PIVOT TALK BUSINESS
米国メディア最強王対決。ネットフリックス vs. YouTube
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2025年12月19日

今、米国のメディア・エンタメ業界ではどんな構造変化が起きているのか?今後の勝者は、ネットフリックスなのか?YouTubeなのか?テレビ視聴データ分析などを手掛けるREVISIOの郡谷康士CEOに聞いた。 ▼プロフィール 郡谷康士|REVISIO CEO 東大法学部卒。マッキンゼーにて、事業戦略・マ...
激化する米国メディアの覇権争い:ストリーミングの苦闘、ビッグテックの支配、AIが変えるコンテンツの未来
Netflixによるワーナーブラザーズ買収の動きを象徴に、米国メディア業界は大きな転換期を迎えた。消費者のメディア接触時間が飽和する中、企業は限られたパイを奪い合うゼロサムゲームに突入している。ストリーミングビジネスの厳しい現実、GAFAなどのビッグテックによる広告市場の独占、コンテンツ高騰によるIP(知的財産)獲得競争の激化など、様々な課題が複合的に絡み合うこの市場で、メディア企業はどのような戦略で生き残りを図ろうとしているのか。

Q. なぜ米国メディア市場では、今大規模な再編が起こっているのか?
米国メディア市場が飽和状態にあり、視聴者のメディア利用時間が完全に頭打ちになっているからである。
データによると、メディアに利用する時間は1日平均13時間と飽和し、これ以上増加する見込みは薄い。これは市場が成長期から、限られたパイを奪い合う「ゼロサムゲーム」に移行したことを意味する。かつてスマートフォン普及とコロナ禍で視聴時間は大きく伸びたものの、その後は横ばいだ。この厳しい状況下で、企業は成長戦略として他社のシェアを奪うしかないため、買収や合併による規模の拡大が必須となっている。Netflixがワーナーブラザーズへの買収を仕掛ける背景には、このような市場全体の必然的な流れが存在する。
Q. ストリーミングサービスはなぜ儲からないのか? また、その中で各社はどのように生き残りを図ろうとしているのか?
ストリーミング事業が儲からない最大の要因は、従来のケーブルテレビに比べて「収益性の低さ」と「チャーン(解約)率の高さ」にある。

ケーブルテレビが安定した収益源だったのに対し、ストリーミングは観たいコンテンツが終わるとすぐに解約される傾向が強い。これは多くの企業にとって、Netflix以外のストリーミングサービスが赤字経営である現状と直結する問題だ。解約率を下げるため、各社は複数のサービスを安価にまとめて提供する「バンドル化」を強化し始めた。これはかつてストリーミングが破壊したはずのケーブルテレビのパッケージ販売モデルへの逆行と言える。Netflixがワーナー買収に動くのも、HBO Maxなどの人気コンテンツを自社のサービスに組み込むことで、パッケージとしての魅力を高め、解約率低下やユーザー獲得コストの削減を目指す狙いがある。業界全体が銀行再編のように、巨大グループへの集約と淘汰に向かう流れにある。
Q. ビッグテックは米国メディア市場にどのような影響を与えているのか?
Meta、Alphabet、Amazon、Microsoft、TikTokといった「ビッグテック」は、その潤沢な資金力と巨大な顧客基盤を背景に、米国メディア市場に絶大な影響を与えている。

特に広告市場では、彼らは自社のサービス内でデータを囲い込み外部に提供しない「ウォールドガーデン(壁に囲まれた庭)」を形成し、広告市場全体の成長分のほぼ全てを独占している。そのシェアは実に65%に達する。彼らはまた、AI開発や動画コンテンツに巨額の投資を行い、人気コンテンツの買収競争にも積極的に参画している。これにより、コンテンツ獲得費用は異常なまでに高騰し、従来のメディア企業はビッグテックとの「資金力勝負」を強いられている状況だ。この競争は、メディア再編の中心的要因となり、メディア企業はさらに巨大化しなければ生き残りが難しい構造を作り出している。
Q. コンテンツ制作費が高騰する中、メディア企業が「強いIP」を囲い込む理由は何を意味するのか?
ビッグテックの参入によるコンテンツ獲得競争の激化で、制作費や放映権料は高騰の一途を辿っている。
この状況下でメディア企業が安定した収益を確保し、生き残るためには「強いIP(知的財産)」の囲い込みが不可欠となる。コンテンツの中でも、ファン層が明確で新規顧客獲得が見込めるスポーツ中継、あるいはハリーポッターのようなシリーズ化されやすく確実な視聴が見込めるIPは、投資対効果が見込みやすいため特に重視されている。NetflixがWWEのプロレスコンテンツを独占配信したり、BBCの放映権獲得に動くのもこのためだ。また、強いIPを持つ企業は評価が高く、ディズニーがOpenAIと提携してAIとIPを組み合わせた新たな収益化の道を模索しているように、IPは多様なビジネスチャンスを生み出す源泉ともなっている。IPを持つ者が市場で有利な立場を築く時代へと突入したと言えるだろう。
Q. メディア業界で勝ち残るために必要な要素は、「流通」と「IP」のどちらに軍配が上がるのか?
グローバルなメディア業界で勝ち残る道は、「圧倒的なデータと流通網を握る」プラットフォーマーとなるか、あるいは「圧倒的なIP(知的財産)」を持つコンテンツホルダーとなるかの二極化が加速している。
前者の代表格がGAFAを筆頭とするビッグテックであり、後者の代表がディズニーのような企業だ。このどちらの強みも持たない「中途半端なプレイヤー」は淘汰される可能性が高い。コンテンツ取得コストが収益を上回る現状では、単体での採算は困難であり、将来的な勝者総取りを目指す先行投資が続いている。しかし、この二極化は必ずしも弱小企業にとって不利ばかりではない。ローカル市場で強いIPを持つコンテンツ制作者は、Netflixのようなグローバルプラットフォームを通じて世界市場に進出できるチャンスを得る。日本のアニメやドラマが海外で人気を集めているのはその好例であり、コンテンツ制作者は新たなビジネスの道を切り拓いていると言えるだろう。
Q. 注目を集めるストリーミング広告の収益化は、どこに課題と未来があるのか?
ストリーミング広告、特にコネクテッドTVでの広告は、視聴者が自ら選んだコンテンツに表示され、高いターゲティング精度を持つため、非常に効果が高い。
従来の地上波CMと比較しても、注視率が高く、より広告効果が見込めるというデータがある。これにより、AmazonやNetflixなども広告付きプランを導入し、広告ビジネスを収益の柱として強化している。しかし、この市場にも課題は存在する。視聴時間全体が頭打ちであるため、広告枠(在庫)は無限には増えず、いずれ飽和状態になる。収益を伸ばすためには、広告単価を上げる必要があるが、そのためには「広告の質」の向上が必須だ。つまり、ただ広告を流すだけでなく、「きちんと見られているか」「視聴者に響いているか」を追求し、その価値を広告主に証明する競争へとシフトしている。日本の地上波CMがまだコスパが良いと評価され、広告予算が急激に流出していないのも、この単価設定の課題を示唆している。
Q. AI技術は動画コンテンツの制作現場や視聴者の行動に、どのような変化をもたらすのか?
AI技術は動画コンテンツの制作と消費のあり方を根本から変えようとしている。

米国YouTubeでは、登録者数を伸ばすチャンネルの約半数が生成AIを活用した「AIチャンネル」だ。AIがコンテンツを完全に自律的に作るというよりも、クリエイターがAIをツールとして活用し、制作コストを劇的に下げつつ、高品質なコンテンツを量産している状況だ。これにより、今後YouTubeには低コストでハイクオリティな動画が溢れ、人間のYouTuberが淘汰される可能性も指摘されている。AIによる代替はまず6秒程度の短尺動画や縦型動画といった「入りやすい領域」から進むだろう。しかし、複雑なストーリーテリングや人間同士の機微を描く長尺コンテンツは、現時点では人の手による「最終的な仕上げ」が必要とされている。ただし、5年後にはビジネス系対談のような情報量の多いコンテンツもAIによって代替される可能性がある。これは技術の進歩だけでなく、膨大なデータとそれを処理するインフラ(データセンターや電力)の確保が鍵となる総合的な戦いになる。私たちは、1日の約13時間、起きている時間の約70%をメディアに費やしている。AIが個人の好みに最適化したコンテンツを無限に生成する時代が到来すれば、人類はドーパミンに支配された「依存の文化」にさらに深く陥っていく可能性があるだろう。結局のところ「人間は何を見るかでできている」という問いが、メディア消費において一層重要な意味を持つ時代となる。