PIVOT TALK WORLD
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2025年10月31日

覇者なき「Gゼロ」世界、民主主義の限界、権威主義の台頭といった波乱の世界構造を俯瞰的に分析する。高市政権「JAPAN IS BACK」が転機となるか、日米同盟の今後、国連の役割など、激変する国際情勢のなかで日本が果たすべき役割を、世界一の地政学コンサル元日本部長が解説。 ▼プロフィール ジョシュア...
グローバリズムとリベラリズムの求心力が世界的に低下する中、国際秩序は激動の転換点を迎えている。ピボットの記者、手盛は、この波乱の時代を日本がどう生き抜くべきかを探るため、日本を内側と外側の両面から見てきたジャパンソサエティ理事長のジョシュア・ウォーカー氏と対話を行った。ウォーカー氏は、ユーラシアグループでの経験や地政学的な知見に基づき、現代の世界情勢、特に「Gゼロ」の概念について語る。
ウォーカー氏は、1歳から18歳まで札幌で過ごした経験を持つ「どさんこ」であり、その後ジャパンソサエティの理事長として日米関係の深化に貢献してきた。ユーラシアグループでは日本市場を担当し、Gゼロサミットの設立に携わるなど、日本における地政学リスクへの理解を深める役割も担った。この記事では、ウォーカー氏の深い知見に基づき、Q&A形式で揺れ動く国際情勢と日本が取るべき戦略を詳説する。

過去30年間、多くの人々がグローバリズムとリベラリズムの成果に「うまくいっていない」と感じてきたことが背景にある。この不満が、世界各地でポピュリズムの台頭を招き、ナショナリズムや権威主義的なリーダーシップへの渇望を高めたと分析できる。
権威主義国家が長期的な戦略を実行できる一方で、民主主義国家では政策の一貫性が失われ、混乱が見られるためである。例えば、中国やロシアのような国々では、長期にわたる「5カ年計画」などが立案され、指導者による強力な実行力が確保されている。これに対し、多くの民主主義国家では短期間での政権交代や内政の混乱により、長期的な国家戦略を練り、実行することが困難となっている現実がある。
「Gゼロ」とは、かつて存在したG1(単一の覇権国家)やG2(二つの主要国家による支配)のような国際秩序が崩壊し、どの国も世界のリーダーシップを握れない状態を指す。これは単なる無秩序ではなく、国家の力が相対的に低下した新しい世界構造と言える。特定の国が国際社会の安定を保証することが難しくなったのである。

このGゼロ時代には、国家だけでなく、企業や個人も国際的な影響力を持つようになっている。例えば、日本における孫正義氏や、米国におけるイーロン・マスク氏のような「アクター」たちが、時に国家を凌駕する力を持つケースが顕著に見られる。こうした多様な主体が入り乱れることで、世界のパワーバランスは一層複雑化し、従来の国家中心の国際関係では捉えきれない多極的な時代が到来している。
民主主義国家では、度重なる政治的対立や機能不全が、国民の不満を募らせている。特に、アメリカの政治における「赤チーム(共和党)対青チーム(民主党)」のような対立は、かつての健全な議論の場から「敵対」へと変質し、妥協点を見出すことが極めて困難となっている。このような状況下では、国内外の複雑な課題に対して迅速かつ効果的な対応が難しくなり、国民の不満は募る一方である。
結果として、民主主義が「うまくいっていない」と感じる人々が、強力なリーダーシップを求めるようになっている。ロシアのプーチン氏や中国の習近平氏のように、自国に強力な権力を持つ指導者が存在することで、国家の戦略が一貫性を持ち、国内外の課題に対して迅速な決定と実行が可能となる、という見方がある。このような風潮が、世界的な反グローバリズムやポピュリズムの波と連動し、強いリーダーへの渇望を生み出していると言える。
かつてはアメリカの文化のように、人々を魅了する「ソフトパワー」が国際社会において大きな影響力を持っていた。しかし、近年、ウクライナやイスラエルでの現実の紛争を目の当たりにする中で、文化的魅力だけでは国を守りきれないという認識が強まっている。紛争が激化する世界においては、アニメや和食といったソフトパワーがいかに強力であっても、国家の安全を保障する決定的な力にはならないと感じられる。結果として、軍事力や経済力といった「ハードパワー」を重視する風潮が世界的に復権している。

この変化は、日本の立場にも大きな影響を与える。日本はソフトパワーでは世界的に非常に高い評価を得ているものの、憲法の制約もありハードパワーにおいては限定的である。周辺には中国、ロシア、北朝鮮といったハードパワーを持つ国々が存在し、日本は危険な状況に置かれている。世界がハードパワーを優先する方向へと向かう中で、日本が国際社会で「弱い」と見られるリスクは高まっていると言える。
国連は第二次世界大戦終結後、将来の紛争を防ぐ目的で設立されたが、その構造は80年前の国際情勢を反映したままであり、現代の多極化した世界には対応しきれていない。特に、安全保障理事会における常任理事国(ロシア、アメリカなど)の拒否権制度は、現在の国際紛争において重大な機能不全を招いている。ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの衝突においても、関係国が拒否権を行使することで、国連は実質的に何もできない状況が続いている。このような状態では、国連が「対話の場」としての価値は維持できても、問題解決能力を持つ国際機関としての信頼性は著しく低下している。
また、国連の枠組みには、今日の経済大国である日本やドイツ、インド、ブラジルなどが常任理事国に含まれていないという問題がある。これは80年前の敗戦国や新興国の地位を反映しており、現代の国際的な力関係とは乖離している。こうした時代錯誤的な構成は、国連の意思決定プロセスを阻害し、グローバルサウスの国々からの信頼も失わせている。国連の限界は、まさに「Gゼロ」の時代において、秩序を構築する国際機関の不在を示唆するものである。
現在の日米関係は「難しい」状況にあると言える。世界情勢の混乱に加え、米国では激化する政治的二極化と「トランプ一強」の流れがあり、日本国内でも自民党の統率力が揺らぎ、不確実性が高まっているからである。トランプ元大統領が再び政権を握った場合、「アメリカ・ファースト」の政策はさらに強化される可能性が高い。これは、日本の国益を考慮せず、アメリカの利益を最優先する姿勢を意味する。
具体的な要求としては、日本の経済状況を顧みないさらなる対米投資の要求や、防衛費のGDP比2%という目標をはるかに超える4%への増額などが考えられる。日本が米国と同盟を結びながらも、安全保障と経済を両立させるために、対中国戦略でも難しい舵取りを迫られる場面が増えるであろう。
特に懸念されるのは、トランプ氏が「ビジネスマン」としての側面から、台湾問題に関して中国との取引を模索する可能性である。これにより、日本が梯子を外されるような形で、厳しい安全保障環境に直面することも考えられる。現在の良好な日米関係の「建前」の下には、米国への信頼性に対する日本の「本音」の懸念が横たわっていると見ることが重要だ。
ウォーカー氏は、日本が持つ最大の強みでありながら、日本人自身がその価値を十分に理解していない点を指摘する。それは、世界が賞賛するアニメや和食といったソフトパワー、そして他者への配慮を重んじる「おもてなし」の精神、異なる意見を聞き入れる「傾聴力」である。

国際社会における日本の問題は、自らを「小さな島国」と過度に謙遜し、「ごめんなさい」と発言を控えがちであることだ。世界は日本のこれらの素晴らしさを認識しており、日本はもっと自信を持って、堂々と国際社会で意見を述べるべきだ。大谷翔平選手のように、自らの力に確信を持ち、積極的に世界と関わる姿勢が求められる。
Gゼロ時代において、日本が果たすべき役割は、ハードパワーで他国を支配する「リーダーになる」ことではない。むしろ、日本独特の「おもてなし」の心や「道」の精神を活かし、対立する国々の間を取り持つなど、世界に平和的な関係構築のための「リーダーシップを取る」ことである。他国を深く理解し、共通の解決策を見出す対話の能力こそ、日本が最も発揮すべきソフトパワーであり、不安定な世界で真の調停者となる道を示す。