PIVOT TALK LIFE
【動物の生存戦略】飢えたシジュウカラは「ギャンブル」する?
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2025年9月18日

生き残るために様々な行動をする動物たちの神秘。飢えたシジュウカラが生き残るためにする「ギャンブル」とは?ユニークな「動物行動学」の世界を、松原始氏に聞いた。 ▼ゲスト 松原始|動物行動学者 1969年、奈良県生まれ。東京大学総合研究博物館•特任准教授。京都大学理学部卒。同大学院理学研究科博士課程修...
進化の真実を明かす - 驚くべき動物たちの生存戦略
動物たちは生き残るために実に多様な戦略を編み出してきた。「繁殖」「捕食」「移動」——この三つの観点から見ると、生物の行動パターンには思いもよらない工夫が隠されている。動物行動学者の松原始氏に、自然界の驚くべき生存競争の実態について聞いた。
Q. 動物の行動を「繁殖」「捕食」「移動」という切り口で見ることの意義は何ですか?
生物が繁殖しなければ種は滅んでしまうため、繁殖は避けて通れない重要な要素だ。また動物は植物と違って食物を摂取する必要があり、どのように捕食するかは生存に直結する課題となる。さらに、動物の特徴は移動できることだ。餌がなくなれば別の場所へ移動することも、あるいは動かないなりの工夫をすることも、生き残るための重要な戦略となる。
Q. 繁殖戦略で特に興味深い例はありますか?
鮭の例が興味深い。メスが川底を掘り下げて卵を産み、オスがそこに寄り添って精子をかけて受精させる。一般的に強いオスは体が大きく、背中が盛り上がり鼻先が曲がっていて、ライバルを威嚇して追い払う。しかし、体の小さいオスにも繁殖の機会がある。「スニーカー戦略」と呼ばれるもので、小柄なオスが「自分は取るに足らない存在だ」と思わせるように振る舞い、最後の瞬間に忍び寄って受精だけを行う。

Q. スニーカー戦略は他の生物にも見られるのですか?
エリマキシギという鳥にも同様の戦略が見られる。この鳥には3つのタイプのオスがいる。「縄張り型」は強いオスで縄張りを持ち、「サテライト型」はその周辺をうろついて暴れるメスを拾い歩く。そして「メス擬態型」は完全にメスのふりをして、警戒されずに交尾の機会を得る。メス擬態が完璧なため、時には他のオスに求愛されることもある。これらの型が今も存在しているということは、それぞれが一定の成功を収めている証拠だ。

Q. 捕食に関して、どのような興味深い戦略がありますか?
擬態を使って餌を呼び寄せる方法がある。アンコウの仲間は、第一背びれが変化した釣り竿のような器官を持ち、それを光らせたり動かしたりして小魚を誘い寄せる。小魚が餌だと思って近づくと、すぐ後ろにある口で捕食される。
また、クモオツノメクサリヘビという蛇も興味深い。イランなどの砂漠に生息するこの蛇は、尻尾がささくれ立っていて先端に丸いものがついており、これが蜘蛛の胴体と足のように見える。蛇自身は岩に擬態して体を隠し、尻尾だけを動かして虫のように見せる。この動きに誘われた鳥が餌だと思って近づき、蛇の存在に気づかずに頭に止まることさえある。鳥が尻尾に飛びかかった瞬間、蛇は後ろから噛みつく。
Q. 群れで移動する獲物を捕らえる方法はどのようなものですか?
鳥の群れやコウモリの群れなど、集団で逃げる獲物をどう捕らえるかは長い間謎だった。以前は捕食者が群れの中の特定の一個体をターゲットにして追いかけると考えられていたが、コンピューターによる解析が進むと、それは非常に難しいことが分かってきた。群れの中の一点を目標にして突進する方が効率的で、その点に必ず誰かがいるため捕食できるという研究結果が最近出ている。これは観察とシミュレーションの両方から検証されている。
Q. 「食べられることを前提とした」生存戦略とは何ですか?
寄生虫の例が典型的だ。ハリガネムシという水生生物は、複数の宿主を経て成長する。まず卵がカゲロウの幼虫に食べられ、カゲロウの体内で幼虫になる。カゲロウが成虫になって飛び立つとカマキリに食べられ、カマキリの腹の中でハリガネムシは成長する。十分に成長すると、化学物質を出してカマキリの脳を操作し、水面に引き寄せる。カマキリが水に落ちると、ハリガネムシは体外に出て水中で生活を始める。このように、宿主が次の宿主に食べられることを前提とした生活環を持っている。

Q. 動物はリスクにどう対応しているのですか?
動物は基本的にリスクを嫌う。例えば、餌の量が変動する場所と、平均すると少ないが安定して餌がある場所があれば、通常は後者を選ぶ。しかし、飢えて体力が落ちてくると、態度が変わる。固定的に少ない餌では生き残れないことが分かると、変動が大きくても平均値の高い場所、つまりハイリスク・ハイリターンの選択肢に賭けるようになる。これは最後の望みにかける合理的な選択だ。
Q. クモの網作りにもそうした判断があるのですか?
クモの網作りも同様の原理で説明できる。クモは自分のタンパク質を使って糸を作るため、網を張るほど自分の資源を消費する。餌が取れなくなってきた場合、普通なら投資を控えるところだが、そうすると確実に死んでしまう。そこで逆に大きな網を張るクモもいる。これは全資源を投入して一発逆転を狙う戦略だ。このような行動が残っているということは、確率は低くても成功する場合があり、生存競争において有効な戦略なのだろう。
Q. 移動の面で特筆すべき生物はいますか?
キョクアジサシという鳥は、生物の中でおそらく一生の間に最も長い距離を移動する。北極圏で繁殖し、非繁殖期は南極圏で過ごすという驚異的な渡りを行う。風に合わせて経路を調整しながら飛ぶため、1年間で約8万kmもの距離を移動し、30年ほど生きるとすれば生涯で約240万km、地球を約60周する計算になる。

Q. なぜそこまで長距離を移動するのでしょうか?
確定的な答えは出ていないが、極地の春から夏にかけては爆発的に虫が発生するため、それを餌とするために長距離移動する価値があるという説がある。また、北極圏の海は深海からミネラルが湧き上がってくるため、氷が張っていない時期は生物生産が盛んで、栄養が豊富だ。このような環境的メリットがあるため、膨大なエネルギーを使う長距離移動が進化したと考えられている。
Q. 科学として「断言しない」姿勢についてどう考えますか?
科学とは現状最もうまく説明できる仮説で構築されているものだ。明日にでももっと良い説が出てきたら覆る可能性がある。そのため、「これは絶対そうだ」とは言えない。反証可能性があるからこそ科学であり、反論が出せないようなものは科学とは言えない。科学的な説明の信頼性は、観察や数値的なバックグラウンドといった根拠をどれだけ積み重ねられたか、反論にどれだけ耐えられたかという「厚み」の違いで判断される。
Q. 動物行動学の魅力はどこにありますか?
動物の面白い行動や不思議な特徴に関することは、大体が生態学や行動学の領域に含まれる。生物学の中でも特に面白い要素が詰まった分野だと思う。動物たちが繁殖、捕食、移動の面でどのような戦略を編み出しているかを知ることは、生命の多様性と進化の素晴らしさを理解する手がかりになる。
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動物たちの生存戦略は、私たち人間の社会生活にも通じる知恵に満ちている。強さを誇示するだけが成功ではなく、時には「なめられたほうが得」という戦略もある。また、極限状態ではリスクを取る判断が生存につながることもある。松原氏の研究は、動物行動の観察から、生命の本質的な知恵を読み解く試みといえるだろう。