PIVOT TALK MONEY
円安は止まらない。介入ラインは165円
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2025年11月22日

高市政権誕生後に加速する円安。その背景には要因は何か?来年以降もこのトレンドが続くのか?介入はありうるのか?為替ストラテジストの佐々木融氏に聞いた。 ▼プロフィール 佐々木融|ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト 92年上智大卒、日銀入行。94年から97年まで国際局為替課にて市場...
「独歩安」円の行方は?円安・ドル高トレンドの深層と今後の展望
PIVOT MONEYでは、福岡フィナンシャルグループのチーフストラテジスト佐々木融氏を招き、止まらない円安の行方を深掘りした。直近では対ドルで157円、対ユーロで180円台を突破し、再び注目を集める円安。その背景には、円の独歩安だけでなく、米ドルの強さも複合的に作用しているという。日本円の構造的な弱さ、日銀が利上げに踏み切れない事情、そして米経済の力強い見通しからなるドル高トレンド。これら複雑に絡み合う要因をQ&A形式で解き明かし、為替介入の可能性と今後の円相場の展望について考察する。

Q. 最近の円安進行の主な要因は何でしょうか?
直近の円安進行は、主に高市政権発足以降の日銀による利上げ期待の後退と、米ドルの独歩高の複合的な影響を受けている。円は高市氏が自民党総裁に就任して以降、主要通貨に対して「独歩安」の状況にあるのだ。特に年間の通貨騰落率を見ると、日本円は年所から見ても最弱通貨に位置する。2021年には主要10通貨中最も弱く、2022年9位、2023年10位、2024年8位と続き、今年でほぼ5年連続の最弱通貨となる見通しである。ドル円相場は、ドルの強さと円の弱さという両方の要因で上昇しているといえよう。今年の年初から4月頃まではドル安・欧州通貨高の傾向があったため、ドル円では円安が目立たなかったが、スイスフランやユーロなど対欧州通貨では歴史的な安値を更新する円安が進んでいる。

Q. 日銀の利上げ期待はなぜ後退したのでしょうか?
日銀の利上げ期待の後退は、主に高市氏の自民党総裁就任が発端であった。就任直前の10月3日時点では、12月の決定会合での利上げを市場の7割強が織り込んでいたのだ。しかし、政権発足後に利上げ期待は徐々に後退し、10月29日(日銀の金融政策決定会合前日)には4割弱まで低下。11月20日時点では、12月の利上げ織り込みは2割弱となっている。この急激な後退は、高市氏と日銀の上田総裁との会談、さらには他の主要関係者との会談で利上げに関する明確な発言がなかったことが背景にあると分析できる。市場は、この会談で円安是正に向けた「利上げの圧力」を期待したが、その兆候が見られず、結果として利上げ期待が大きく後退した。ただ、マーケットは来年1月、3月の年度末にかけての利上げ、そして来年後半にもう1回程度の利上げはまだ織り込んでいる。もしこの期待通りの利上げが行われなければ、さらなる円売り圧力に繋がるリスクも存在する。

Q. 円安の根本的な原因は何だと考えられますか?
円の弱さの根本的な背景は、インフレ率を加味した「実質金利」が大幅なマイナスであることだ。物価が上昇しているにもかかわらず政策金利が低い現状では、日本円を保有するメリットが極めて小さくなる。1回や2回の小幅な利上げ程度では、この構造的な円安トレンドを止めることは難しい。アベノミクス1.0が始まった当時(2012年末)は、ディスインフレ、円高、実質金利ゼロ近辺であったが、現在は高インフレ、円安、大幅なマイナス実質金利という全く異なる経済状況である。ここで財政拡張を伴うアベノミクス2.0のような金融緩和を続ければ、さらなる円安を招く危険性が高まるだろう。ただし、直近で話題となった20兆円を超える財政拡張は、為替相場への直接的な影響は小さい。為替市場は継続的な拡張財政に慣れており、短期的な反応は債券市場ほど敏感ではない。財政拡張はむしろ国債増発への懸念から、日本の長期金利(10年国債利回り)を押し上げる主要因となっている。実際、日本の10年金利は2008年6月以来17年半ぶりの高水準まで上昇しているのだ。
Q. 日銀が利上げに踏み切れない背景には何があるのでしょうか?
日銀が利上げに消極的な最大の要因は、現在の政権からの「利上げをしてほしくない」という暗黙の政治的圧力だと推察される。経済の足元の弱さや関税問題、国際情勢の不透明感なども要因には挙げられるが、高市政権全体として、利上げに慎重な姿勢を日銀に求めている雰囲気が強いと見られる。このような状況下で仮に利上げを行い、それが原因で経済が減速すれば、日銀は世間からの批判を免れないだろう。本来であれば、インフレ率3%、政策金利0.5%、実質金利マイナス2.5%という、先進国としては異例の状況を是正すべきである。政治的圧力がなければ、上田総裁も日銀全体としても、既に利上げに踏み切っていた可能性は高い。もし仮に小泉氏のような別の人物が総裁になっていたならば、円安の進行度合いは現在とは異なっていたかもしれない。上田総裁を含む日銀の金融政策担当者たちは、物価安定という使命に基づき、本音では利上げすべきと考えていると考えられる。
Q. ドル高トレンドが続く背景にあるアメリカ経済の動向について教えてください?
最近のドル高は、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ期待後退が主要因だ。10月16日時点では来年末までに4回以上の利下げが織り込まれていたが、FRB高官のタカ派的な発言が相次ぎ、現在はその期待が大きく後退している。来年の米国経済が強いと見られる理由は主に三つある。第一に、トランプ前政権時代の減税策「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」の減税効果が来年出てくる。第二に、日本やEUが米国に対して約束した大規模な直接投資が実行される。これは約5500億ドルの対米投資であり、実需面でドル高を後押しする。第三に、関税によるインフレ圧力だ。これによりインフレ率が押し上げられる見込みである。これらが複合的に作用し、米国経済は強い状況を維持すると予想される。FRBは政治的な圧力に屈せず、あくまで経済のファンダメンタルズに基づいて政策を決定するだろう。経済が強く、インフレ圧力が高い状況であれば、次期議長が誰であっても安易な利下げは行わないと見られる。さらに、AI関連企業の好調な業績や、それらを大手IT企業が買収する動きによって、株式市場の利益拡大や資産効果が米国経済の力強い下支えとなり、ドル高をサポートする可能性が高い。
Q. 今後、為替介入が行われる可能性やその効果をどう見ていますか?

現在のドル円相場は、もはや金利差だけでなく、実需や投機を含む「需給」によって動いている。高市政権発足以降、日米金利差は縮小傾向にあるにもかかわらず、日本の大幅なマイナス実質金利を嫌気した円売り・ドル買いが加速し、ドル円は上昇を続けている。さらに、今後日本企業が約束した対米直接投資が本格化すれば、資金の半分程度が円売りドル買いに転じると見られており、ユーロ圏からの対米投資も含め、更なるドル高・円安要因となる。為替介入については、前回1ドル160円台に迫る水準で実施されたが、変動相場制を原則とする日本では、安易に前回の水準で介入を行うことは考えにくい。次に介入があるとすれば、165円を超える水準まで上昇するまで待つ可能性が高い。ただし、過去の事例を見ても、ドル高基調が続く中で単独介入を行っても効果は限定的である。介入が円安トレンドを反転させるのは、米国のインフレ指標が予想を下回るなど、FRBの利上げ期待が後退し、ドル安トレンドに転換したタイミングがほとんどであった。現在のドル高トレンドが続く中で、効果が不確実な介入を行えば、投機筋による更なる円売り攻撃を誘発するリスクすらある。本質的には、大幅なマイナス実質金利という政策が継続されている中で、介入だけを行っても為替を安定させることは難しいだろう。介入を行うならば、同時に利上げを行うことが必要だと考える。しかし、介入だけでは「いびつな政策」にしかならない。
Q. 長期的な視点で見た円相場の行方はどうでしょうか?
円が今年でほぼ5年連続「最弱通貨」となる見通しであり、これは過去に一度もなかった異常事態である。この構造的な円安トレンドを根本的に止める唯一の方法は、日銀がインフレ率に見合う水準まで大幅に利上げし、実質金利をゼロに戻すことだ。現在のインフレ率3%を考えると、政策金利を3%程度まで引き上げる必要があるが、これは現状では極めて非現実的なシナリオといえる。為替要因によって日銀が利上げに追い込まれる可能性は十分にあるが、それは「通貨価値の安定」という本来の役割を果たすための方便となりうる。しかし、実質金利をゼロにできるほどの大幅な利上げは難しいと考えられる。したがって、今後1、2回の小幅な利上げがあったとしても、実質金利の大幅マイナスという根本的な問題が解決されない限り、円安トレンドは継続するだろう。来年も円が主要通貨の中で最も弱い状態であり続ける可能性は非常に高いと予測される。ドル円相場だけを見ていると円の弱さを感じにくいかもしれないが、ユーロやスイスフランなどの対欧州通貨では、既に史上最高値圏で円安が進行していることからも、円の構造的な脆弱性が明確に示されている。