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AI活用で効率は悪化する?
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2025年12月11日

2025年、AIは本格的な業務活用が始まり「普及期」へと突入。AIによる文書の洪水化が起きている現状。DeepSeekショックは再来するのか? 国立情報学研究所の佐藤一郎教授に、生成AIの現状、それに伴う課題、そして未来戦略について話を聞いた。 <ゲスト> 佐藤一郎|国立情報学研究所教授 慶應義塾...
生成AIが問う日本の針路:進化と課題の深層
2022年末にChatGPTが登場して以来、生成AIは社会の隅々にまで浸透してきた。特に2025年以降は企業での本格的な業務活用が始まる「普及期」に突入し、その活用方法が企業の未来を左右する。本稿では、国立情報学研究所の佐藤一郎教授に、生成AIの現状、それに伴う課題、そして未来戦略について話を聞いた。

Q. 生成AIは現在、企業でどのように利用され、どのような局面にあるのか?
生成AIは2022年11月のChatGPTの登場を機に急速に社会に広まった。2023年から2024年にかけて、社会はAIの正体と可能性を模索する期間だった。しかし、2025年に入り、多くの企業が生成AIを業務に本格導入し始め、今はその活用が企業の競争力を決定する普及期にある。今後は、いかに生産性を高め、事業変革に繋げるかが重要となる局面だ。
Q. AI活用が目的化すると企業はどのような「落とし穴」にはまるか?
多くの企業は、AIの導入自体を目的とし、本来の業務改善や改革に結びつけられていない。AIによる文書作成は、たしかに作業者の生産性を高めるが、組織内に長文報告書が溢れる「文書の洪水」を引き起こすことがある。これにより、読み手である上司の負担が増大し、場合によってはAIが作成した長文をさらにAIで要約させるという本末転倒な状況が生まれている。これは、メールの普及が連絡の量を爆発的に増やし、かえって負担増につながった状況に酷似する。不必要なデータが大量に生成・蓄積されると、本当に必要な情報を見つけることが困難になる点も課題である。社内文書は特に、AIの安易な利用を控えるべきだ。
Q. 生成AIは企業組織の役割分担と競争優位性をどう変革させるか?

生成AIと社内データベースが連携することで、現場の従業員も経営層に匹敵する情報を即座に入手し、高度な判断が可能となる。これは、従来上層部に集中していた情報や意思決定の権限が分散され、組織のピラミッド上部をスリム化し、現場への権限委譲を促す要因となる。トップダウン型組織の欧米企業とは対照的に、伝統的に現場裁量の大きい日本企業にとって、この変化はAI時代を勝ち抜く大きなチャンスとなりうるだろう。
Q. 生成AIの本来の価値と、それに伴う新たな社会課題とは何か?
生成AIの真の価値は、既存業務の効率化にとどまらない。むしろ、「限界費用が高く、これまで不可能だった新たな価値の創出」にこそある。顧客一人ひとりに完全にパーソナライズされたカタログの自動生成はその典型だ。しかし、これにはコンテンツの質担保や顧客対応の複雑化といった課題も伴う。さらに、AIによるフェイク情報の大量生産は社会的な脅威である。特に、競合他社を貶める「ネガティブ・ステルスマーケティング」は現行法規(景品表示法)の盲点であり、対処が困難だ。特定のSNSのアルゴリズムを悪用すれば、容易に民意を操作するリスクも存在する。これらの課題に対する社会的な議論と対策が急務である。
Q. AIの本格的な普及を阻む、インフラ面での主要な制約とは何か?
AI普及の最大の物理的制約は「電力供給」だ。AIの計算には膨大な電力が消費され、この需要の伸びは世界の電力供給能力に影響を与える可能性がある。特に、AIの推論処理にかかる電力消費は利用回数に応じて増加し続ける。また、自動運転のように即時性を要するAIでは「通信遅延」の解消が不可欠であり、利用者に近い都市部での処理が望ましいが、ここでの電力確保が難しい。汎用GPU市場では、NVIDIAがソフトウェア基盤「CUDA」と製造委託先の生産ライン確保で一強を築いている。しかし、電力効率の良いAI専用半導体が他社から登場しており、長期的にはNVIDIA一強の状況は変化するかもしれない。実際に、中国企業が型落ちGPUで高性能AIを開発した「DeepSeekショック」は、必ずしも最高性能ハードウェアが必須ではないことを示唆する。
Q. AIエージェントは企業のビジネスモデルや消費行動をどう変革させるか?

理想的なAIエージェントは目標から計画、実行まで自律的に行う存在とされるが、現時点では理想論であり技術的に実現は難しい。多くの企業が唱えるAIエージェントの概念は未だ曖昧なのが実情だ。しかし、この潮流はビジネスモデルに大きな影響を与える。たとえばSaaSの価値は使いやすいUIにあるが、AIエージェントが裏でSaaSを呼び出すようになれば、UIの重要性は低下する。さらに、将来的にB2B取引では「AIエージェント対AIエージェント」が主流になり、企業は取引先のAIエージェントに対応するために自社もAI導入を迫られるだろう。B2C領域では、消費者がAIエージェントに日用品の購入を任せることで、従来の広告やUI/UXによるブランド戦略は効果を失い、「購入後」のカスタマーサポート体験が新たなブランディングの源泉となるだろう。
Q. 異なるAIシステムを連携させる「MCP」は何をもたらし、情報部門の役割はどう変わるか?

メタコンテクストプロトコル(MCP)は、異なる生成AIや外部システム間の接続を標準化する「強力な翻訳者」として登場した。これにより、個別のシステム連携に必要なソフトウェア開発の手間が大幅に削減される。MCPの普及は、AIが外部の基幹システムを容易に呼び出せるようになるだけでなく、非技術者でも自然言語を使って専門的なデータベース検索などが行えるようになることを意味する。例えば、営業担当者が自然言語で質問すれば、AIがそれを専門言語に翻訳してデータベースに問い合わせるといった利用が可能になる。これは、専門的なシステム言語を扱う「情シス」部門がこれまで担ってきた情報仲介役の価値を相対的に低下させ、彼らの役割はより高度なシステム設計やセキュリティ管理へとシフトせざるを得ないだろう。