2026超予測
【2026年超予測:インバウンド・地方創生(前編)】インバウンド地方元年/ソロ旅が大人気/AI検索に強い宿が勝つ
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2025年12月23日

2025年に4000万人突破が見込まれるインバウンド。この勢いは2026年も続くのか、インバウンド経済をさらに盛り上げるために、どんな経営努力が求められているのか?インバウンド・地方創生をテーマに、同分野の専門家である永谷亜矢子氏と木下斉氏に超予測してもらった。 ▼プロフィール 永谷 亜矢子|立教...
インバウンドとソロ旅が日本の観光を革新する:2026年の超予測
日本の観光業界は今、歴史的な転換期を迎えている。2025年には訪日外国人数が4000万人規模に迫り、過去最高の消費総額を記録する勢いを見せているが、国内旅行市場は団塊世代の高齢化により縮小の一途をたどる。このような状況下で、AIの急速な発展、そして「ソロ旅」と呼ばれる一人旅の急増という二つの大きな潮流が、観光の未来を大きく変える見込みだ。


「分かりやすい」観光から「分かりにくい」本質的な文化・歴史への価値観の変化、そしてデジタルトランスフォーメーションがもたらす地方誘致の可能性は、これからの日本観光が持つべき重要な視点だ。本稿では、この激動の時代における日本の観光業の展望と、成功への鍵となる戦略を、Q&A形式で深く掘り下げて解説する。
Q. 2025年、日本のインバウンド市場はどのように変化したのか?
2025年の訪日客数は約4000万人と推計され、過去最高を更新する勢いだ。年間消費額も9兆円に迫る記録的な数字となっている。しかし、一人当たりの消費額は微減傾向にあり、これまでのような高級ブランド品購入に代表される「モノ消費」から「コト消費」へとニーズが変化しているのが背景にある。しかし、そのコト消費の受け皿となる体験型コンテンツの整備が追いついておらず、機会損失が生じている。
訪日客の国籍は多様化しており、韓国、中国、台湾といったアジア圏からの来訪が依然として多いが、特筆すべきはアメリカ、中東、インドといった遠距離市場からの訪問者が急増している点である。これは、歴史的な円安により、これまで日本を割高に感じていた層が来日しやすくなったことが大きな要因だ。
海外では日本の本物のブランド(例えばBEAMSなど)への関心が高いが、一般的な高級品消費は減少傾向にある。訪日客の目的が「その国でしかできない体験」にシフトしていることを日本の観光業界は深く理解し、高付加価値な体験型コンテンツの創出に力を入れる必要がある。

Q. 国内旅行市場が直面する課題と新たな潮流は何だろうか?
インバウンドが好調である一方で、日本の国内旅行市場は縮小傾向にある。特に主要な旅行者層であった団塊世代の高齢化が進み、行動範囲の限定やコロナ禍による旅行習慣の喪失が顕著である。これにより、国内宿泊者数は前年同月比で減少が続いている状況だ。
しかし、この中で「ソロ旅(一人旅)」という新たな潮流が急速に伸びている。団塊ジュニア以降の世代を中心に、自分のペースで自由な旅を楽しみたいという需要が増大しているのだ。皮肉なことに、多くの旅館やホテルは未だ「二人以上」という旧態依然とした予約形態を維持しており、この巨大なソロ旅需要を取りこぼしている。これは甚大な機会損失であり、日本の観光業者が早急に見直すべき点だと言えよう。
また、インバウンドを過度に頼ることには注意が必要だ。特定の国からの観光客は、時に相手国に対する「外交カード」として利用されることがある。中国がその好例であり、地政学的な問題が起こると、送客を停止することがあった。このようなリスクを回避するためには、特定の国に依存せず、多様な国々からバランス良く観光客を受け入れる「ポートフォリオ戦略」の構築が不可欠である。
Q. AIの普及は日本の観光業にどのような革新をもたらすのか?
日本の観光業界はこれまでデジタル化が遅れていたが、AIの普及により状況は劇的に変化する。海外からの旅行者はAIを駆使して旅の計画を立てるため、これまで情報が届きにくかった地方の情報にも容易にアクセスできるようになる。これにより、インバウンド客が都市部だけでなく地方へ分散する「インバウンド地方元年」が到来する見込みだ。
AIに発見され、推薦されるためには、観光地や宿泊施設側からの積極的な情報発信が必須である。情報量が少なければ、AIの検索結果にすら上がらず、旅行者の目に触れることはない。特に、GoogleのAI学習に利用される可能性が高いnoteや、Instagram、そしてGoogleマップといったプラットフォームでの情報更新は重要だ。鮮度の高い情報を日本語で継続的に発信するだけで、AIが自動で多言語に翻訳し、世界の旅行者に届けてくれる。これにより、コストをかけずに効果的なアピールが可能となる。

この情報発信において、単なる施設紹介だけでなく、「どのような体験ができるのか」といった具体的な情報を盛り込むことが求められる。旅行者が旅の主役として自分に合った体験をAIで探す時代において、情報の質と量が直接的な集客に繋がるのだ。
Q. なぜ「ソロ旅」は今後、重要な市場として注目されるのか?
「ソロ旅」は単身世帯の増加や個人のライフスタイルの多様化を背景に、急速に需要が拡大している。現代のソロ旅は、「目的地を巡る」ことよりも、「自分自身が主役となって、自分のペースで、やりたいことを追求する旅」という側面が強い。
驚くべきことに、このソロ旅市場、特に40〜50代の男性において、未開拓の巨大な需要が存在している。多くの宿泊施設が「女性の一人旅」といった画一的なイメージに捉われ、男性ソロ旅のニーズに対応できていないのが現状だ。個人の趣向に合わせた旅を楽しみたい層は男女問わず厚く、彼らの多様なニーズを理解し、受け入れることで、新たな成長が見込める巨大な空白市場だと言える。
既に個人手配旅行が全体の8割を占める中で、旅行会社任せの団体ツアーモデルは限界を迎えている。宿泊施設や観光地は、AIの活用も含め、個別の旅行者に直接アプローチし、ニーズに応じた柔軟なプランを提供することが急務となる。マーケティングに長けた星野リゾートなどが既にソロ旅、特に男性ソロ旅市場に注力している事実は、そのポテンシャルの高さを如実に物語っている。
Q. 今後の観光で「分かりにくい」ものが新たな価値となるのはなぜか?
これまでの地方観光は、祭りやイベント、有名なキャラクターなど「分かりやすい」ものに集客を依存してきた。しかし、現代の旅行者は、より深い文化や歴史、地域に根ざした職人技といった、表面からは見えにくい「うんちく」やストーリーに価値を見出し始めている。

ヨーロッパの文化遺産が良い例だが、日本の伝統工芸品やクラフト酒、特定の畑で作られる茶など、背景にある物語や製造工程、そして携わる人々の思いといった情報が語られることで、その価値は一層高まる。かつてパリで日本製品の「安売りは冒涜だ」と顧客に叱られた事例が示すように、海外では職人の手仕事や本物の価値に対する敬意が非常に強い。日本人も自国の文化・技術の本質的な価値を再認識し、安売りではなく、その価値をきちんと伝える価格で提供すべきであろう。
AI翻訳技術の進化は、この「分かりにくい」価値へのアクセスを容易にした。現地の日英メニューがない居酒屋であっても、スマホで写真を撮れば瞬時に詳細な翻訳と解説が得られる。これにより言語の壁が低くなり、旅行者はますます深く、マニアックな日本の文化を探求できるようになっているのだ。
Q. 日本の観光業は「古いものを活かすヨーロッパ型」へ移行すべきか?
日本は他国と比較して、「革命がなかった」という点で文化的な連続性が非常に高い。高野山や熊野古道に代表されるように、数百年から千年もの間、その機能や信仰、文化が途切れることなく「現在も使われている」状態で残るというのは、世界的にも稀有な価値である。外国人観光客がこれらに接した時、「なぜこんなものが現代まで残っているのか」と驚嘆し、深く興味を抱くのだ。
近年、都市部で進行している高層ビルや商業施設の「再開発ハード」投資は、建設費や金利の高騰により収益性が低下し、「無理ゲー」と化している。新しいものを造り続けるよりも、歴史的建造物や古民家といった既存の資源をいかに活用し、その中に物語性を付与していくかが重要になっている。これはまさに、歴史ある建造物や地域文化を観光の核とする「ヨーロッパ型」の観光モデルへの転換を意味するだろう。
ローカルスーパーやコンビニ、地元の居酒屋など、日常に根ざした「現地の生活体験」を求める傾向も顕著だ。これらの体験は、古くからの街並みや生活様式の中にこそ本物を見つけられる。日本の持つ「分かりにくい」本物の価値を深く掘り起こし、発信していくことが、国内客、そしてインバウンド客双方を惹きつける未来の観光戦略の核心となる。