアパスや仕事の面白さを積極的に伝え続ける努力が不可欠だ。ミスマッチを「負債」と捉え、その解消スピードを最大化することが、激しいビジネス環境で生き残るための鍵となる。企業と個人の双方が「アジリティ」を持って変化に対応することで、健全な人材循環と持続的な成長を実現できるだろう。