ECONOMICS101
高市政権がやるべき次の一手
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2025年12月8日

高市政権の若者支持率はなぜ高いのか?今やるべき一手は何なのか?エコノミストの永濱利廣氏と上智大学経済学部准教授の中里透氏が徹底解説。 <ゲスト> 永濱利廣|第一生命経済研究所 首席エコノミスト 早稲田大学卒業、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。第一生命保険入社後、日本経済研究センターを経て、...
「サナ活」から読み解く日本経済の行方:高市政権が若者の希望となる日は来るのか
日本経済は今、物価高、円安、そして先行きの不透明感という課題に直面している。このような状況の中、若者世代が高市政権に大きな期待を寄せ、それが「サナ活」という現象として注目されている。
将来に対する漠然とした不安を抱える人も少なくない。本記事では、この若者の期待の背景を探りつつ、現在の日本経済が抱えるインフレ、金融政策、財政健全性、成長戦略、そして労働市場改革といった主要な論点について、専門家の知見を基に深く掘り下げ、未来への具体的な展望を考察する。
はたして、高市政権は若者の希望に応え、日本経済を再成長の軌道に乗せることができるのだろうか。経済指標のデータと専門家の分析から、日本の針路を読み解いていこう。

Q. 今、若者たちはなぜ「サナ活」とまで呼ばれるほど高市政権に期待を寄せているのだろうか?
若者世代が高市政権に熱い支持を送る背景には、過去の安倍政権のように高齢者層を重視する「シルバー民主主義」から脱却し、若者世代の未来を真っ直ぐに見据える政治姿勢がある。この姿勢が、「このままでは衰退する」という日本の閉塞感を打ち破り、未来を切り開く可能性への期待感を生んでいる。高市政権が掲げる積極財政路線は「市場にお金が回る」というイメージに繋がり、貯蓄より消費や投資を重視する若者の経済観と合致している点も大きい。実際、周囲では高市政権について議論する場が増えたという声も聞かれる。
もう一つの大きな要因は、インフレ常態化による消費マインドの変化である。物価上昇が2~3年続き、人々は「どうせ物価が上がるなら早く買った方が得」という考えに変わりつつある。かつて節約一辺倒だった消費者行動に変化の兆しが見られ、2023年夏以降の消費回復データにも表れている。インフレによる影響は若者より高齢者の方が大きい傾向があり、若い世代の消費マインド転換が経済の牽引役となる可能性も秘めているのだ。この「物価は上がり続けるもの」という心理が定着すれば、日本経済にとって大きな起爆剤となるだろう。

Q. 物価高対策は一時的なものだと指摘されているが、日本経済のインフレは今後どのように推移するのか?
エコノミストや日銀の見通しでは、日本のインフレ率はこれから減速し、来年度は相当程度下がるとされている。インフレ率は前年同月比で算出されるため、例えば食料品の価格が高水準で横ばいになっても、いずれインフレ率は0%に近づくためだ。物価高による家計の苦しさがピークに達するのは、光熱費がかさむこの年度末、特に1~3月と見られている。
政府が一時的な物価高対策を講じているのは、この最も厳しい時期を乗り越えるためのピンポイントな支援という意図がある。この冬を無事に乗り切り、来春闘で2%程度の賃金上昇が実現すれば、来年度にはインフレ率の鈍化と相まって、実質賃金がプラスに転じる可能性が十分に現実味を帯びてくる。ただし、為替市場の動向には注意が必要である。過度な円安がさらに進行すれば、輸入物価が上昇し、この実質賃金プラスのシナリオが崩れるリスクも存在するだろう。

Q. 日銀の利上げは、金融引き締めではなく「緩和の程度の調整」であるとはどういうことか?
日銀の利上げというと、一般的に景気を冷やす「金融引き締め」だと認識されがちだ。しかし、今回の動きは「緩和の程度の調整」と捉えるのが適切である。2013年に異次元緩和が始まった頃、予想インフレ率は0.5~1%程度だった。一方、現在は1%後半まで上昇している。実質金利は名目金利から予想インフレ率を引いたもので計算されるが、現状は異次元緩和開始時よりも実質金利が低く、金融緩和の度合いはむしろ強まっているのだ。
そのため、日銀が行う0.25%程度の利上げは、為替の円安進行や物価状況を考慮し、行き過ぎた緩和状態を「適正な水準に調整」しようとするものだと言える。これは景気を悪化させる引き締めとは本質的に異なる。今後の政策運営は、4月の物価上昇期を超え、為替が大幅に円安に振れない限り、物価上昇ペースは緩やかになる見込みだ。日銀はその後、経済状況を慎重に見極めながら次の手を考えることになるだろう。

Q. 国債の暴落や財政破綻が懸念される中で、財政の健全性を示す真の指標は何だろうか?
財政の健全性について語られる際、プライマリーバランス(PB)の黒字化が重要視されることが多い。しかし、実際のところ主要な格付け機関はPBの黒字化を直接的な評価指標としていない。格付け機関が本当に重視しているのは、国の「債務残高GDP比」や「純債務残高GDP比」といったストックデータと、「利払い費のGDP比」や「利払い費の歳入費」といったフローのデータである。
金利上昇には「悪い金利上昇」(財政懸念からの金利高騰)と「良い金利上昇」(経済成長による金利高騰)の2種類がある。経済成長を伴う良い金利上昇であれば、それに比例して税収も増加し、むしろ財政は健全化する方向に向かう。さらに、日本の国債は平均9年6ヶ月程度の年限で借り換えられるため、たとえ市場金利が上昇しても利払い費が直ちに急増することはない。名目GDP成長率が長期金利を上回る状態が維持されれば、財政破綻リスクを過度に恐れる必要はないと言える。
Q. 日銀に代わる国債の新たな買い手は存在するのだろうか?
異次元緩和期に国債を大量に買い入れていた日銀は、現在その買い入れ額を減らしている。このペースでいくと、日銀が保有する国債残高は償還期限が来た分だけ自然と減少していくため、日銀が買わない分を他の機関が補填しなければ、国債市場に歪みが生じる可能性が出てくる。過去には民間銀行が買い手となる場面もあったが、現在の銀行には金利リスク規制(IRRBB)という制約があり、思うように国債を買い増せない事情があるのだ。
しかし、新たな買い手候補は存在する。国内金利が上昇傾向にあることで、これまで低金利のために海外投資に資金を向けていたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、国内債券への投資妙味を高める可能性がある。また、生命保険会社も、負債とのバランスを長期的に管理する「ALM」の観点から、国債の購入ニーズが必然的に出てくる。特に超長期債の取引は外国人投資家の比率が高いが、財務省が国債発行計画を市場状況に合わせて柔軟に調整することで、安定した市場を維持できるだろう。
Q. 政府主導の成長投資は、これまで成功事例が少ないと指摘されるが、日本経済を成長させるにはどのような戦略が必要か?
過去を振り返ると、政府主導の成長戦略が目覚ましい成果を上げた事例は乏しい。日本経済を真に成長させる鍵は、「民間の活力を最大限に引き出すこと」と「経済成長のボトルネックを的確に解消すること」にある。政府が直接、特定の産業や企業に大規模な資金を投入するのではなく、投資減税のように民間が自律的に投資しやすいインセンティブを与え、具体的な投資先は民間の判断に委ねる形が望ましいと言える。例えば、高度経済成長期の池田勇人内閣は、経済の「ボトルネック」となっていた国鉄の輸送力不足を高速道路建設などで解消し、経済全体を押し上げた歴史がある。
しかし、すべての分野で民間任せでよいわけではない。半導体やAIなど、国の安全保障に関わる経済安全保障分野は例外だ。短期的収益が見えにくく、民間だけでは投資が進まないこれらの領域では、世界的な潮流に乗り遅れないためにも、国が一定のリスクを取り、主導して初期投資を呼び込むことが不可欠となる。アメリカや中国に比べ投資額は劣るとしても、国内投資を促す税制を整備し、民間との協調を引き出すことで、日本の国際競争力を高めることが可能になるだろう。
Q. 実質賃金の安定的な上昇を目指す上で、高市政権の政策で最も強化すべき点はどこか?
高市政権の政策は、生産性向上や交易条件改善など良い点も多いが、実質賃金の安定的な上昇という最終目標から見て、最も踏み込みが不足しているのは「労働市場改革」であると専門家は指摘する。現在の日本は労働分配率が低下しており、これを改善するためには人の移動を活性化させる政策が急務となる。例えば、転職や兼業を促すインセンティブの付与、就職氷河期世代の支援にも繋がる求職者支援制度の利用基準緩和などが考えられる。現状では非正規雇用者が多く存在するが、都合のよい時間で働きたいニーズに応えつつも安定的な雇用を確保できる「多様な働き方が可能な正社員」の枠を増やす企業の努力を国が後押しすることも重要である。
今の若い世代は政治に対して、政策を曖昧にせず最後までやり遂げる「有言実行」の姿勢と、政治のプロセスを国民に分かりやすく伝える「透明性」を強く求めている。これは経済の動向が見えづらい中で、国民一人ひとりが自らの未来について判断するための重要な要素である。漠然とした不安を払拭し、前向きな希望を抱くためには、単なる数字の改善だけでなく、政策の背景にある考え方や実行への意思が国民に伝わることが不可欠だ。複雑な経済状況下で、政権には専門的な議論と同時に、未来を語り、具体策を粘り強く実行する姿勢が求められる。