PIVOT TALK BUSINESS
Apple決算にみる光と影
(1075)
1.0万回視聴
2025年11月19日

創業50周年を目前にティム・クックCEOの退任説が浮上しているApple社。 AI競争・規制の影響は?Appleの現状や未来戦略とは?ITジャーナリスト松村太郎氏に聞いた。 ▼プロフィール 松村太郎 | ITジャーナリスト 慶應大学政策・メディア研究科卒。 11年より8年間米国に在住し、 シリコ...
Appleの現在地と今後の戦略: CEO退任説、iPhoneの成功と課題、サービス部門への逆風
資産家のウォーレン・バフェット氏によるApple株追加売却のニュース、ティム・クックCEO退任説の浮上、そして好調な決算発表など、テクノロジー巨人Appleを巡るニュースは尽きない。同社は今、どこに立ち、どこへ向かおうとしているのか。本記事では、ITジャーナリスト松村太郎氏の分析をもとに、Appleの現状と未来戦略を多角的に解説する。

Q. ティム・クックCEOの退任説の真相と、次期リーダーシップがAppleにどのような変化をもたらすだろうか?
ティム・クックCEOの退任説は業績不振を理由とするものではなく、2026年に迎えるApple創立50周年という節目が一つの要因であると見られている。彼はスティーブ・ジョブズ以上の長期政権を担い、Appleの売上と株価を飛躍的に向上させた功績を持つ。製造・流通を統括するオペレーション畑出身のクック氏は、売上責任を果たす一方で、現場が安心して挑戦できる安定した基盤を築き、環境対策(2030年カーボンニュートラル目標)といった社会的課題への貢献も推進した。その経営手腕は極めて高く評価されており、まさに100点満点以上の経営者である。
次期CEO候補としてジョン・ターナス氏(ハードウェアエンジニアリング責任者)の名前が挙がっていることは、Appleがその軸足を「製造業」に置いていることを象徴する。クック氏のような運営畑から製品畑の人物への交代は、若返りという側面に加え、原点回帰を目指す姿勢の表れとも解釈できるだろう。売上の大半を占めるiPhoneに携わるターナス氏の就任は自然な流れであり、新しい視点からAppleの次なるイノベーションを牽引する可能性を秘めている。
Q. iPhone 17の成功とiPhone Airの「失敗」は、Appleの製品戦略をどう示唆しているだろうか?
最新の決算発表でiPhone 17は非常に好調だった。その要因は、前モデルのProに匹敵する性能を維持しつつ、価格を据え置いたことで生じた「お買い得感」が消費者に受け入れられたためだ。これはAppleの主たるターゲットが、常に最先端を求めるアーリーアダプターではなく、市場の7割を占めるマジョリティ層にあるという戦略と一致する。マジョリティ層はコストパフォーマンスを重視し、買い替えサイクルに合わせて「今必要な機能が最適な価格で手に入るか」を見極めていることが改めて証明されたと言える。
一方で、薄さを極限まで追求したiPhone Airは商業的に成功しなかった。これは、マジョリティ層がスマートフォンに求める本質的な価値が「カメラ性能とバッテリー持続時間」という実用性にあることをAppleが再認識する機会となった。しかし、このAirの挑戦は決して無駄ではなかった。超薄型端末の製造技術確立は、将来の「折りたたみiPhone」への重要な布石と考えられる。既存のiPhoneを単に折りたたむだけでは厚すぎるところ、Airによって培われた薄型かつ頑丈な量産技術は、Appleがこの次世代フォームファクタを本格的に市場投入するための前提条件をクリアしたと言えよう。

Q. 高成長を続けるサービス部門が直面する規制強化の逆風とは何か?
Appleは、iPhoneに代表されるハードウェア(物売り)と、App StoreやiCloud、Apple Musicなどのサービス(コト売り)の巧みな組み合わせにより高成長を実現してきた。特にサービス部門は過去5年以上2桁成長を続け、売上構成比は約3割、粗利率は75%と極めて高い。この高収益性が、Appleを単なる製造業としてだけでなく、GoogleやFacebookのようなネット企業として評価される最大の要因となり、時価総額を押し上げてきた。
しかし現在、このサービス部門が欧州連合(EU)のデジタル市場法(DMA)や日本のスマホ新法といった規制の逆風にさらされている。これらの法律は、App Storeの独占状態を問題視し、外部からのアプリダウンロード許可や手数料引き下げ、さらにはAPIデータ開示などをAppleに強いる。これはAppleの利益を直接的に圧迫するものであり、ハードウェア部門においても関税問題が粗利を削っている。APIデータ開示要求は、Wi-Fi接続履歴などの機微な個人情報流出にもつながりかねず、プライバシー保護を掲げるAppleの理念と真っ向から対立する問題として反論を続けている。

Q. 低価格Macの登場はAppleの「マジョリティ戦略」にどう影響を与えるか?
近年、MacBook Airの値下げと高性能なM4チップの搭載により、Mac部門の売上が13%増加し好調を示した。しかし、現在のMacの多くは高性能過ぎるという声もあり、主に文書作成やメール利用が中心のマジョリティユーザーや、教育・法人市場にとっては高価である。ここに新たなビジネスチャンスを見出し、Appleは2026年にもiPhone用チップを搭載した「低価格Mac」の市場投入を検討していると報じられている。
iPhoneと同じ高性能ながら低コストなチップを流用することで、本体価格を大幅に引き下げることが可能となる。これにより、今までMacに手が届かなかった新たな顧客層、例えば教育機関や大企業への導入が促進され、顧客層を大幅に広げられる可能性がある。この戦略は、iPhoneで成功したマジョリティ戦略をMacにも適用しようとするもので、Appleが改めて市場の幅広い層をターゲットにする姿勢を示していると言えるだろう。過去に人気を博した12インチMacBookのような小型・軽量モデルの復活も期待され、価格の絶対値ではなく、機能と価格のバランスで顧客に価値を提供するという原点回帰を示している。

Q. 創業50周年を迎えるAppleが2026年に見せる次なる一手は何が期待されるだろうか?
2025年がiPhone Airの挑戦を通じてAppleの「チャレンジする姿勢が見えた年」だとすれば、創業50周年を迎える2026年は、同社にとって今後の10年、50年を見据えた大きなビジョンが示される重要な年になるだろう。経営体制の刷新、具体的にはCEOの交代が現実のものとなるかどうかが焦点である。安定をもたらしたティム・クック体制の継続か、あるいは若返りを図り、新しい風を吹き込むのか、Appleの進む道は注目されている。
製品面では、AI戦略の「決定版」が示されることが喫緊の課題とされている。投資家は、Appleがこの分野で強力なリーダーシップを発揮することを期待しているが、現時点では「今ではない」と市場の動向を静観しているようにも映る。しかし、2026年にはこの沈黙を破り、マジョリティ層に真に受け入れられる、AppleならではのAI体験を提供できるかが問われるだろう。折りたたみiPhoneのような挑戦的な製品の登場も視野に入れつつ、市場からの期待と自身の理念の狭間で、Appleは新たな未来図を描き出す必要がある。