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日本の財政、余力はあるのか
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2025年9月19日

「日本の財政は危機的状況」という言説が飛び交うが、本当に余力はないのか?日本の財政の実態と、総裁選の争点でもある今後の経済政策について、第一生命経済研究所の首席エコノミスト、永濱利廣氏に解説してもらった。 <ゲスト> 永濱利廣|第一生命経済研究所 首席エコノミスト <目次> 00:00 ダイジェ...
日本の財政は本当に厳しいのか? 海外と日本の違いから読み解く実態

Q. 日本の財政状況について、国内では「厳しい」という論調が主流ですが、海外では異なる見方があるそうですね?
日本の財政については「ギリシャより悪い」「プライマリーバランスの黒字化が必要」など、厳しい見方が国内では主流だ。しかし海外では「日本の財政は改善している」という論調が多い。
この違いは何に起因するのか。最大の理由は「何を指標にするか」だ。日本の主流派、特に財務省に近い考え方では「財政収支を均衡させる」「プライマリーバランスの黒字化」を財政健全化の目標としている。

一方、海外ではプライマリーバランス黒字化を目標に掲げている国はない。世界標準的に財政状況を判断する指標は「政府債務残高のGDP比」であり、これが下がると財政改善、上がると悪化と見なされる。
また金利についても見方が異なる。日本では単に金利が上がることを財政悪化のサインと見る向きが多いが、世界標準では金利と名目成長率の関係で判断する。
Q. 足元の長期金利上昇について、「16年ぶりの高水準」と報じられていますが、これは本当に危機的状況なのでしょうか?
現在、日本の長期金利は1.6%まで上昇しており、2008年以来16年ぶりの水準だと報じられている。これだけを見ると危機的に思えるが、当時と今では大きな違いがある。
16年前、金利が1.6%だった時、日本の名目成長率はマイナスだった。つまり金利がプラスで成長率がマイナスという、財政的に最悪の組み合わせだった。
一方、現在はどうか。長期金利は1.6%だが、直近の4-6月期の名目GDP成長率は前年比4.7%だ。つまり名目成長率が金利の約3倍あるという、財政的には非常に健全な状態にある。
実際、フィナンシャルタイムズは「過去30年で日本の財政収支は最も改善している」と報じている。日銀の資金循環統計を見ると、政府の資金過不足は統計開始以来最も改善しており、ほぼニュートラル(均衡)状態になっている。
Q. あなたはMMT(現代貨幣理論)を支持していると誤解されることがあるそうですが、実際の立場はどうなのでしょうか?
私はMMTについて賛同していない。2019年に『MMTと健全経済学』という本を出版しており、その中でMMTについての見解を述べている。
私の考え方は、日本の主流派とMMT支持派の中間に位置する。日本の主流派は財政を締めすぎる傾向があり、一方でMMTなどの過度な積極財政論は出しすぎる危険がある。私は「締めすぎもダメ、出しすぎもダメ」という立場だ。

MMTに賛同できない最大の理由は、MMTが金融政策を無効と考え、経済コントロールを全て財政に委ねる点にある。実際には金融政策は機動的に実施できるのに対し、財政政策はすぐに機動的に実行するのは難しい。
私の立場は、世界的に有名なニューケインジアンと呼ばれる経済学者たち(ブランシャール氏、サマーズ氏、スティグリッツ氏、クルーグマン氏など)に近い。彼らは日本の主流派ほど緊縮でもなく、MMTほど積極的でもない、バランスの取れた見方をしている。
Q. 財務省はなぜ世界の主流とは異なる見方を発表するのでしょうか?
財務省がより慎重な立場を取る理由はいくつか考えられる。一つは、トラスショックのような財政リスクを絶対に避けたいという意図だろう。しかし、あまりに緊縮方向に行きすぎると、国民生活を苦しくする可能性がある。
また、プライマリーバランス黒字化が目標として導入された背景には、当時の経済環境がある。この目標が導入されたのは小泉政権時代の20年以上前で、当時は日本はデフレだった。デフレ状況では名目成長率が金利を上回ることは難しいため、債務残高GDP比を下げるには最低でもプライマリーバランスの黒字化が必要だった。
しかし現在は状況が変わっている。企業の価格転嫁力は強くなり、人手不足で賃金も上昇し、日本はもはやデフレではない。むしろインフレが行き過ぎている状況だ。そうした中でプライマリーバランス黒字化を求めすぎると、財政を締めすぎることになる。
Q. 実際のデータで見ると、日本の財政状況はどのように推移しているのでしょうか?
最も注目すべき指標である政府債務残高のGDP比を見ると、日本は確かに水準としては高い状態が続いているが、コロナショック後は下がり始めている。
さらに驚くべきことに、G7諸国で比較すると、日本はコロナ前の水準と比較して債務残高GDP比の改善度が最も大きい。これは、海外で日本の財政が改善していると評価される理由の一つだ。
また「純債務」(債務から資産を引いたもの)で見ても、日本の状況は改善している。債務だけでなく資産も見るのは、企業の財務状況を評価する時と同様だ。純債務のGDP比で見ると、日本は80%台まで下がっており、これはG7の中でもアメリカよりも良い水準になっている。
このような改善の背景には、インフレによるGDP拡大(分母効果)だけでなく、コロナ対策で発行した国債のうち使われずに基金などに積み上がっている資金や、円安による外貨資産の膨張などがある。
Q. 日本の財政には実際にどれくらいの余力があるのでしょうか?
財政余力を計算するためには、政府債務残高GDP比が上昇しない範囲で可能な歳出規模を検討する必要がある。政府の経済見通しと税収弾性値(名目GDPが1%上がった時に税収が何%上がるか)を考慮して計算した結果、2026年から2034年にかけて毎年12.7兆円から17.8兆円程度の余力があるという結論になる。

ただし政府の見通しが実現するかは不確実なため、余裕を見て10兆円程度が現実的な余力と考えられる。これは現在の国家予算の10〜15%程度に相当する。
この余力をどう使うかが重要だ。ただ単に給付金を配るような政策ではなく、国内の供給力を高める政策に使うべきだ。日本の潜在成長率を引き上げるためには、労働投入量、資本投入量、全要素生産性を高める政策が効果的である。
具体的には、年収の壁の解消、労働時間規制の柔軟化、企業の設備投資を促進する減税などが考えられる。これらは国内の供給力を高め、ひいては物価上昇の抑制にもつながる。
Q. アベノミクスは日本経済にどのような影響を与えたのでしょうか?
アベノミクスはデフレ脱却に大きく貢献した。アベノミクス以前は日本はデフレ状態だったが、その後はマイナスのインフレ率(デフレ)から脱却した。インフレ目標の2%には届かなかったものの、状況は大きく改善した。
アベノミクスによる雇用創出(500万人増)と、ロシアのウクライナ侵攻による商品市場の高騰、そして円安が相まって、企業の価格転嫁に対する憶病さが弱まり、賃金上昇の環境も整った。
ただし、アベノミクス開始から間もない時期に消費税を一気に3%引き上げたことは、経済回復の妨げになった可能性がある。欧州でも消費税(付加価値税)率は20%を超える国が多いが、一度に3%も上げることは極めて珍しい。
Q. 今後の日本経済と財政を考える上で、何を重視すべきでしょうか?
今後の日本経済を考える上で最も重要なのは、国内の供給力を高めることだ。物価高の根本原因は供給力不足にある。
政府の経済見通しでは、「成長実現ケース」と「成長凍結ケース」の2つのシナリオが示されている。「成長凍結ケース」では名目成長率が0.7%まで低下するのに対し、「成長実現ケース」では2%以上の成長が続く。
日本がデフレから脱却していることを考えると、「成長実現ケース」に近い成長が期待できる。そのためには、最低賃金の引き上げ、対日投資の促進、人への投資(リスキリングなど)、GX・DXの推進、科学技術イノベーションの活性化などが必要だ。
特に重要なのは、給付金のような短期的な需要喚起策ではなく、労働投入量、資本投入量、全要素生産性を高める政策だ。それによって日本の潜在成長率を引き上げることが、財政健全化と経済成長の両立につながる。