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中国の人型ロボットは世界を制する?米中開発競争の激化
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2025年10月17日

中国が人型ロボット開発に巨額投資。3年で投資額5倍の背景にある米中開発競争の最前線を徹底分析。半導体の国産化・量産化を目指す中、果たしてロボット開発は投資バブルで終わるのか?それとも技術変革に至るのか?中国のテック産業を長年研究してきた、ITライターの山谷剛史氏に聞いた。 ▼ゲスト 山谷剛史|IT...
20年で日本を追い越したか?AIが牽引する中国ロボット産業の急成長
2002年、日本のインターネット上で「中華キャノン」と揶揄された中国製ロボット「先行者」を覚えているだろうか。そのお世辞にも高性能とは言えない姿は、当時の中国の技術レベルを象徴するものとして、日本のネットユーザーの間で面白おかしく消費された。しかし20年の歳月を経て、中国のロボット技術は劇的な進化を遂げ、かつての「先行者」を知る人々をして「日本は追い越された」と言わしめるほどの実力をつけている。特に2024年は、人型ロボットへの大規模な投資が活発化し、「ロボット元年」とも称される一年となった。これは、AI技術の発展と、国家を挙げた産業育成戦略が組み合わさることで生まれた新たなフェーズであり、中国経済の停滞を打ち破る新たな牽引役となるのか、世界中から注目されている。
本記事では、この急速な変貌を遂げた中国のロボット産業の実像に迫り、その進化の背景、活発化する投資の状況、開発を牽引する主要企業と政府の戦略、そして「人型」ロボットに注力する狙いと普及に向けた課題について、専門家の見解を基に深掘りしていく。はたして、中国のロボット技術は本当に本物なのだろうか?

Q. かつて嘲笑された中国製ロボットは、この20年でどのように進化したのか?
かつて日本のインターネット文化を賑わせた「中華キャノン」こと「先行者」は、中国の技術力に対する嘲笑の的であった。足しか動かないと揶揄された当時のロボットからは想像できないほど、現代の中国ロボットは目覚ましい進歩を遂げた。この変革の最大の要因は、ロボットの「頭脳」に当たる部分へAI技術が導入された点である。従来のロボットはセンサー(感じる)、駆動部(動く)、そして制御(判断する)の三要素で構成されるが、特に判断を司る頭脳の部分がAI、特に大規模言語モデルなどの出現によって劇的に改善されたのだ。これにより、人間のような複雑な動きや状況判断が可能となり、もはや嘲笑の対象ではない、米国の有力ロボットに匹敵する実力を兼ね備えるようになったと言える。
Q. なぜ中国では今、人型ロボットへの大規模な投資が活発化しているのか?
中国における人型ロボットへの投資が急増したのは、いくつかの要因が重なり合っている。まず、ハイテク分野において米国が新たな技術を生み出すと、中国もそれに追随し、自国の技術として昇華させる傾向が長年存在した。テスラのロボット開発に代表される米国企業の動向が、中国を刺激した形である。次に、その投資ブームの具体的な火付け役となったのが、2024年の中国版紅白歌合戦とも言える旧正月の国民的番組「春晩」であった。この番組で多数のロボットが人間と一体となって伝統的な踊りを披露したことで、投資家を含む多くの国民がロボット技術の飛躍的な進歩を視覚的に認識し、新たな産業トレンドへの確信を得た。「次はロボットだ」という意識が瞬く間に広がり、以前は低調だったロボット関連企業への資金流入が爆発的に増加したのだ。市場規模は将来的に200兆円に達すると予測されており、2024年はまさに中国の「ロボット元年」として記憶される年となった。

Q. 中国ロボット開発の最前線で活躍する企業と、政府の具体的な役割は何か?
中国の人型ロボット開発を牽引するのは、UBTECHやUnitreeといった深センや広州を拠点とするスタートアップ企業が主だ。これらの企業を立ち上げた多くは、アリババやテンセントなど、既存の巨大ハイテク企業で経験を積んだ人材であり、彼らは自身の野心とノウハウを新産業で開花させようと奮闘している。彼らはロボットの「体」、すなわちハードウェア部分の開発を得意としている。
一方、BaiduやHuaweiなどの既存大手ハイテク企業は、ロボットの「頭脳」となるAIプラットフォームの提供に注力している。スタートアップが開発したロボットに大手企業のAI技術が搭載される協業モデルが主流だが、最終的には大手企業が有望なスタートアップを買収し、その技術を取り込む展開も予測される。これは中国のIT業界で頻繁に見られるビジネスサイクルである。

中国政府もまた、この産業の強力な後押し役だ。政府は「五カ年計画」においてロボット技術を国家の重要戦略分野に指定し、多額の補助金支給や企業の誘致を通じて産業全体の発展を促している。また、競争の激しい中国企業同士の過度な競争を抑制し、相互協力によって国全体の競争力を高める調整役も担っている。これにより、中国はロボット産業を国の根幹を支える柱の一つに育て上げようとしている。
Q. 「人型」ロボットに注力する中国の狙いと、今後の普及に向けた課題とは?
中国が特に「人型」ロボットに注力する最大の狙いは、その汎用性の高さにある。人型ロボットは、工場、家庭、オフィスといった人間用に設計された既存の環境を大きく変更することなく、人間の労働力をそのまま代替できる。例えば、自動車工場ではすでに人型ロボットが導入されており、これは人間と同程度の身長と手の長さで、既存の作業を効率的にこなすことが可能であるからだ。将来的には、災害現場での救助活動や、警備、さらには軍事利用に至るまで、人手が必要とされるあらゆる場面での活用が期待される。

しかし、人型ロボットの普及には大きな課題が存在する。それは「価格」である。現在のロボットはまだ高価であり、最も安価なモデルでも1体200万円程度とされている。現状では、EV工場のような資本力のある大企業でなければ導入は難しい。過去の自動運転技術の例(港湾や鉱山での導入が先行)が示すように、新たな技術はまず大企業に導入され、その後コストダウンが進むことで中小企業や一般家庭へと普及していく流れが予測される。量産化が進む「量産元年」である今、いかに製造コストを削減し、幅広い層が導入しやすい価格帯にまで引き下げられるかが、今後の市場拡大を左右する決定的な要素となるだろう。
Q. 米国と中国によるロボット開発競争の現状と、日本の立ち位置はどうなっているのか?
世界のロボット開発競争において、米国が最先端を行くリーダーであることに変わりはない。しかし、中国もボストン・ダイナミクスやテスラ・ボットといった米国の有力企業群に、UBTECHやUnitreeなど複数の企業が対抗できるレベルにまで成長しており、その技術力は侮れない。もはや大きく引き離されている状況ではなく、両国は互いに意識し、競争を繰り広げていると言えるだろう。
一方、かつてASIMOなどの先進的な人型ロボットを開発し、この分野で世界をリードしていた日本の状況は厳しい。AIの急速な発展というパラダイムシフトに乗り遅れた結果、日本のロボット開発は職人技的なハードウェア技術に終始し、AIを駆使して低コストで高性能な「頭脳」を持つロボットを生み出す米中とは対照的な道を辿った。スマートフォンにおけるカメラ画質のAI補正能力の差が製品力に直結したのと同様に、AIの取り込みの有無がロボット産業における競争力に大きな隔たりを生んだのだ。現在、日本は世界のロボット開発競争において「周回遅れ」という厳しい現実を突きつけられている。
今後、中国のロボット産業では、EVやスマートフォンの例に見られるように、熾烈な市場競争による企業の淘汰が進むと予測される。この競争を勝ち抜いた少数の企業が、極めて強大な世界レベルのプレイヤーへと成長する可能性が高い。ただし、これらの中国製ロボットが世界市場で展開される際には、中国のクラウドサービス利用に伴うセキュリティ上の懸念や国際的な不信感をいかに払拭できるかという課題にも直面することになるだろう。来年に発表される次期五カ年計画でロボット産業がどのような位置付けとなるか、その動向から目が離せない。