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欧州マーケットで攻勢。中国EVの先進国戦略
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2025年10月18日

ドイツのミュンヘンで開かれたモーターショー。そこで見えたのは、中国メーカーの大攻勢だった。中国はなぜ欧州を狙うのか?ドイツ勢はどう対抗しているのか?自動車ジャーナリストの川端由美氏にレポートしてもらった。 <ゲスト> 川端由美|自動車ジャーナリスト 群馬大学大学院工学科修了。住友電工にてエンジニア...
激変するEV市場の最前線:ミュンヘンモーターショーが示す中国とドイツの覇権争い
自動車業界が未曾有の変革期を迎える中、2023年に開催されたミュンヘンモーターショー(IAA Mobility)は、その最前線の動向を明確に示した。

本稿では、同ショーから読み解ける中国EVメーカーの猛攻、それに対するドイツ勢の戦略、そして日本メーカーが直面する課題について、Q&A形式で深掘りする。
Q. ミュンヘンモーターショーで最も注目すべき点は何か?
ミュンヘンモーターショーは、ヨーロッパ最大規模の自動車ショーであり、今回はとりわけ中国EVメーカーの存在感が際立った。これまで欧州車が主役であったこの地で、BYDをはじめ、小鵬(シャオペン)、零跑(リープモーター)、広州汽車(GAC AION)といった多数の中国ブランドが大規模なブースを構え、新型EVを発表する光景は、従来の常識を覆すものであった。
日本でほとんど知名度のない中国メーカーが、アウディやメルセデスベンツと同規模のブースで大規模な展示を行う様子は、欧州市場への強いコミットメントを明確に示している。これは、日本にいるだけでは感じ取れない中国の先進国戦略の実態であった。
Q. なぜ中国EVメーカーは欧州市場に大規模な攻勢をかけるのか?
中国EVメーカーが欧州市場を主要な標的とする背景には、主に以下の三つの理由がある。

国内需要の鈍化と生産過剰: 経済成長の鈍化に伴い、中国国内でのEV需要が減速し、大量に生産されたEVの販路拡大が急務となったためである。
米国市場への高い参入障壁: 米国市場は政治的な理由や関税、現地の生産要件などから、中国メーカーにとって参入が非常に困難である。
欧州市場の公平性: 欧州は比較的自由で公正な市場環境を提供しており、かつ物理的な物流ルートも確立されているため、中国メーカーにとって参入しやすい。
消費者の抵抗感の低さ: 欧州の消費者は、必ずしも車の生産国にこだわりを持たず、ブランドの起源(例:MGの英国車イメージ)や、純粋な品質と価格で選ぶ傾向が強い。これは若い世代で特に顕著である。
結果として、欧州市場は中国メーカーにとって余剰生産分の最適な「はけ口」となり、先進国への本格的な市場進出の足がかりとして重要な意味を持っているのだ。
Q. 中国EVが持つ欧州市場での競争優位性とは何か?
中国EVメーカーの最大の武器は、その圧倒的な価格競争力にある。ドイツ勢のEVが800万円から1,000万円の高価格帯であるのに対し、中国勢は中国国内で200万円台、欧州市場でも関税や流通コストを含め300万円台のEVモデルを投入している。
デザイン面では、欧州のトップデザイナーを引き抜いている点が特筆される。元アウディやメルセデスベンツのデザイナーに高額な報酬だけでなく「デザインの全決定権」を与えることで、欧州の感性に響く洗練されたデザインを実現している。彼らは中国に転居せず、フランクフルトやイエテボリなどに設置されたデザインセンターで活動するため、質と効率を両立しているのだ。
走行性能に関しても、EV特有の構造が品質を底上げする。EVは車載バッテリーが重いため、車体が低重心になり、単純なサスペンション設計でも石畳のような路面で乗り心地が悪化しにくい。専門家が固定観念を誤解していたと語るほど、品質と価格のバランスは欧州メーカーのモデルに肉薄している。
価格帯が大きく異なるため直接的な競合ではないが、性能とデザインの面で差異が縮小していることに、若者を中心に「150万円の違いがあれば、中国EVを選ぶ」という意識が芽生えているという。
Q. ドイツ自動車メーカーは中国の猛攻にどう対抗しているのか?
中国の低価格EV攻勢に対し、ドイツ勢もようやく本格的な反撃を開始した。フォルクスワーゲン(VW)は2万5,000ユーロ(日本円で約400万円)という低価格帯のEV投入を約束し、BMWやメルセデスベンツもこれまでの高級路線に加えて、より手頃な価格帯のモデルやコンセプトを発表している。

対抗策の中核をなすのは、「先進国向けコネクテッド戦略」である。中国EVに見られるカラオケやSNS連携といった斬新な機能とは一線を画し、メルセデスベンツはGoogleのAI「Gemini」を搭載するなどの実用性とビジネス生産性向上に重点を置く。例えば、運転中にAIが今日のスケジュールと連動し、出社後すぐ取り組むべきタスクを音声で知らせる機能などが挙げられる。
これは「時間が価値である先進国の顧客層」に響くサービスで、単なる移動手段としての車を超え、新たな体験価値を提供することで、中国EVとの価格差を乗り越える狙いがある。
Q. 欧州でEVシフトが続くのはなぜか?
アメリカ市場でEVの勢いが鈍化していると言われる一方で、欧州ではEVシフトが着実に進んでいる。その要因として、主に二点が挙げられる。
充電インフラの充実: 欧州では都市部の主要な駐車場にEV充電専用スポットが設けられ、路上にも充電器が普及している。また、家庭用充電が日本(200V)の2倍の電力で可能なため、短時間の「継ぎ足し充電」でも実用性が高い。
根強い環境意識と政策: 欧州の人々は地球温暖化への意識が高く、全世代に環境教育が深く浸透している。そのため、消費者はエコな製品を選ぶ傾向にある。加えて、一部の都市では「エコカーでなければ進入できない」エリアが存在し、市民にとってEVへの乗り換えが「死活問題」となる場合もある。
これらの要因により、補助金制度が終了してもEVの登録台数は着実に伸びており、欧州市場はEVシフトの揺るぎない潮流となっている。
Q. EVのデザインに特徴的な変化が見られるのはなぜか?
最近のEVには、かつての流麗なスポーツカーとは異なり、四角く「ゴツい」印象のデザインが増えている。この変化は、EV特有の構造に起因するものである。
内燃機関が不要になったことで、エンジンの冷却に必要な「フロントグリル」の制約から解放され、デザインの自由度が飛躍的に向上した。この結果、デザイナーはフロント部分を平面的な意匠にしやすくなったのである。まるで、かつての洋服にタイが常識だったように、フロントグリルもエンジンのために当たり前に存在したデザインの一部だったのだ。
この新しいデザインは、車室空間の拡大にも貢献する。バッテリーを車体下部に敷き詰めることで床を低くし、同時に車体デザインを四角くすることで、スポーツカーのような外見を持ちながらも、室内はセダンのように広々とした居住性を実現できるようになった。快適な室内空間は、自動車利用において利便性を追求する現代の消費者のニーズにも合致する。
Q. 日本メーカーはこのEV市場の激変から何を学ぶべきか?
ミュンヘンモーターショーから読み取れる激動のEV市場は、日本メーカーにとって決して「対岸の火事」ではない。
先進国市場での競争激化: 中国市場で危機感を募らせ技術を磨いたドイツ勢は、その先進的なコネクテッド技術を、レクサスやアキュラなどの日本高級車ブランドが強いアメリカ市場に持ち込む。この「成熟したコネクテッドカー」がアメリカ市場で普及すれば、日本メーカーも追従せざるを得なくなるだろう。
新興国市場での脅威: 日本が主要市場とするアセアンなどの新興国では、中国EVの圧倒的な低価格モデルがすでに展開されている。これも日本車の強力な競争相手となる。
サプライヤー戦略の課題: ドイツ勢が中国での豊富な知見を持つ欧州サプライヤー(ボッシュ、ZFなど)と連携して迅速にコネクテッド技術を開発できる一方、日本メーカーの国内サプライヤーは中国での経験が乏しい。これはコネクテッド分野における日本勢の競争劣位を生む可能性がある。
日本メーカーは、ドイツ勢のような高度な「先進国向けコネクテッド」と、中国勢のような低価格戦略の両面で、国際市場での競争に備える必要があり、サプライヤーとの連携を含めた戦略の見直しが急務である。欧州市場で起きている変革を真摯に受け止め、全方位での競争力強化を目指すべき時期に来ている。