PIVOT TALK SCIENCE
【災害の歴史】南海トラフは2030年代に起きる
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2025年12月16日

幾度となく日本に甚大な被害を与えてきた南海トラフ巨大地震。なぜ「100年おきに必ず起きる」といえるのか?私達はどのように備えれば良いのか?巨大災害の歴史と対策について地球科学者の鎌田浩毅氏に聞いた。 ※本企画は2025/12/8の青森県東方沖地震の発生前に収録されたものです ▼プロフィール 鎌田...
2030年代に必ず来る:南海トラフ巨大地震と富士山噴火の脅威
2011年の東日本大震災以来、日本列島は「大変動の時代」に突入した。地球科学者の鎌田浩毅氏によれば、この変化は今後の大規模な地震や火山活動に深く関わるという。漠然とした不安を煽るのではなく、科学的根拠と過去の歴史に基づいた知識で、目前に迫る巨大災害に「正しく恐れ」、未来への備えを進める必要がある。
そして今私たちは、日本がなぜ災害大国なのか、南海トラフ巨大地震や富士山噴火がいつ、どの規模で起こるのかを知り、今すぐできる対策について深く理解することが求められている。

Q. なぜ日本は巨大災害に頻繁に見舞われるのか?
日本列島は地球上でも極めて特異な位置にある。地球表面を覆う約11枚の分厚い岩盤、すなわちプレートのうち、実に4枚のプレートが日本周辺でひしめき合っているためである。これらのプレートの動きが、地震や火山活動が頻繁に起こる根本原因となっている。海側のプレートが陸側のプレートの下に沈み込む際に生じるひずみが、やがて巨大地震として解放され、火山活動も活発化させている。日本の国土面積は世界の0.25%に過ぎないが、マグニチュード6以上の地震が全世界の2割、活火山も7%が集中する災害大国である。この揺れる大地に暮らす私たちは、地学の知識を身につけることが不可欠だ。

Q. 東日本大震災後、「大変動の時代」に入ったとはどういうことか?
2011年に発生した東日本大震災は、地震学者の想定をはるかに超えるマグニチュード9.0という「1000年ぶりの巨大地震」であった。これにより、日本列島全体が地盤の不安定な「大変動の時代」に突入したといえる。M9.0の地震が日本列島全体に蓄積したひずみは、すぐに解消されるものではない。このひずみは能登半島地震に見られるような内陸直下型地震として各地で解放され続けており、この活動は今後数十年にわたって続くと見られている。したがって「東日本大震災は終わっていない」という認識を持つことが重要であり、東京を含め日本中のどこでも地震への注意が必要な状況が続くだろう。
Q. 南海トラフ巨大地震はいつ発生するのか?その規模はどれほどか?
南海トラフ巨大地震は、過去の歴史的記録から約100年の周期で規則正しく発生してきたことが知られている。江戸時代以降、1707年、1854年、1946年と続いており、この規則性に基づくと次は2035年±5年、すなわち2030年代に発生する可能性が極めて高い。これは「30年以内に80%」といった確率論とは異なり、過去の地形変化(土地の隆起と沈降)という客観的データに基づいた時期予測である。
想定される被害規模は東日本大震災の15倍にも上る。死者は最大30万人、経済被害は290兆円と、日本の国家予算3年分が一瞬で消え去るような未曾有の規模だ。最大津波は34m(ビル11階建て相当)に達し、発生後わずか数分で沿岸部に到達する恐れもある。静岡県から宮崎県に至る広範囲が震度7の激しい揺れと津波に襲われ、被災者数は人口の半分以上である6800万人にも及ぶと予測されている。太平洋ベルト地帯が直撃を受けるため、復興は極めて困難を極めるであろう。
Q. 南海トラフ巨大地震は富士山の噴火を誘発するのか?
南海トラフ巨大地震は富士山の噴火を誘発する可能性が高いとされている。1707年には、宝永地震(南海トラフ地震の一種)のわずか49日後に富士山が宝永噴火を起こした歴史的事実がある。この現象は、巨大地震の揺れによって地下のマグマだまりが強く撹乱され、マグマ内の水分が気化(発泡)して体積が急増し、マグマの上昇と噴火につながるためである。これは、振った炭酸飲料が勢いよく吹き出すのと同じメカニズムと考えることができる。

富士山は過去には30〜50年周期で噴火していたが、1707年の宝永噴火以降、すでに300年以上も活動を休止している。これは次の噴火のためのエネルギーを地下に膨大に溜め込んでいる「噴火スタンバイ状態」にあり、極めて危険な兆候と見なされている。「めったに怒らない人ほど怒ると怖い」という言葉のように、長くエネルギーを蓄積した火山の噴火は大規模化しやすい傾向がある。もし南海トラフ地震後に富士山が噴火した場合、過去の記録では首都圏に2時間で火山灰が到達し、横浜で10cm、東京で5cm積もったことがある。また、溶岩流が日本の大動脈である東名高速道路や新幹線を寸断し、長期間にわたり物流を麻痺させる恐れも存在する。南海トラフ巨大地震と富士山噴火が連動する「複合災害」は、日本に致命的な打撃を与える最悪のシナリオだ。
Q. 火山の噴火が社会に与える影響は地震とどう異なるのか?
地震が特定の地域に甚大な被害をもたらすのに対し、大規模な火山噴火は文明そのものを滅ぼしうる破壊力を持つ。7300年前に南九州で発生した鬼界カルデラの巨大噴火は、広範囲に火砕流をもたらし、当時の縄文文化を完全に断絶させた。その証拠として、噴火前後の地層から出土する土器の様式が全く異なることが明らかになっている。イタリアのポンペイ遺跡が火山の噴火によって一瞬で都市ごと埋没した例も、火山活動の恐ろしさを示している。富士山の噴火も、経済活動の停滞や交通網の寸断といった甚大な被害をもたらすだろう。火山噴火が持つ広範囲に及ぶ、持続的かつ根源的な影響力は、時に地震災害をも凌駕するのである。
Q. 絶望的な被害想定の中で、私たちにできることは何があるか?
壊滅的な被害想定にもかかわらず、私たちは絶望するばかりではない。今から適切な備えを行うことで、死者の8割、経済被害の6割を削減できるという試算が存在する。被災範囲が広すぎるため、他地域からの大規模な救助活動は期待できない。食料や水の備蓄、家具の固定、避難経路の確認など「自分の命は自分で守る」という「自助」の備えが、発災後の数週間から数ヶ月を生き抜くために必須となる。特に津波からの避難では、「遠くへ逃げる」のではなく「高くへ逃げる」ことが鉄則である。災害のメカニズムを正しく理解し納得することで、具体的な行動に移すことができる。そして、その知識を家族や同僚、友人といった身の回りの3人に伝えることで、社会全体の防災意識を高め、多くの命を救うことにつながる。
Q. 若い世代が未来を切り開くための教訓は何か?

歴史を振り返ると、巨大災害は社会を根底からリセットする「ガラガラポン」の役割を果たすことがある。幕末(1854年の南海トラフ地震と同時期)や第二次世界大戦後(1946年の南海トラフ地震と同時期)の混乱期には、古い権威が失墜し、20代から30代の若者たちが中心となって新しい日本を創造した。明治維新を推進した伊藤博文や西郷隆盛、戦後の高度経済成長を築いた松下幸之助や本田宗一郎などは、皆、社会の危機の中で台頭した若者たちであった。この歴史の法則に倣えば、2030年代に起こりうる次の巨大災害も、現代の若者たちに新しい日本を立て直す大きなチャンスをもたらす可能性がある。この危機を単なる破壊としてではなく、新たな時代を切り開く機会と捉え、未来を担う世代が今から学び、備え、行動することが求められている。文系・理系の枠を超えて歴史と地学の両方を学ぶことは、来るべき複合的な危機を乗り越え、より良い社会を創造する力となるだろう。