PIVOT TALK BUSINESS
介護の質はなぜ上がらない?
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2025年11月26日

介護人材の不足や介護離職が問題になる現代。 産業構造に介護の質が上がらない原因があった? EEFUL代表・森山穂貴氏に介護の今を直撃。 <ゲスト> 森山穂貴|EEFUL ホールディングス代表 東大社会心理学研に在籍。LINEでPM業務に従事。トークタブ企画や実装に携わる。2023年にemomeを創...
23歳東大生が斬り込む「クオリティなき介護業界」の構造課題と未来への処方箋
EEFULホールディングス代表取締役の森山穂貴氏は、介護業界が抱える深い課題を、その若さと新しい視点で冷静に分析する。彼はなぜこの「泥臭い」と言われる業界に飛び込み、どのような未来を描いているのだろうか。本記事では、介護現場のリアル、そして構造的な課題をQ&A形式で深く掘り下げ、業界が目指すべき方向を探る。

Q. なぜ23歳東大生が介護ビジネスに参入したのか?
森山氏のビジネスの柱は、介護施設向けSaaS「シニアカレッジ」と、M&Aも活用しながらの介護事業所運営である。彼自身がまだ大学に在籍中の23歳であり、日本のスタートアップ界で注目を集める存在となっている。この若さで介護業界に深く関わる背景には、10年以上を海外で過ごした経験がある。日本が「下がっていく」と語られる現状に危機感を抱き、日本のプレゼンスを高めたいという強い思いが根底にあった。
起業初期には苦戦を経験したものの、家業である介護事業の現場を手伝う中で、「この産業で自身が貢献できること」を実感したという。この確信が、彼を介護ビジネスの道へと導いたのである。
Q. 介護業界が抱える最も本質的な課題は何だと考えるか?
介護業界には、人手不足をはじめとする多様な課題が存在する。しかし、森山氏は最も深刻な問題を「産業全体としてクオリティが上がらない構造」にあると指摘する。これは、サービスを提供する個人や事業所が努力し、良いサービスを提供しても、それが正当に評価され、報酬として還元される仕組みが確立されていない点に起因する。頑張りが報われない状況は、結果としてサービスの質向上への意欲を削ぎ、産業の成長を停滞させているという見解だ。
Q. 介護に関わる社会保障費の現状をどう捉えているか?
社会保障給付費全体を見ても、介護費用の伸び率は突出して高く、国家財政を圧迫する要因の一つである。現状、高齢者1人を支える現役世代の負担は増え続けており、将来的には「1人の若者が1人の高齢者を支える」時代が到来すると予測される。特に衝撃的な事実は、介護費用が介護保険料だけで賄われているわけではない点だ。実際の費用の約半分は税金を含む「公費」で賄われており、もし全額を保険料で賄おうとすれば、現在の約2倍の徴収が必要になる計算だ。これは、介護問題が全世代、特に若年層の資産形成に直結する喫緊の課題であることを示唆している。

自身もいずれは介護を受ける側になるか、親の介護に直面する可能性があるため、20代、30代であっても無関心でいることはできない。目先の手取りを増やすために社会保険料の納付を怠ると、老後に国からの恩恵が減少するリスクも高まる。つまり、介護問題は、個人の人生設計において不可欠な要素となっているのだ。
全ての高齢者が介護を必要としているわけではない点にも注目すべきである。75〜85歳では介護を受けている割合が10〜20%に過ぎず、85歳を超えてようやく半数程度になる。このことは、介護予防や、介護が必要になる前のアクティブシニア層を対象としたサービス展開に大きな可能性があることを示唆している。
Q. 介護保険制度において、私たちがまず知るべきことは何か?
介護サービスを利用するためには、「要介護認定」を受ける必要がある。この認定プロセスへの最初の入り口は、各市区町村に設置されている「地域包括支援センター」だ。ここで相談し、必要な手続きを経て、医師による診断や審査が行われる。そして、介護保険サービス利用の可否や程度が決定されるのである。
要介護認定が下りると、次に重要な役割を果たすのが「ケアマネージャー」である。彼らは利用者の介護サービス計画(ケアプラン)を作成する、いわば介護のコンサルタントだ。しかし、このケアマネージャーのサービスは利用者にとって無料で提供されるため、サービスの質が評価されにくい構造的な問題が潜んでいる。

さらに、一部の介護サービス事業者がケアマネージャーを自社で雇用し、自社サービスに利用者を優先的に紹介する「囲い込み」行為が業界全体の約半分で横行している。これは産業の健全な競争原理を阻害し、サービスの質の向上が停滞する大きな原因となっている。制度本来の目的が、「介護する家族の負担軽減と経済損失の防止」にあることを鑑みれば、このような状況は非常に由々しき事態だと言わざるを得ない。
Q. 介護サービスの質向上を阻む「逆インセンティブ」とはどういう仕組みか?
介護保険制度には、高齢者の要介護度が高いほど介護サービス事業者の収益が増えるという「逆インセンティブ」が存在する。介護サービスは、要支援1から要介護5までの7段階で区分され、それぞれに利用できるサービスの上限ポイントが設定されている。要介護度が上がるほど、この上限ポイントも引き上げられるため、事業者はより多くのサービスを提供し、収益を増やせる構造になっている。

この制度は、利用者の状態改善よりも、要介護度を維持あるいは悪化させる方が事業者にとって経済的なメリットがあるという矛盾を生む。場合によっては、認定審査の際に、利用者にあえて調子の悪いふりを促すといった本質からかけ離れた行動を引き起こしかねない。事業者も生き残りのためには収益確保が必要であり、この制度設計自体に根本的な課題がある。利用者を「元気にすること」がインセンティブとして評価されない限り、この歪みは解消されない。
この課題を解決するためには、利用者の要介護度が改善した場合に、事業所に対して「加算」として報酬を付与する仕組みが不可欠である。例えば、大阪府など一部の自治体では、このような改善に向けたインセンティブ付与の検討が進んでおり、元気な高齢者を増やす努力が正当に報われる制度への転換が期待される。
Q. 介護人材が減少している原因と、その改善策は何か?
介護人材の離職理由として一般にイメージされる重労働や夜勤だけでなく、実は「人間関係」が大きな要因となっている。介護の現場は密接な人間関係の中で業務を行うため、新人への陰口やハラスメントが発生しやすい閉鎖的な環境があるという。

かつて介護人材は増加傾向にあったが、ここ2、3年で初めて絶対数が減少に転じた。これは、介護保険制度が開始された2000年頃に業界に参入した層が定年退職を迎える時期と重なり、同時に若年層の新規参入が減っていることが原因である。需要が高まる一方で、供給が減るこの状況は、社会にとって非常に危機的である。
この状況を打開するためには、介護職のイメージ変革が急務だ。一般には「重労働で大変」という側面が強調されがちだが、実際の現場では要介護度が低い利用者に対しては、買い物同行や食事、会話のサポートなど、コミュニケーションを主体とする業務も多い。まるで「おじいちゃんおばあちゃんと接する」ような温かい側面もあることを、業界全体が積極的に発信し、魅力をマーケティングしていく必要があると森山氏は強調する。
Q. 介護業界の未来を切り開くために何が必要か?
まず、人材確保の面では、給与向上と「キャリアラダー(キャリアパス)」の整備が不可欠である。従業員が長期的なキャリアプランを描け、スキルアップに伴って報酬が上がる明確な道筋を示すことは、他産業では当たり前の要素であり、介護業界もこれを導入する必要がある。

森山氏は、介護業界の歴史がまだ25年と浅いことに着目する。他産業でも過去に、業界の課題をブレイクスルーする企業や経営者が現れ、大きな変革を遂げてきた歴史がある。アパレル業界におけるファーストリテイリングのような存在が介護業界にも現れれば、この産業も大きく発展する可能性を秘めていると森山氏は指摘する。
そして、最も不足しているのは、現場の介護職だけでなく、業界の魅力を効果的に発信し、近代的な組織運営を実現できる「経営者」だという。M&Aなどを通じて経営の担い手を増やし、新しい発想やテクノロジーを取り入れながら、業界全体を変革していく視点が求められる。海外で進む、医療・商業施設を併設した「CCRC(継続ケア型リタイアメントコミュニティ)」のような、シニアの生活全体を支える多様なビジネスモデルも日本で普及する可能性を秘めている。