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2050年の覇権通貨・4つのシナリオ
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2025年12月13日

現在の基軸通貨である米ドル。その地位と影響力はこれからも安泰なのか?それともドルに変わる新たな「覇権通貨」が生まれるのか?基軸通貨の歴史を紐解きながら、東京大学大学院客員教授の宮崎成人氏に聞いた。 ▼プロフィール 宮崎成人|東京大学大学院 客員教授 1984年大蔵省(現・財務省)入省。主計官、国際機...
2050年の覇権通貨・4つのシナリオ
今日の記事では、世界経済における「覇権通貨」の未来に焦点を当てる。米ドルの一強時代は終わりを告げるのか。人民元やデジタル通貨がその座を奪うことはあるのか。複雑に絡み合う地政学と経済の動向が通貨の未来をどのように形作るのかを読み解く。本稿は、2050年までに想定される4つのシナリオと、激動の時代を生き抜くための個人の視点を示す。
Q. 人民元は今後、基軸通貨としてのドルの地位を脅かすことはあるのか?
結論から言えば、人民元がドルを「殺す」ことはないと予測される。中国は貿易相手国との人民元建て貿易を推進するが、そのメリットは一部の国に限られる。先進国が人民元建て貿易を拡大するインセンティブはほとんどなく、現時点ではドル、ユーロ、円、ポンドを基盤とした安定した金融秩序が存在しているからだ。
人民元建てでの投資やデリバティブ商品組成に関しても、現段階ではインセンティブがない。これは、中国の厳格な資本規制が、人民元の国際通貨としての信頼性を著しく損なっているためだ。かつて中国が主導した「一帯一路」政策の勢いも鈍化しており、人民元の影響力は中国周辺の限られた国々に留まる。世界規模でドル覇権を揺るがすほどの広がりは見込めないというのが専門家の見解だ。
Q. なぜグローバルサウスが、今後の覇権通貨の行方を左右する鍵となるのか?
現在の世界は大きく三つのグループに分かれている。第一にアメリカを中心とする自由主義陣営、第二に中国やロシアを中心とする既存秩序に挑戦する勢力、そして第三が「グローバルサウス」と呼ばれる、どちらの陣営にも属さない多数の国々だ。

グローバルサウスの国々は、過去の「後進国」という枠には収まらない多様性を持ち、鉱物資源や地理的な要衝といった強みを通じて、経済的に豊かになりつつある。これにより、米中両国は自国の影響圏拡大のためグローバルサウスへの働きかけを強めている状況だ。その「無党派層」とも言えるグローバルサウスの動向が、今後の国際秩序と覇権通貨の行方を決定する重要な鍵を握るだろう。
Q. ビットコインやステーブルコインなどのデジタル通貨は、既存の通貨秩序にどのような影響を与えるのか?
結論として、デジタル通貨が既存のドル基盤の秩序を大きく覆す可能性は低い。ビットコインは極端な価格変動のため、投機対象止まりで経済活動の基盤たりえない。エルサルバドルの事例は、その通貨としての不安定さを示している。

ステーブルコインは法定通貨に裏付けられ価値は安定しており、決済の効率化や手数料削減にメリットがあるため普及するだろう。しかし、その本質は「デジタル化されたドル」であり、ドル覇権を補完する存在に過ぎない。各国での規制整備で利用は拡大する一方、マネーロンダリング対策が課題となる。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、国家発行のデジタル通貨であり、あくまで既存通貨のデジタル化である。預金への上限設定といった制約も想定され、通貨の序列を本質的に変えるものではない。その進展は各国の政策次第で、アメリカでは一時下火だが、欧州や中国では推進している。
Q. 2050年の世界では、覇権通貨を巡るどのようなシナリオが考えられるのか?
2050年の通貨覇権を予測するには、主に「米国の議会機能の維持」と「中国の金融規制の自由化」という二つの軸が重要になる。この組み合わせにより、四つのシナリオが想定されている。

【シナリオ1:米中Win-Winの理想世界】
米国政治が機能し、中国が金融規制を自由化する世界。グローバリゼーションが再来する理想的な状況だ。ドルと人民元が共存し、ユーロは現状維持が精一杯と見込む。
【シナリオ2:ドル一強継続の世界】
米国政治は機能するが、中国が体制強化(金融規制維持)に動く世界。中国の魅力低下に伴いグローバルサウスが米国陣営に接近し、ドルの一強体制が維持・強化される見込みだ。
【シナリオ3:三極化の世界】
米国が政治機能不全に陥り信用力が低下する一方、中国が自由化を進める世界。ドルの信用低下に伴い、消去法的にユーロの活用が進む可能性がある。自由化された人民元も台頭し、ドル・ユーロ・人民元の三極化に向かう。先進国はユーロを重視する傾向だ。
【シナリオ4:群雄割拠の時代】
米国が政治機能不全に陥り、中国も規制を強化し内向きになる最悪の未来だ。政治的混乱と保護主義が世界を覆い、特定の覇権通貨が存在しない分裂した時代となるだろう。複数のブロック経済圏が形成され、通貨はそれぞれ分立し「群雄割拠」の状態に陥る可能性が高い。現在の状況は米国政治の混乱、中国の規制維持の兆候から、このシナリオへの傾斜が専門家の間で指摘されている。米国が債務デフォルトに陥れば、世界は大不況に直面し、日本円を含む全通貨が甚大な打撃を受ける。
Q. 今後の世界経済には、どのような潜在的リスクが潜んでいるのか?
現在の世界経済はAI投資ブームで一見好調だが、これには「AIバブル」の懸念がつきまとう。さらに潜在的なリスクとして、実態が不透明な「プライベートクレジット」市場の拡大がある。AI関連企業は高収益だが、その周辺企業や投資家の中には、プライベートクレジットを利用し大胆な投資を行う者も少なくない。
もしAIバブルが崩壊した場合、この不透明なプライベートクレジット市場が大きなダメージを受け、それらに貸し出しをしている金融機関の健全性に影響を与える可能性を秘める。これが崩壊すれば、2008年のリーマンショック級の金融危機に発展する可能性もある。FRB下支えにも限界がある状況だ。
Q. 激動の時代を個人として生き抜くために必要な心構えとは何か?
「群雄割拠」のような激しい変動と不確実性に満ちた時代が到来する可能性が高い中で、国や政府に完全に依存する姿勢は見直すべきだ。重要なのは、「個人がどうやってこの時代を生き抜くか」という視点を持つことである。

そのために不可欠なのは、「個人の競争力」を高める努力である。どのような状況下でも価値を発揮できるスキルや専門性を磨くべきだ。また、世界が分断され多様な意見が衝突する中で、一方的な情報に囚われず、自分と異なる視点や意見にも積極的に耳を傾け、多角的に物事を捉える「リテラシー」を養うべきである。情報過多の時代だからこそ、幅広いアンテナを張り、本質を見抜く力を磨くことが、未来を生き抜くための鍵となる。