PIVOT TALK POLITICS
日本メディアが報じない“マムダニ旋風”の真相
(723)
6,411回視聴
2025年11月20日

なぜ支持率1%から市長の座へ上り詰められたのか。3年後の米大統領選展望はどうなる?日本メディアが報じない“マムダニ旋風”の真相を風間晋氏に聞いた。 ▼プロフィール 風間晋|フリージャーナリスト 早稲田大学卒業後、1982年に外務省に入省。外交官として在ルーマニア日本大使館に駐在。1990年にフジテ...
ニューヨーク市長選が映す「アフター・トランプ」時代の米国政治
米国の政治は今、新たな局面を迎えている。近年行われたニューヨーク市長選を始めとする各地の選挙結果は、有権者の意識の変化を明確に示唆している。民主党内で「ミニ・トランプ」とも評される候補者の台頭、そしてトランプ前大統領の変わらぬ影響力、さらには今後の米中関係と経済展望まで、米国政治の「アフター・トランプ」時代は一体どこへ向かうのか。アメリカ大統領選挙に精通するジャーナリスト風間晋氏の鋭い分析を基に、米国政治の深層を探る。

Q. ニューヨーク市長選でマムダニ氏が躍進した背景には何があるか?
民主党支持者の間で「党はトランプに対して弱腰すぎる」という強い不満が鬱積しており、これがマムダニ氏躍進の最大の背景にある。ピューリサーチセンターの調査でも、民主党支持者の41%がトランプに対し「もっと攻撃的に当たるべきだ」と考えていると判明した。マムダニ氏はこうした不満を吸収し、「俺が変えられる、俺が変えてやる」とシンプルかつ力強いメッセージを発信し、現状変革を望む有権者の心を捉えた。これは既存政治への不満を足場に支持を広げたトランプ前大統領の手法と酷似しており、まさに「民主党版トランプ」と言えるだろう。
Q. トランプが主張する「投票用紙に自分の名前がなかったから共和党は負けた」という言葉の真意とは?
この言葉の背景には、米国独自の投票制度と有権者の行動様式が存在する。アメリカの投票用紙は、大統領選から連邦議員、州知事、州最高裁判事選まで、数十もの選挙が1枚に集約されている。多くの有権者は一番上に記載された大統領候補に投票するため投票所へ向かうが、それ以外の下位の選挙については関心が薄い。そのため、大統領候補と同じ党の候補者にまとめて投票する傾向が極めて強い。2016年にトランプは6300万票、2020年には7400万票を獲得し、約1000万票もの上積みを見せたように、トランプには有権者を投票所へ動員する絶大な集票力がある。彼の名前が投票用紙にない選挙では、共和党支持者が投票所に来なくなり、その結果として下位の共和党候補も共倒れになるリスクがある。トランプのこの発言は、彼の集票力を改めて裏付けるものである。

Q. 今後のアメリカ大統領選の行方を占う上で、知事選よりも注目すべき点はどこか?
知事選以上に注目すべきは、「スイングステート(激戦州)」における州最高裁判事の選挙である。米国の選挙は、投開票手続きを巡る法廷闘争に発展することが多く、州法の解釈について最終的な判断を下すのが州最高裁だからだ。判事の党派構成が、選挙結果を直接左右する可能性がある。連邦最高裁が保守派優位であるのと同様に、各州の最高裁の勢力図は極めて重要である。例えばペンシルベニア州の判事選で民主党系が多数派を維持したことは、将来僅差の選挙で紛争が生じた際に、民主党にとって有利な判決が出る可能性を残したという意味で、戦略的に非常に重要な結果であったと言える。米国は政治的な分断と対立が深刻であり、この状況は数年では解消されそうにないため、今後もきわどい接戦が続くと予想される。
Q. 共和党にとってトランプの支持は「諸刃の剣」であるとはどういう意味か?
トランプの支持は共和党候補者にとって「諸刃の剣」である。彼の岩盤支持層のおかげで予備選挙には勝ちやすくなるものの、本選挙ではその過激なイメージが無党派層や穏健派の離反を招き、敗北の原因になりかねない。予備選挙は投票者数が少なく、熱心な活動家が結果を左右しやすいため、トランプの支持を取り付けることが候補者指名獲得の鍵となる。しかし、中間層を含め幅広い層からの得票が必要な本選挙では、その過激な言動や政策が敬遠され、結果的に足かせとなることがある。最近のバージニア州などの知事選の結果は、共和党内にトランプ支持が本選挙ではマイナスに響くという強い認識を生み出した。トランプの元側近スティーブ・バノン氏が「共和党はこの結果を真摯に受け止めるべきだ」と危機感を表明したことは、党内中枢がトランプ依存のリスクを強く意識し始めた証左である。共和党は今、トランプ不在でも支持者を動員できる新たな戦略の構築に迫られている。

Q. 大統領退任後も、トランプはどのような役割を果たすことを目指しているのか?
トランプ前大統領は、通常の元大統領のような引退生活を送ることはないだろう。彼は倫理や良識よりも実利を優先し、権力を最大限に活用する人物である。大統領時代には、自身の地位を利用して一族のビジネスに多大な利益をもたらしてきたことは明白だ。退任後も、そうした権益を維持・拡大するために、キングメーカーとして政界への影響力を持ち続けようとするだろう。彼にとって最も重要なのは、自身の言うことを聞き、ファミリービジネスにとってプラスになる政治家を、連邦議会やホワイトハウスに送り込むことだ。いわゆる「フィクサー」としての役割を追求すると見られる。一部で囁かれる、副大統領に就任した後、大統領の辞任により三選を果たすといった「ウルトラC」のシナリオも彼のキャラクターであればあり得る話ではあるが、憲法の精神に反する動きに対し、連邦最高裁が待ったをかける可能性が高いと考えられている。彼が描くのは、大統領職という公式の座を離れても、依然として米国の政治を動かし続ける構図なのである。
Q. 次期大統領候補として民主党、共和党はそれぞれどのような人材を探すことになるか?
次の大統領選挙は現職不在となるため、予測が難しい戦いとなるだろう。共和党は、予備選挙を牛耳るトランプの岩盤支持層を取り込めるような「ミニ・トランプ」的な候補者の擁立を目指す可能性が高い。反トランプ的な共和党候補が予備選挙を勝ち抜くのは非常に困難な状況が続くと考えられる。一方、民主党にとっては、これまで党の結束を促してきた「反トランプ」という旗印が使えなくなるため、新たな求心力となるメッセージや候補者を見つけることが急務である。政策だけで有権者の心を動かすことは難しく、ニューヨーク市長選のマムダニ氏のように「変えてくれる」と信じさせる力強いメッセージとカリスマ性を持つリーダーが必要とされるだろう。しかし、その候補が「民主党版トランプ」のようなスタイルであった場合、党内の分裂を深める可能性も否定できない。アメリカ大統領選挙の歴史を振り返ると、選挙戦が始まるまで無名だった候補が、国民の熱狂的な支持を集めて大統領となる例は少なくない。このため、現在の政治状況の激変を考慮すると、民主党・共和党ともに、まだ名前が挙がっていないダークホースの登場にも注目が必要である。

Q. アフター・トランプのアメリカ経済、そして米中関係はどうなるのか?
アフター・トランプの米国では、格差社会がさらに深刻化し、それに伴うエリート層への反発・反感が強まる。これはポピュリズム政治の根深い土壌であり続けるだろう。「配管工が医者より稼ぐ」といった言説は、特定の政党が支持を得るために意図的に流布している可能性もあり、情報のリテラシーがこれまで以上に求められる。経済面では「アメリカ経済が崩壊すれば世界経済も崩壊する」という基本構造は変わらない。相対的には、ドルは他の通貨よりも強い状態を維持すると予測されるが、現在のドル高は円がより弱いことに起因するとの見方もある。アメリカ経済にとって最大の不安要素は中国の台頭であり、アメリカが今後も強硬な対中政策を継続しない限り、国力はじり貧になる可能性がある。米中関係は今後、トランプ的なパターンを踏襲するだろう。つまり、選挙対策などでアメリカが中国に強硬姿勢で「仕掛け」、中国が反発、その後一時的な「停戦」というサイクルを繰り返すと予測される。アメリカに中国を完全に抑え込む力は既になく、両国は決定的な対立を避けつつ、緊張と緩和を繰り返す不安定な関係が続いていくに違いない。