PIVOT TALK BUSINESS
日中対立のビジネス影響。訪日消費7割減、いつまで続くか?
(885)
9,257回視聴
2025年11月21日

日中対立の余波により、中国からのインバウンド客が急減している。この影響はいつまで続くのか?今後、どんなビジネスへの影響が想定されるのか?楽観、平均、悲観の3つのシナリオに基づいて、中国ビジネスの専門家である、濱野智也NOVARCA社長に予測してもらった。 <ゲスト> 濵野智成|NOVARCA CE...
激化する日中対立の現状とビジネスへの影響:企業が取るべき戦略
近年、緊迫度を増す国際情勢はビジネス環境にも多大な影響を及ぼす。中でも日中関係の悪化は、日本経済に直接的かつ深刻なインパクトを与え始めた。中国への依存度が高い分野は今、そのリスクと直面している。今回の対立がどのような経緯で発生し、現在どのような影響を日本ビジネスにもたらしているのか。また今後考えられるシナリオや企業がとるべき戦略について深掘りする。

Q. 今回の日中対立はどのように始まり、現状まで進展したのか?
高市氏の台湾有事に関する発言に対し、在大阪中国総領事が過激なツイートで反応したことが今回の対立の発端だ。これに対し、日本政府は総領事のツイートを「不適切」だと抗議し、中国政府は高市氏の発言撤回を要求したため、両者の主張は平行線をたどった。
この論点のずれが対立をエスカレートさせ、中国は実力行使へと踏み切った。報復措置として航空会社への圧力を通じ、約49万件もの訪日便チケットがキャンセルされた。
特に旅行代理店が手配する団体旅行が大きく制限され、中国からの訪日が物理的に困難となる状況が作り出された。これは単なる勧告に留まらない、実質的な渡航制限である。

Q. 中国国内の世論やSNSは、今回の対立をどう捉えているのか?
政治的な対立が深まる一方で、中国のSNS(小紅書など)では訪日観光に関する口コミが急増している。ネガティブな意見だけでなく「行きたいのに行けない」といった日本の旅行への高い関心を示すポジティブな投稿も同様に増加した。
口コミ全体の傾向としては、中立的な意見が約6割を占め、反日層と親日層がそれぞれ約2割ずつ拮抗する形だ。これは中国国内の世論が以前よりも多様化している現実を映し出している。
しかし、中国の言論空間では政府批判が厳しく制限される一方で、他国への批判は比較的自由に表明できるという特性がある。このため、表面的な反日意見だけで中国世論の全体像を把握するのは難しいと専門家は指摘する。

過去にはアルプス処理水問題で世論が過熱した際、中国政府が過度なネガティブ発言を抑制するよう指導した例も存在する。今回の対立でも、同様の展開があり得る可能性は排除できない。
Q. 現在の訪日制限は、日本のビジネスにどれほどの影響を与えているのか?
中国人観光客は、日本のインバウンド消費において極めて重要な存在である。訪日外国人消費額の約24%を占め、その規模は年間1.6兆円にも上る巨大な市場であった。
今回の渡航制限により、中国人観光客の訪日数は7割程度減少する見込みだ。これにより、特に書き入れ時である年末の紅葉シーズンを迎える日本の観光業や小売業界は甚大な経済的打撃を受けることは避けられない。
これまで中国からの訪日客数はコロナ前の水準にまで回復し、過去最高を更新すると期待されていたが、今回の事態によりその成長トレンドは大きく失速し、先行きは不透明となった。

Q. 今後の日中関係の展開について、どのようなシナリオが想定されるか?
楽観シナリオでは、両国が早期に「大人の和解」に至り、渡航制限が短期間(約2ヶ月)で解除され、来年2月の春節(旧正月)には中国からの観光需要が回復に向かう展開が考えられる。
中立シナリオでは、対立が過去の尖閣諸島問題のように長期化し、約1年間(2024年いっぱい)は中国人観光客の大幅減が続く事態となるだろう。この場合、インバウンドへの悪影響は避けられない。
悲観シナリオは、対立がさらにエスカレートし、観光分野に留まらず、輸出入の制限といった貿易問題に発展する可能性をはらむ。この場合、日本経済への影響は計り知れないほど深刻となる見方だ。
Q. 中国は今後、日本に対しどのような経済的「カード」を切り得るのか?
中国が日本に対し切る経済的報復カードとして、第一段階は今回の渡航制限であった。次に考えられるのは、特定品目に対する輸入制限である。
実際に、2023年のアルプス処理水問題では、日本の海産物が中国によって輸入停止措置を受けた。今後、日本の農産物など、経済的ダメージが大きい分野が新たなターゲットになる可能性は否定できない。
しかし、レアアースなどの重要資源の輸出制限は「戦争の引き金」にもなりかねない最終カードであり、双方ともそこまでの事態は望んでいないため、現実的な選択肢とは考えにくい。
また、過去に存在したような大規模な日本製品不買運動や、中国国内にある日系工場の生産停止といった措置は、中国自身の雇用問題や世論の多様化を考慮すると、実施されるリスクは低いと専門家は予測する。

Q. 高まる政治リスクに対し、日本企業はどのような事業戦略を構築すべきか?
今回の事態は、特定の国への過度な経済依存が政治リスクに直結することを改めて明確に示した。企業は持続可能な経営のため、事業ポートフォリオにおける中国への依存度を見直す時期に来ていると言えよう。
具体的には、インバウンド市場においては、中国人観光客の減少というピンチを、欧米やASEAN諸国からの誘客を強化し、市場を多角化するチャンスと捉える視点が重要である。サプライチェーンも中国一辺倒から分散させることが不可欠だ。
短期的な影響を乗り越えつつ、中長期的には政治的変動に左右されない強固な事業構造を構築すること。それが、今の不確実な時代を企業が生き抜くための鍵となるだろう。