PIVOT TALK BUSINESS
稼ぐ地方の作り方。新しい企業城下町
(406)
8,332回視聴
2025年9月19日

ルクセンブルク、アイルランド、スイス、デンマーク、シンガポール、アイスランドなどの小国は、なぜ世界トップクラスの一人当たりGDPを実現できているのか?これらの小国の戦略から日本の地方は何を応用できるのか?京都大学大学院の関山健教授と、青山社中の朝比奈一郎CEOに聞いた。 <ゲスト> 関山健|京都...
稼ぐ地域をつくるために必要な3つの視点
「消滅可能性都市」と呼ばれる日本の地方都市。でも、その解決策は国からの支援に頼るだけではない。地域の強みを生かした「稼ぐ力」をどう育てるか――。国家経済と地方創生の専門家が語る、成功するための秘訣とは?
Q. 日本の地方創生は、これまでどのような歴史をたどってきたのでしょうか?
日本の地域活性化の歴史は、大きく3つのフェーズに分けることができます。

第1フェーズ(1970年代~80年代)は「過疎問題」が焦点でした。東京への一極集中が進み、地方の過疎化が深刻化。この時期は「東京と地方の格差をどう解消するか」が主要テーマで、田中角栄の「日本列島改造論」や竹下登内閣の「ふるさと創生(1億円給付)」などが代表的な政策でした。
第2フェーズ(1990年代~2000年代)は「正しいプロセス」重視の時代。地方分権一括法の制定など、地方自治や住民参加に焦点が当てられました。しかし、この時期の取り組みも抜本的な問題解決には至りませんでした。
第3フェーズ(2010年代~)は「消滅可能性都市」という危機感から始まりました。日本創成会議が発表した報告書では、20~30代の女性人口が2040年までに半減する自治体が全国の約半数に上るという衝撃的な予測が示されました。
ここで大きく変わったのは、国の姿勢です。かつては「国が全部決めてやる」という自信に満ちた姿勢でしたが、財政余力の低下とともに「地域が自分で考えてください」というスタンスに変化しました。RESASなどのデータシステムを提供し、各地域が自ら戦略を立てることを促す形に変わったのです。
Q. 世界的に見て、経済的に成功している「稼ぐ国」にはどのような特徴がありますか?
世界の一人当たりGDPランキングの上位に位置する国々を見ると、ルクセンブルク、アイルランド、スイス、シンガポールなどの小国が目立ちます。これらの国々には共通する3つの特徴があります。

1つ目は「成長思考の強い政府」です。競争を恐れず、積極的に新しい産業を育てようとする姿勢があります。例えばシンガポールは「このままでは生き残れない」という危機感から、常に新しい産業を取り込み続けています。
2つ目は「大人の教育の充実」です。リスキリング(職業能力の再開発)に力を入れ、労働者が新しい技術や知識を身につける機会を提供しています。特にシンガポールではSKILLSFUTURE制度により、25歳以上の全市民に教育バウチャーを配布し、継続的な学びを支援しています。
3つ目は「外部人材の積極的な受け入れ」です。自国民だけでは足りない人材を海外から積極的に受け入れています。シンガポールでは政府が主導して、特に先端技術分野の人材を世界中から集めています。
これら3つの要素が揃うことで、小さな国でも高い経済成長を実現しているのです。
Q. 日本の地域活性化において、「官主導」から「民主導」への転換が重要とのことですが、なぜでしょうか?
従来の地方創生は官主導で進められてきましたが、その効果は限定的でした。例えば、竹下内閣時代の「ふるさと創生1億円」は話題になりましたが、それで地方が本当に活性化したとは言い難い状況です。
なぜ官主導では限界があるのか。その理由の一つは、地方自治体の「経済部」の弱さにあります。一般的に自治体では、住民に近いサービスである教育や福祉、道路整備などを担当する部署にエースの職員が配置され、予算も多く割り当てられます。一方、経済部門は相対的に弱く、予算も少ない傾向にあります。
また、自治体の多くは「外交部」を持っていません。中国の都市では人口100万人程度の都市でも外交部があり、独自に海外との関係構築を進めていますが、日本の地方自治体にはそうした機能が弱いのです。
こうした状況を打破するには、民間主導の取り組みが重要になります。前橋市の例では、JINSのCEOである田中仁氏らが中心となって「太陽の会」という組織を結成。民間人約70名がそれぞれ50万円を出資し、地域活性化に取り組んでいます。また、長崎では、ジャパネットたかたの高田明氏が中心となり、民間資金でスタジアム建設を進めるなど、採算を取りながら地域活性化を図る動きが広がっています。
こうした民主導の取り組みを支援するため、石破茂元首相が「令和版企業城下町」構想を打ち出すなど、政策面でも官民連携の新たな形が模索されています。
Q. 日本の地域には、どのような強みや可能性があるのでしょうか?
日本の地域には、それぞれ固有の歴史や文化、産業基盤があり、これらを活かした発展の可能性を秘めています。朝比奈氏は「不幸な地域はみな似ているが、幸福な地域はそれぞれ異なる形で幸福になる」という「逆トルストイ」の考え方を提唱しています。
具体的な成功例として、様々な地域の取り組みが挙げられます:

三条市(新潟県):400年の金属加工技術を活かした産業振興
妙高市(新潟県):パウダースノーを活かした観光業の発展
中標津町(北海道):牛乳生産量が本州一であることを活かしたチーズ産業の展開
葉山町(神奈川県):良好な住環境を活かした移住促進
また、海士町(島根県)のように、人口わずか2,300人ほどの離島でも、冷凍技術(CASシステム)を導入して新鮮な海産物を都市部に届けるビジネスを確立したり、教育環境を整備して全国から生徒を集める高校を運営したりするなど、創意工夫で活路を見出している例もあります。
川場村(群馬県)は、世田谷区と連携し、区内の小学5年生全員が訪れる体験学習を実施。この取り組みにより、子どもたちが大人になっても再訪するという好循環を生み出しています。また、道の駅「川場田園プラザ」は全国的に有名な成功例となっています。
これらの事例は、地域資源を活かし、外部との連携を図ることで、小さな地域でも「稼ぐ力」を持てることを示しています。
Q. 地域活性化のリーダーシップはどこから生まれるのでしょうか?
地域活性化において重要なのは「リーダーシップ」ですが、これは必ずしも公式な地位や役職に紐づくものではありません。
リーダーシップの本質は「指導力」ではなく「始める・動く力」です。マーティン・ルーサー・キングやマハトマ・ガンジーのように、必ずしも公的な地位にない人でも強いリーダーシップを発揮できます。
地域活性化においても同様で、リーダーは市長や県知事といった公職者である必要はなく、地元企業の経営者や一般市民が中心となって動き出すケースも多くあります。前橋市の例では、元信用金庫職員だった田中仁氏(現JINS CEO)が中心となって街づくりを推進しています。
また、地域活性化のリーダーに共通する特性として「危機感」が挙げられます。「このままでは地域が衰退してしまう」という強い危機感が、新たな取り組みを始める原動力となっています。一方で、将来に対する前向きなビジョンや「ワクワク感」も重要な動機付けとなります。
成功している地域では、行政と民間が適切に役割分担しています。理想的なのは、行政が強いリーダーシップを持ちつつも、民間の活力を最大限に活かせるような環境を整えることです。時には「行政は邪魔をしない」という姿勢も重要で、これは規制緩和や民間活動の阻害要因を取り除くという形で表れます。
Q. 地域が「稼ぐ力」を高めるために、どのような取り組みが有効でしょうか?
地域が「稼ぐ力」を高めるには、以下のような取り組みが有効です:

1. 地域特性に合った産業戦略の構築:
トヨタ市(人口約40万人)や日立市(人口約16万人)のように、中核企業を中心とした産業集積を形成することで、地域経済を活性化できます。また、川崎市、北九州市、浜松市などの中核都市は、人口規模が似たバーレーン、マカオ、ルクセンブルクといった国々と比較することで、目指すべき経済規模のイメージを持つことができます。
2. 地域特性を活かした教育機関の設立:
地域の産業特性に合わせた教育機関を設けることで、人材育成と産業振興の好循環を生み出せます。例えば、観光業が盛んな地域には観光専門の学校を、農業が盛んな地域には農業に特化した教育機関を設置するなど、地域の強みと連動した人材育成が重要です。
3. 外部人材の戦略的受け入れ:
地域によって必要な人材は異なります。例えば松江市では、ITエンジニアのルビー言語の発明者を中心に産業振興を図るため、インドのIT人材を積極的に誘致しています。地域の空港と特定の国・地域を直行便で結ぶことで、人材の往来を活性化させる戦略も有効です。
4. 外部人材の受け入れ体制整備:
単に人材を受け入れるだけでなく、その後の定着や次世代の育成まで視野に入れた体制づくりが重要です。特に子どもたちが言語や文化の狭間で苦しむことのないよう、教育環境の整備が必要です。
5. 積極的な関係構築を促す環境づくり:
テレワークやワーケーションの促進においても、単に「都会から逃げる」という消極的な動機ではなく、地域と積極的に関わり、地域課題の解決に参画するような「リバティワーケーション」の考え方が重要です。
6. 質の高い観光の推進:
インバウンド観光においても、単に数を増やすのではなく、地域の自然や文化を深く体験する「アドベンチャーツーリズム」のような質の高い観光を目指すべきです。
これらの取り組みを通じて、各地域が独自の強みを活かした「稼ぐ力」を育てていくことが、日本全体の経済活性化にもつながります。
Q. 日本の将来像として、どのような国のかたちが望ましいと考えられますか?
日本の将来像として、「多極分散型国家」の形が望ましいと考えられます。これは単一の中央集権ではなく、各地域がそれぞれの特性を活かして発展する形です。
歴史的に見れば、日本は元々各地に特色ある文化や産業を持つ「国」の集合体でした。戦国時代の尾張や明治維新期の薩摩藩、長州藩などが独自の判断で行動し、日本全体の変革をリードした例もあります。この「地域の独立気質」を現代に活かすことが重要です。
具体的には、政府機関の地方移転や、各地域の特性に合わせた産業政策の展開が考えられます。例えば防災庁の地方設置など、機能分散を進めることで地方の活性化につながります。
また、東京と大阪を結ぶリニア中央新幹線の開通により、この区間が1時間圏内になることで、東京一極集中から「軸状の発展」へと転換する可能性もあります。
これからの日本は、農水産業やエネルギーなど地方に強みがある分野を中心に、各地域が独自の戦略で発展していく形が望ましいでしょう。そのためには、地域の自立性を高め、「地域の食い物づくり」や「産業中心の自治体運営」への転換が求められます。
人口減少時代においては、日本全体を一律に成長させることは困難です。しかし、地域ごとに特色ある発展戦略を描き、「小さな成功」を積み重ねていくことで、日本全体の活力を維持していくことができるでしょう。