
日銀の金利引き上げ。12月が濃厚な理由
金融政策と財政政策の行方:高市政権の経済運営は日本に何をもたらすか?
現在の日本経済は、高市政権の経済政策と日銀の金融政策という二つの大きな軸によって方向性が定められようとしている。特に、物価上昇と円安が進行する中、これまでの政策の延長線上で良いのかという根本的な問いが突きつけられていると言えるだろう。本記事では、第一生命経済研究所の熊野英生氏の解説を基に、日銀の金融政策と高市政権の経済政策が日本経済に与える影響について、Q&A形式で深く掘り下げていく。

Q. 日銀の金融政策決定会合が近づいているが、今回の利上げは見送られる可能性が高いか?
今回の政策決定会合で、日銀が利上げを見送る可能性は極めて高いと考えられる。高市氏が提唱する「金融緩和の維持」は政権の持論であり、発足直後の政権との不協和音を避けるべく、日銀が性急に動くことは考えにくい。しかし、市場では既に歴史的な円安が進行しており、1ドル150円台前半への移行が見られる。過去2回の利上げにもかかわらず、輸入インフレは継続し、消費者物価上昇率は実質3%程度に達している状況だ。
このような背景から、日銀内部ではインフレ抑制のための追加利上げを望む声が強いと推測される。市場では12月中旬の次回決定会合での利上げが有力視されている状況にある。日銀総裁の上田氏が慎重派であることを鑑みても、政府との摩擦を回避しつつも、インフレ対応への強い意志が見て取れると言えよう。
Q. 高市政権の「積極財政と金融緩和維持」は、現在のインフレ状況下でどのような影響を及ぼすか?
高市政権が掲げる「積極財政と金融緩和維持」は、現状では日本経済にとって大きな矛盾を孕む政策だと指摘されている。アベノミクスが始まった2012年は、超円高・株安のデフレ経済であり、拡張財政と大規模な金融緩和は景気浮揚に寄与した。しかし、現在のようなインフレ下で同じ政策を追求すれば、インフレを一層加速させるだけの結果に繋がり、国民生活の苦痛を増大させる可能性が高い。

もし利上げが見送られた場合、金融緩和が続くという市場の思惑が先行し、更なる円安を引き起こす恐れがある。1ドル153円から155円といった水準に達することも否定できない。高市氏自身は「責任ある積極財政」という表現で自身の政策を和らげているが、その根底にある信念を現実的な経済状況に合わせて修正できるかが問われるところだ。
Q. 現在の「屈辱的」な円安に対し、財政政策面からどのような対策が考えられるか?
現在の円安は国際社会から見ても「屈辱的」と評される水準であり、この状況を是正するには財政政策面からのアプローチも不可欠だ。直近で話題になっているのは補正予算の規模だが、高市政権下で10兆円を超える大規模な補正予算が組まれれば、プライマリーバランスの黒字化に向けた努力が無駄になる懸念がある。新規国債の増発は金利上昇圧力となり、日銀の金融政策と対立しかねない。
長年の懸案である基礎的財政収支の黒字化を1〜2年でも達成できれば、国内外の市場からの日本の財政への信認を取り戻せる。米国やフランスで国債格下げが相次ぐ中で、日本の拡張財政は格下げリスクを高める。国債需給に直接影響を与える基礎的財政収支の改善こそが、金利安定化とひいては円安是正に繋がる最も現実的な道だと言えよう。高市氏が提唱する「GDP比での債務削減」では金利上昇を抑制できない点も重要である。
Q. 賃上げが進まない中で、特に恩恵を受けにくいとされる世代や層には、どのような経済政策が効果的か?
物価上昇が続く一方で実質賃金が伸び悩む中、特にその影響を大きく受けているのは、いわゆる「就職氷河期世代」と呼ばれる40代から50代前半の男性たちである。彼らの実質賃金は物価上昇の影響で大きく低下しており、世代間の格差意識を強めている。高市政権が経済安全保障や食料安保を軸とした国家管理型の成長戦略を推進しても、これでは持続的な賃上げには繋がりがたい。成長戦略担当大臣の名称変更も、中身の薄さを隠すための見せかけとの指摘もある。

かつてのバブル世代が第一線から退き始めている今、40代〜50代前半の氷河期世代が企業の中核を担う存在となっている。彼らが十分に活躍できなければ、日本企業の活力は維持できないだろう。給料を上げないための「日本型成果主義」と揶揄される現状を改革し、真に成果に報いる賃金体系への転換が求められる。労働時間の規制論議だけでなく、労働生産性の向上とその成果分配、さらに柔軟な労働市場の構築も議論すべきだ。このような改革は、経済全体の正常化を促し、世代間の不平等を解消する上で不可欠な要素と言える。
Q. 年金受給者のような金融資産を持つ高齢者世帯にとって、金利引き上げはなぜ給付金以上に重要なのか?
日本の世帯構成比を見ると、年金受給者を中心とした無職世帯が急速に増加していることが明らかだ。これらの高齢者世帯は平均で約2,580万円という多額の金融資産を保有している。この層にとって、一時的な給付金のばらまきよりも、金利引き上げによって預金金利が上昇する方が、長期的に見てはるかに大きな経済的恩恵をもたらす。
現在の超低金利政策は、退職後の人々が資産からの利息収入で生活することを困難にし、「資産デフレ」という形で日本社会に弊害を生んでいる。低金利の継続は、賃上げの恩恵に浴さない高齢者層の不満を高め、結果としてポピュリズム的な給付金政策への依存を助長する危険性がある。政策金利を半年〜数カ月ごとに0.25%ずつ引き上げ、最終的に1%〜1.5%程度まで引き上げるという緩やかな利上げは、高齢者層に適切な購買力を回復させ、社会全体の安定に繋がる責任ある政策となるだろう。来年は経済情勢やトランプ関税の影響を見極めつつ、年2〜3回程度の利上げを段階的に進めることが望まれる。

Q. 高市政権は現在の高い支持率を維持するため、今後どのような経済政策に取り組むべきか?
高市政権の現在7割を超える高い支持率は、外交成果などによる一時的な「ハネムーン期間」であり、裏金問題への国民の不満などを考えれば、いずれ低下は避けられないと見られている。政権の真価が問われるのは、来年初頭から本格化する経済政策の時期だ。国民の半数を占める勤労者にとって最大の関心事は「賃上げ」であり、賃金増加を実現することが政権への信頼を盤石にする鍵となる。
現状、日本の株価は米国ナスダックの動きと連動し、FRBの金融緩和期待によって支えられている側面が大きい。米国経済の状況に左右される不安定さを抱える中で、国内では腰を据えた改革が必要だ。米国経済の悪化リスクに備え、民間企業の競争力を高める成長戦略を先んじて実行することが重要だ。特に輸出製造業の強化や、トランプ関税のような外部要因への対応として、アジアやヨーロッパとの貿易連携深化も視野に入れるべきだ。高市政権には、単なる官主導の産業育成に終わらず、多様な民間活力を引き出す柔軟な政策運営が求められている。
Q. 日本経済を力強く成長させるために、どのような成長戦略を優先すべきなのか?
日本経済を真に力強く成長させるためには、国家管理型ではない、民間主導の活力を最大限に引き出す成長戦略を優先すべきだ。経済安全保障やエネルギー自給のような分野も重要ではあるが、これらだけで賃上げや経済成長を実現することは難しいだろう。具体的には、中小企業の海外進出支援を強化し、輸出を増やす。また、インバウンド需要を東京や大阪といった大都市圏に集中させるだけでなく、地方に分散させ、地域経済の活性化を図るべきだ。このような多様な取り組みによって、日本経済全体の底上げを目指す。

加えて、社会保障改革における「隠れた資産」の活用も検討に値する。現在の株高と円安によって、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用する年金資産は大幅に増加している。この巨額の運用益が現役世代の負担軽減に全く還元されていない現状は問題だ。もちろん、短期的な分配は年金制度の持続性を損なう恐れがあるため慎重な議論が必要だが、当初のルールに囚われず、この恩恵を現役世代にも波及させる仕組みを模索する発想の転換が求められるだろう。若者の負担を軽減し、彼らが安心して働ける環境を整えることが、長期的な成長へと繋がる確かな道筋となる。