PIVOT TALK BUSINESS
鬼滅の刃、世界大ヒットの必然
(546)
1.1万回視聴
2025年9月19日

日本での大ヒットに続き、北米でも興行収入1位を記録した『鬼滅の刃 無限城編』。なぜ世界で大ヒットを記録しているのか?その背景にはどんな変化があるのか?アニメ業界を20年以上取材しているジャーナリストの数土直志氏に解説してもらった。 <ゲスト> 数土直志|ジャーナリスト 大手証券会社を経て、2004...
「鬼滅の刃」世界大ヒットが示す日本アニメの新時代
アニメ「鬼滅の刃」が世界的な大ヒットを記録している。特に最新作となる「刀鍛冶の里編」は、公開から間もなく日本国内の興行収入が330億円を突破し、前作「無限列車編」(404億円)の記録を抜くことが確実な勢いだ。さらに北米では初週末に7000万ドル(約105億円)を超える興行収入を記録し、アニメ映画として歴代最高のオープニング記録を樹立した。このヒットは単なる偶然ではなく、日本アニメの転換点と言えるものだ。「鬼滅の刃」はなぜここまで世界中で愛されるのか。その要因と今後の展望について、アニメ業界を20年以上見てきたジャーナリストの数土直志氏に話を聞いた。

Q. 「鬼滅の刃」が世界的な大ヒットとなった理由は?
世界的に見ると、日本アニメはこれまで20年間、人気があるとは言っても比較的ニッチな存在だった。しかし今回、ハリウッドコンテンツに並ぶほどのヒットを記録したことで、ついにメインストリームに入ってきたと言える。
国内でのヒット要因としては、前作「無限列車編」のヒットにより認知度が圧倒的に高まっていたことが大きい。前作は「知っている人が見に行く」状況から始まり、口コミで広がったが、今作は最初から「みんなが知っている」状態でスタートした。また、映画館のスクリーンを占拠するほどの規模で公開され、240分という長尺にもかかわらず、多くの観客を集めている。

北米でのヒットについては、マーケティング戦略が大きく変わったことが注目される。従来のアニメコンベンションだけでなく、サンディエゴ・コミコン(ディズニーやマーベル作品のお披露目の場)で一番良いホールと時間帯を確保し、コアなアニメファンだけでなく、ポップカルチャー全体のファンに向けた大規模な宣伝を展開した。
Q. 映画配給やプロモーションにおけるソニーの役割は?
ソニーピクチャーズとクランチロールの共同配給という体制が非常に効果的だった。クランチロールは北米で強いプラットフォームだが、ヨーロッパやインド、ラテンアメリカなどでの大規模公開にはソニーピクチャーズのグローバルな配給網が大きな力を発揮した。
クランチロールは有料会員だけで1700万人を抱える、アニメに特化した世界最大規模の配信サービスだ。一方でNetflixは一般層、クランチロールはコアなアニメファン層と、住み分けができている。作品を独占配信せず、様々なプラットフォームで展開したことも重要だった。
また、前作「無限列車編」の際に、日本からスタッフや声優が世界各地で舞台挨拶を行っていたことも、次作への布石として効果的だった。現地に行ってインタビューに応じ、顔を見せることで認知度が上がり、今回の結果につながっている。
Q. 北米の視聴者の好みに変化はあるのか?
北米でも日本と同様に、アニメがコアなファンから一般層に広がってきている。以前は「クラスの中の数人が知っている」レベルだったものが、今は「おしゃれな女の子からスポーツをやっている男の子まで、みんなが普通に見る」作品になっている。

一般層に広がったことで、より普遍的な作品が求められるようになった。その中でアクション性の高いものや王道のストーリーが評価されており、「鬼滅の刃」はそこにぴったりとはまっている。他にも「僕のヒーローアカデミア」などの作品も同様の理由で人気だ。
「鬼滅の刃」のストーリーは海外でも分かりやすい。仲間と一緒に戦って一人ずつ敵をクリアしていくという展開や、日本の和装・和風テイストが新鮮に映り、ファンタジックなイメージで受け入れられている。また、コスプレがしやすいキャラクターデザインも人気の要因となっている。
Q. ディズニーなど欧米アニメとの違いは?
近年のディズニーやピクサー作品は、一定のパターンにはまってしまった感がある。企画会議の段階から多くの人が関わり、全ての人が「良い」と思う作品を追求した結果、似たようなストーリーになりがちで、説教臭さも出てきている。
一方、「鬼滅の刃」はR指定がついているなど、より尖った表現ができている。親が子どもに与えたいと思う作品と、クリエイティブに突き進んだ日本のアニメが並べられたとき、子どもたちが自分で選ぶなら新しいものを選ぶ傾向にある。
また、ディズニーはグローバルに受けることを追求しすぎた結果、個性や尖りが失われてしまった面がある。多様性への配慮も行き過ぎて、本来のアメリカらしさが薄れているという見方もある。こうした状況を見て、ディズニーも今後は路線を修正してくる可能性が高い。
Q. 北米以外の国々での反応は?
「鬼滅の刃」は北米だけでなく、アジア諸国でも大ヒットしている。台湾では歴代映画トップ1位に入り、韓国でも大ヒットとなっている。アジアが先行して公開された国々では、ほぼ全てで週末興行1位を記録した。

この成功は、グローバル化が進む中で作品の良さが広く認知されていることと、前述したマーケティングの成功が大きい。前作の段階から世界各地でプロモーションを展開し、次作への期待を高めてきた戦略が実を結んだと言える。
Q. 2D vs 3D CG、日本アニメの強みは?
日本のアニメは2Dの手描きアニメーションが強みとなっている一方、韓国や中国はCGアニメーションが強い。お金をかければCGのクオリティは上がるが、日本はそこまで予算をかけられないため、CGだけでは勝負しづらい。逆に韓国や中国が2Dの手描きアニメで日本に挑むのは難しい状況だ。
興味深いのは、韓国のウェブトゥーン(デジタルコミック)がアニメ化される際、日本のスタジオが選ばれることが増えていること。韓国内に手描きアニメのスタジオが少ないため、日本と手を組む選択をしている。日本と韓国のアニメーション・漫画ビジネスは競合というよりも、協力関係に近づいている。
また、日本のCGアニメーションは「2Dっぽく見える」よう工夫されていることも特徴だ。裏では全てCGで作られていても、2Dの手描きのような表現を目指している。これは日本のアニメならではのアプローチと言える。
Q. 日本アニメの持続的成長のための課題は?
「鬼滅の刃」レベルの別のタイトルが継続的に生まれるかどうかが鍵となる。ポケモンが1999年にヒットしてから「鬼滅の刃」まで26年かかったが、次の作品が20年後では困る。2〜3年ごとに新しいグローバルヒット作が出てくることが理想だ。
人材面では、圧倒的に人手が足りていない。特に2Dアニメは技術習得に時間がかかるため、需要があっても簡単に制作量を増やせない。クリエイター不足に加え、プロデューサーや現場を仕切る制作進行など、あらゆる職種で人材が不足している。
また、制作費は上がっているものの、1つの作業に関わる時間や人数も増えているため、1人あたりの報酬は十分に上がっていない。アニメ制作にはそれだけのコストがかかるという理解を広め、適正な対価を得られる環境を作ることが必要だ。
日本の人口減少を考えると、海外からの才能を引き込むことも重要になる。「日本に来れば成功できる」「本国ではできなかった作品が日本では作れる」と海外クリエイターを誘致する流れが既に始まっている。これからは「日本人が作る日本アニメ」という発想ではなく、「日本アニメというブランド」として世界中の才能を集め、日本から世界に発信していく形になるだろう。