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【東宝】邦画の海外再挑戦、戦略と勝算
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2025年12月19日

2032年に向け、海外売上高比率30%を目指す東宝。邦画の世界再挑戦に向けた勝ち筋とグローバル戦略は?これから求められるプロデューサー像とは?取締役社長の松岡宏泰氏に聞いた。 <ゲスト> 松岡宏泰|東宝 取締役社長 1994年 東宝東和入社 同社社長などを経て2022年から現職 曽祖父は阪急東宝グ...
東宝が切り開くコンテンツの未来:『ゴジラ-1.0』から加速するグローバル戦略と組織変革
『ゴジラ-1.0』の歴史的快挙が、日本を代表する映画会社である東宝に大きな変革をもたらした。これまで内需が中心だった日本エンターテイメント業界が、いよいよ本格的なグローバル化へと踏み出し始めている。同社は2032年に向けて海外売上高比率30%を目標に掲げ、主体的なビジネス展開、メディアの特性に応じた戦略の使い分け、そして現地重視の姿勢を徹底する。この記事では、東宝がいかにして世界市場に挑み、その成功を支える組織と人材の変革を推し進めているのかを探求する。

Q. 東宝の海外売上高比率30%達成の鍵は何か?
従来の東宝の海外事業は、作品の権利を現地の配給会社に預け、その収入の一部を得る形が一般的であった。これでは実際に生み出される莫大な興行収入のごく一部しか東宝の収益とはならなかったのである。松岡宏泰社長は、より主体的なビジネス展開への転換が不可欠だと語る。現地の配給会社を介さずに、自らが直接海外で配給することで、興行収入をそのまま東宝の収益とできる。これが、海外売上高比率30%達成に向けた最も重要な戦略である。

北米市場で初めて自社配給を行った『ゴジラ-1.0』は、日本国内の興行収入を上回る大ヒットを記録した。この成功は、従来のモデルがいかに大きな収益機会を逸していたかを明確に示した。もし現地会社に配給を任せていた場合、経費や手数料が差し引かれ、最終的な東宝の収入は大幅に減少していただろう。自社配給により全ての収益が東宝のものとなり、この実績が今後の海外展開の自信へとつながった。
Q. 『ゴジラ-1.0』の成功は東宝の海外事業にどのような影響を与えたか?
『ゴジラ-1.0』の北米での成功は、東宝の社内のマインドセットを大きく変えた。『日本映画は海外では通用しない』『字幕で観る人は少ない』『日本のIPは知られていない』といった固定観念がかつては根強かった。しかし、自社配給での予期せぬ成功は、『自分たちにも海外でこれだけのことができる』という強力な成功体験となった。これにより、他作品においても同様の挑戦を躊躇しない空気が醸成されたと松岡氏は述べる。
また、デジタル配信サービスの普及は、世界中の観客が字幕付きの映像作品を鑑賞することを当たり前のこととした。これにより、言語の壁やIPの知名度といった海外展開における主要な障壁が低減し、日本映画がグローバル市場で受け入れられる素地が形成された。成功体験と市場の変化が相まって、東宝は積極的な海外挑戦のフェーズへと移行しているのである。
Q. 映画と配信シリーズの海外戦略に違いはあるか?
東宝は海外戦略において、映画と配信シリーズで異なるアプローチを採用している。映画に関しては、『ゴジラ-1.0』が大成功したからといって、ハリウッドのような数兆円規模の予算を投じる必要はないとの見解を示す。日本のコンテンツならではの魅力を損なわず、海外で受け入れられると判断した作品を厳選し、その配給や展開の仕組みを最適化することに重点を置く。あくまでも日本の映画作品として、その価値を最大限に届けることを目指している。

一方で、配信シリーズでは異なる。Netflixなどのグローバルプラットフォームと協業する際には、最初から世界基準の制作環境と制作費を投入する。日本のIPを核としつつも、企画の段階から世界中のファンに見てもらうことを前提に制作を進めるのだ。例えば、Netflixとの共同プロジェクト「ガス人間」では、韓国の著名なクリエイターがショーランナーを務め、日本人キャストやスタッフと共に制作される。これは、アイデアが面白ければ国籍に捉われず最適な制作体制を構築し、世界規模のヒットを目指す配信シリーズならではのアプローチと言えるだろう。
Q. グローバル展開を成功させるための秘訣は何か?
東宝のグローバル展開は北米を足がかりに、アジア、そしてヨーロッパへと拡大していく計画を持つ。しかし、各国・地域では文化、法律、ビジネスモデル、商習慣が大きく異なる。こうした多様な環境下で成功を収めるためには、『現地化』が不可欠であると松岡氏は強調する。本社が一律のやり方を押し付けるのではなく、現地のメンバーやチームに大幅な裁量を委ねる方針を採っている。
エンターテイメント産業は文化と感性が極めて重要視される分野だ。本社が「東宝流」をマニュアル化して押し付けても、現地の実情にそぐわず失敗に終わる可能性が高い。そこで、東宝は大きな方向性を示すに留め、具体的な戦略や運用は現地スタッフの判断と感性を尊重している。現地の声を大切にし、その地域に最適なビジネスモデルを構築することこそが、グローバルで成功を収めるための鍵となるのである。
Q. 会社の急成長に伴う人材戦略と組織文化の変化は何か?
東宝は、海外展開だけでなくアニメ事業やマーチャンダイジングなど、全部門が成長モードにある。この急速な事業拡大に対応するため、人材戦略も大きく変革した。これまで新卒採用を中心に少人数精鋭で運営されてきたが、即戦力となるキャリア採用を積極的に拡大している。
実際、過去3年間で約200名弱のキャリア採用者が入社し、今後3年間でさらに200名の採用を計画しているという。海外事業に対応する法務や経理などのコーポレート部門を含め、あらゆる部門で専門性を持つ多様な人材が必要とされている。これにより、社員の構成は大きく変わり、会社の成長ペースも加速している。
この人材の多様化は、組織文化にも変化をもたらした。以前は『暗黙の了解』や『東宝らしさ』といった言葉で共有されてきた企業文化が、新しく入社した多様な背景を持つ人材には伝わりにくくなった。そこで東宝は、会社の価値観を明確な『理念体系』として刷新。これにより、変化する組織において、全員が同じ方向を向いて仕事ができるよう、共通の羅針盤を再構築したのである。
Q. 成果への対価やクリエイター還元についてはどう考えているか?
大きな成功作品から生み出された収益を、どのようにクリエイターに還元していくかは重要な課題であると松岡氏は認識している。日本も徐々に、ハリウッドのように成功にはインセンティブで報いるという文化が醸成されつつある。これにより、夢と活気あるエンターテイメント業界を維持・発展させることが可能となる。
また、東宝が求めるプロデューサー像は画一的ではない。企画を発掘する力、脚本家と深く協働する力、多くの関係者をまとめ上げる力など、プロデューサー一人ひとりが持つ異なる強みと個性を尊重している。多様な才能が集結し、それぞれが自身の得意分野を活かせる環境こそが、東宝のクリエイティビティを支えると考えている。
Q. 今後の事業拡大において、デジタル投資はどのように貢献するか?
松岡氏は東宝の創業者である小林一三の精神、すなわち新しいテクノロジーやビジネスモデルに素早く反応し、大胆な投資を行う姿勢に倣い、デジタル分野への本格的な投資を開始した。これまで、演劇、アニメ、映画、グッズ販売など、東宝グループの各事業が個別に顧客接点を持っていたが、これを「東宝ID」構想によってデジタル上で統合する。

これにより、顧客はグループ内の様々なサービスをより便利に利用でき、特典の提供なども可能となる。このデジタル基盤は、単なる利便性向上に留まらない。東宝グループ全体の顧客データを統合し、それらを活用することで、国内外における新たなビジネスの創出を狙っている。デジタル投資は、東宝のさらなる成長を牽引する重要な戦略的要素と位置づけられるだろう。