PIVOT TALK BUSINESS
レアアース:中国覇権と脱中国戦略
(1155)
1.0万回視聴
2025年12月8日

経済安全保障の重要キーワード「レアアース」。世界の供給を握る中国の構造的な一強体制、高い精錬コスト、世界で広がる「脱中国」の最前線と日本の現状を解説。2026年試験掘削開始予定の南鳥島「レアアース泥」の商業化の課題についても考察し、日本が注力すべき戦略を示す。 ▼プロフィール 岡部徹|東京大学生産...
「レア」は名前だけ?なぜ中国がレアアースを独占し、日本の切り札はどこにあるのか
スマートフォンや電気自動車、さらには最先端兵器に至るまで、現代社会のあらゆるハイテク製品に不可欠なレアアースとレアメタル。米中貿易摩擦や経済安全保障の重要キーワードとして注目を集めるこれらの希少金属は、その多くを中国が独占している。なぜこのような状況が生まれたのか、そして資源の「真実」、さらにレアメタル分野における日本の真の強みと今後の戦略について、長年にわたりレアメタル研究を続けてきた第一人者が解説する。

Q. レアアースは名前の通り本当に「レア」な金属か?
まず、レアメタルとレアアースの定義を理解する必要がある。一般的な鉄や銅、アルミニウムなどを「汎用金属」と呼ぶ。それ以外の金属の多くが「レアメタル(希少金属)」である。レアメタルは、地球上に豊富に存在しても取り出すのが困難なもの(チタンなど)、そもそも資源的に少ないもの(白金など)、地層中に広く分散しているため採算がとりにくいもの(スカンジウム、バナジウムなど)の三つに分類される。
「レアアース」はレアメタルの中に含まれる元素群であり、周期表で「ランタノイド」と呼ばれる17元素を指す。この呼称から希少なものと誤解されがちだが、実際の資源量は陸上だけでも千年分以上、海底にはさらにその何百倍もの量が眠っている。したがって、その本質は資源量ではなく、採掘から製錬、廃棄物処理に至る「コスト」に問題があると言える。
Q. 中国がレアアース市場を圧倒的に支配しているのはなぜか?
中国がレアアース市場で一強体制を築いた背景には、低コストで製錬できる構造的な要因が存在する。1980年代には米国が世界最大のレアアース供給国であった。しかし、中国は環境規制が緩く、製錬工程で発生する有害廃棄物の処理コストを極めて低く抑えられたため、他国を圧倒する価格競争力を獲得した。

レアアースの鉱石から目的の金属を取り出す製錬過程では、ウランやトリウムなどの放射性物質を含む廃棄物が必ず発生する。日本や米国、オーストラリアといった先進国では、厳しい環境規制があるため、この廃棄物の処理に莫大なコストがかかり、商業ベースに乗せることが難しい。
つまり、先進国は、この「ヨゴレ仕事」ともいえる製錬を、環境コストの低い中国に事実上「押し付けてきた」と言える。その結果、中国は世界のレアアース製錬工程のほぼ全てを掌握し、現在の独占的地位を築き上げたのだ。採掘は他の国でも行われるものの、精錬を経て高純度な金属にする段階で、中国への依存度は依然として高い状況である。
Q. レアアースは私たちの日常生活や軍事においてどのように使われているのか?
レアアースの最大の用途は「高性能磁石」である。約40年前、日本人研究者が発明したネオジム磁石というレアアース合金磁石により、磁石の性能は飛躍的に向上した。これにより、モーターの劇的な小型化と高性能化が可能となった。今日の電気自動車(EV)が重い車体ながらも俊敏に走れるのも、スマホの微細な振動を発生させるのも、この高性能磁石によるものである。
パソコンのハードディスクドライブにも強力な磁力が必要なため、レアアース磁石が使われている。日常生活のハイテク機器に不可欠なだけでなく、軍事分野でもレアアースは極めて重要な戦略物資である。兵器には小型化・高性能化、さらに高い耐熱性や長期的な信頼性が要求されるため、民生用をはるかに上回るスペックの高性能レアアース磁石が不可欠だ。
Q. 南鳥島沖に眠る日本のレアアースはゲームチェンジャーとなるか?
日本最東端に位置する南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)で発見された海底レアアースは、確かに膨大な埋蔵量を有するとされる。2026年1月には試験掘削が始まる予定だが、これを商業的に利用して中国依存から脱却するのは非常に困難だと言わざるを得ない。その理由は「コスト」がすべてである。
レアアース資源は陸上にも大量に存在し、比較的安価に採掘可能な高品位の鉱石がある。一方で、南鳥島沖のレアアースは水深4000mという深海底にあり、鉱石の品位も決して高くない。深海からの引き上げ、国内への輸送、そして製錬と廃棄物処理にかかるコストは、陸上の資源から入手するよりも桁違いに高くなる。採算性を考えると、わざわざ高コストな深海資源に手を出す合理性がないのが現実だ。
ウクライナのレアアース開発に言及するようなトランプ元大統領の姿勢と同様、南鳥島のケースも政治的パフォーマンスや「夢とロマン」の域を出ない部分が大きい。資源開発においては、単なる埋蔵量という「光」の部分だけでなく、精錬と廃棄物処理という「影」の部分にかかる費用を冷静に評価する必要がある。
Q. 中国へのレアアース依存から脱却できる見込みはあるか?
技術的な観点からは、中国へのレアアース依存から脱却することは可能だ。レアアースは地球上の各地に広く存在するため、資源そのものがないわけではない。問題は、やはり精錬に伴う環境コストをどの国が負担するかという点に集約される。非中国サプライチェーンを構築するには、平時のコスト合理性を度外視してでも、「経済安全保障への保険料」として割高なコストを支払う覚悟が不可欠となる。

米国は、自国の豊富な資源と日本の高度な技術力(磁石の製造・応用技術など)を組み合わせた日米連携により、中国に依存しないサプライチェーン再構築を目指している。しかし、米国は国内に製錬施設をほとんど持たないため、そこをどう復活させるか、そして有害廃棄物をどう処理するかが最大の課題となるだろう。韓国やインドといった国々も、製錬技術や経験豊かな人材を日本に求めている。
国際情勢の不安定化に伴い、各国が自給自足や脱依存を模索する中で、「戦略的備蓄」の重要性も増している。特に軍事的な有事においては、レアメタルの供給途絶は致命傷となりかねない。真に危機感のある国は、平時の安価な時期にこそ、将来の戦争を見越して物資を備蓄している。日本においては、まだその認識が十分とは言えず、早急な対策が求められる状況だ。
Q. レアメタル市場における日本の真の強みと将来性は何か?
日本のレアメタル分野における真の強みは、高度な「精錬技術」と「環境技術」にある。日本は過去の公害問題から教訓を得て、世界でもトップレベルの有害物質処理技術を培ってきた。この技術力を活かし、現在日本は世界中から電子基板や使用済み触媒など「価値のあるスクラップ」を大量に輸入し、そこから高価な有価金属を回収して利益を上げる「都市鉱山」大国として機能している。
最新の研究動向としては、使用済みチタンのスクラップから鉱石由来のチタンよりも高純度な製品を作り出す「アップグレードリサイクル」が注目される。これはまだ基礎研究段階だが、日本独自の技術であり、航空機、戦闘機、原子力発電所の部品など、極めて高い純度が求められる分野での応用が期待される画期的な技術である。このような技術革新により、鉱石に恵まれない日本でも高付加価値金属の循環が可能となる。
実際に、日本は航空機用チタンで世界シェア約20%を誇り、ロシア・中国などを除いた西側諸国では最大の生産国という戦略的ポジションにある。また、半導体製造に使われるスパッタリングターゲットなどの電子材料用レアメタルにおいても、日本は高い国際競争力を維持している。こうした技術力を活かした高付加価値分野の育成こそが、日本の生きる道となるだろう。
Q. 今後、ビジネスパーソンがレアメタル・レアアースの動向で注目すべき点は何か?
今後のビジネスにおいて、レアメタル・レアアースの動向はますます重要になる。特に、EVシフトだけでなく、脱炭素社会の実現に向けたエネルギー革命、すなわち太陽光発電、風力発電、さらには小型モジュール炉(SMR)のような原子力発電など、あらゆる新しいエネルギーインフラの建設には、大量のレアメタルが不可欠である。風力発電のタービン、原子力炉の特殊部品など、これらの多くは「レアメタルの塊」である。これまでレアメタルは自動車産業で語られることが多かったが、今後はエネルギー分野そのものが巨大な需要源となることを理解する必要がある。

高性能なハイテク製品の進化と、エネルギーシフトの双方から、レアメタルの需要は爆発的に増加し、各国の取り合いがさらに激化することは避けられない。ビジネスパーソンは、従来の製品分野だけでなく、未来のエネルギー供給を支える基盤技術としてレアメタル・レアアースの戦略的価値が高まることに着目し、国際情勢の動きも視野に入れた上で、事業戦略を構築することが求められる。