PIVOT TALK LIFE
増加する「新自由主義右翼」の正体
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2026年1月17日

かつて一億総中流と言われた日本社会が、格差拡大で新たな階級社会へと移行している。拡大する非正規雇用の新階級「アンダークラス」とは?格差拡大による社会への影響は?社会学者の橋本健二氏に聞いた。 ▼プロフィール 橋本健二|社会学者 早稲田大学 人間科学学術院教授。専門は理論社会学。東京大学教育学部卒業...
複雑化する日本の政治意識:見過ごされてきた「新自由主義右翼」と「格差」を巡る戦い
日本社会は近年、所得格差の拡大や社会の分断といった課題に直面している。こうした中で、有権者の政治意識も単純な「保守」「革新」といった二元論では捉えきれないほど複雑化しているのが実情である。本記事では、独自の調査結果に基づき、日本人の政治意識を五つの類型に分類し、特にこれまであまり注目されてこなかった「新自由主義右翼」という層の出現が、いかに日本の政治、特に自民党の政策に大きな影響を与えているのかを分析する。その上で、格差問題がなぜ解消に向かわないのか、そして国民一人ひとりが今後どのように行動すべきかを探究する。現代日本の政治の根源にある構造的問題を浮き彫りにし、私たちの社会が直面する課題の本質に迫る。

Q. 日本人の政治意識はどのように分類されるか?
広範な政治意識調査の結果、日本人の政治意識は主に六つの設問への回答パターンに基づき、「リベラル」「伝統保守」「平和主義者」「無関心層」「新自由主義右翼」の五つのクラスター(類型)に分類された。これらの設問は、所得再分配の是非、憲法改正と日米軍事協力の評価、そして排外主義的感情の有無という三つの主要な争点を中心に構成されている。

最も比率の高いのは「リベラル」層で26.4%を占め、次いで「伝統保守」層が21.0%となっている。これら二つの層は、いずれも格差縮小策や所得再分配に賛成する傾向が強い。一方で、「新自由主義右翼」と呼ばれる層は13.2%を占め、格差拡大容認、憲法改正・日米軍事協力への賛成、強い排外主義的傾向を持つ点で他の層と一線を画す。その他、「平和主義者」は憲法改正に強く反対するものの、他は中立的な立場を取り、「無関心層」はすべての質問に対して明確な意見を持たないのが特徴だ。この新たな分類は、従来の保守・革新の枠を超えた現代日本の政治意識の多面性を明らかにする。
Q. 新自由主義右翼とはどのような層か?その実態と特徴とは何か?
新自由主義右翼は、日本社会において極めて特徴的な属性を持つ政治意識層として浮上した。彼らは所得再分配に強い抵抗を示し、格差拡大を容認する立場にある。同時に、憲法改正による軍隊保持、沖縄の米軍基地集中といった安保体制の強化を強く支持する。また、「自国居住地域に外国人が増えることに抵抗がある」「特定の外国の国や民族に対してネガティブな感情を持つ」など、強い排外主義的な傾向が見られる点も顕著だ。
この層の属性は他のクラスターと比較して明確な差を示す。性別では男性の比率が67.3%と極めて高く、学歴では大卒者の比率が66.4%と最も高い。さらに、平均世帯年収は800万円を超え、平均資産総額も3億370万円と他の層を圧倒する高水準にある。つまり、新自由主義右翼とは、高い学歴と収入、資産を持つ男性が中心をなす「経済的強者」であり、「自身の利益」に繋がる格差拡大や小さな政府を志向し、伝統的な日本の安全保障政策やナショナリズムに深く傾倒していると言える。彼らは政治的には非常に活発であり、国政選挙で毎回投票する傾向が他のどの層よりも強い。
Q. なぜ自民党は「新自由主義右翼」を優遇し、格差是正に消極的なのか?
新自由主義右翼は全体の13.2%と少数派であるにもかかわらず、自民党にとって極めて重要な支持基盤だ。彼らの自民党支持率は53.0%と突出して高く、かつ投票率も非常に高いため、自民党の支持者に占める割合は23.5%と大きく、「お得意様」とも称される固定票となっている。自民党はこの層の支持を失いたくないがゆえに、彼らの意向を強く汲んだ政策、特に格差縮小に消極的で右派的な政策を優先する傾向がある。

安倍晋三政権下では、この新自由主義右翼の存在が顕在化し、政権の政策を強く後押ししてきた。いわゆる「岩盤保守」と呼ばれてきた層の正体は、この新自由主義右翼と重なる。彼らの主張は、経済成長を優先し、小さな政府を志向すると同時に、安全保障やナショナリズムを前面に押し出す。自民党は彼らの票を確固たるものとするため、結果として国民全体の幅広い意見よりも、この層の意見を政策に反映させるインセンティブが強く働いてきた。
Q. 自民党は、自民党内の多数派である「伝統保守」よりもなぜ「新自由主義右翼」の意見を聞くのか?
自民党の支持基盤をみると、「伝統保守」層は全体の21.0%を占め、自民党支持者に占める割合は28.0%と、新自由主義右翼よりも構成比率が高い。しかも、伝統保守層も格差縮小に賛成する傾向が強く、本来であれば自民党は彼らの意向を汲んで格差是正に前向きな政策を取るはずである。しかし現実には、新自由主義右翼の意見が優先される状況が続いてきた。この背景には、現代の選挙における投票率の低さが関係している。
国政選挙の投票率は50%台と低く、自民党の比例区での得票率は約3割にとどまる。このような状況下では、確実に投票所に足を運び、特定の政策に賛同する新自由主義右翼の票は、自民党の総得票数の約半分を占めるほどの重みを持つことになる。多数の国民が漠然と「格差是正」を望んでも、それを特定の政党に強く求める行動が伴わない場合、その意見は政策に反映されにくい。
また、近年は自民党の支持層だった新自由主義右翼の一部が参政党など他の右派政党に流れる動きもみられる。これは、参政党が彼らの排外主義的・右派的主張をより先鋭的に代弁していると感じられたためだろう。この支持層の流出に危機感を覚えた自民党は、高市早苗氏のような保守派の人物を要職に起用するなど、さらなる右傾化の姿勢を示すことで、この「お得意様」を取り戻そうと躍起になっている。この政治力学が働く限り、多数派である国民が望む格差是正の動きはさらに停滞する可能性が高い。
Q. 格差是正を実現するために、日本の政党システムはどのように変わるべきか?
格差是正が進まない根本的な原因の一つは、国民の政治意識の分布と、現在の政党システムが整合していないことにある。現状の自民党は、格差縮小に賛成する「伝統保守」と、格差拡大を容認する「新自由主義右翼」という、互いに矛盾する支持層を内包しており、政策決定においてねじれや不透明さを生み出している。
このような状況を打開し、国民の世論が忠実に反映される政治を実現するためには、政党システムの再編が必要だ。具体的には、「リベラル」層を主な支持基盤とする野党勢力、そして本来の「伝統保守」層を中核とする自民党のような保守政党がそれぞれ明確な路線を持つ。そして、「新自由主義右翼」を支持基盤とする、ある程度の規模を持った少数政党が存在する、という三つの勢力に分かれた構図が理想である。
このようなシステムが構築されれば、多数派を形成するリベラル層と伝統保守層は、それぞれが支持する政党を通じて「格差是正」という共通の目標に対し協調しやすくなる。もちろん、憲法問題などのイデオロギー的な対立軸は残るだろうが、社会福祉や所得再分配といった実生活に直結する政策では合意形成が容易となり、より強力な格差縮小策の実行が可能となる。これにより、現在の政治的膠着状態を打破し、民意が政策によりダイレクトに反映されるようになるだろう。
Q. 格差拡大はなぜ「他人事」ではないのか?
格差拡大の問題は、単に経済的に困難な人々だけの問題ではない。社会全体の持続可能性と健全性を揺るがす「自分事」として、すべての国民が認識すべき重大な課題である。格差が広がると、社会全体から連帯感が失われ、人々の幸福度や健康状態が悪化し、犯罪率の増加にもつながるという社会的コストが高まる。不健全な社会では、結果的に全員が生きづらさを感じるようになる。

さらに深刻なのは、現在の格差構造が未来の社会保障制度を脅かす点だ。現在のアンダークラスの人々が将来的に高齢者となった際、貯蓄が十分でないために生活保護制度への依存度が高まることが予想される。これは、今後の社会保障費の大幅な増加を招き、次世代以降の現役世代に重い負担としてのしかかることになる。
また、社会の階級構造が固定化し、アッパーミドル層や資本家層といった経済的に恵まれた家庭の子供であっても、一定の確率でアッパー層への移行に失敗すればアンダークラスに転落するリスクが生じる。現状、一定規模のアンダークラスが存在し続けると、既存の階級構造を維持するためには、常に他階級からの転落者が一定数必要となるためだ。
つまり、格差是正は、社会の連帯を強化し、健全な社会システムを維持し、将来世代に負の遺産を残さないために、全ての人々の利益に繋がる施策である。この本質的な理解を国民全体が深め、格差縮小策を真正面から打ち出す政党に投票行動を向けることが、日本の未来を決定づける上で不可欠となる。