PIVOT TALK LIFE
【動物行動学】キリンの首はなぜ長いのか
(538)
8,518回視聴
2025年9月18日

キリンの首はなぜ長い?カラスは「言葉」を話すのか?そんな身近な動物たちの行動を科学的に解き明かす「動物行動学」の世界を、松原始氏に聞いた。 <ゲスト> 松原始|動物行動学者 1969年、奈良県生まれ。東京大学総合研究博物館•特任准教授。京都大学理学部卒。同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行...
キリンの首はなぜ長いのか?「動物行動学」の世界
動物の行動を科学的に研究する「動物行動学」。この学問が明らかにした驚きの発見から、身近な疑問の答えまで、東京大学総合研究博物館・特任准教授の松原始氏に聞いた。

Q. 動物行動学とはどのような学問なのですか?
動物行動学は英語で「エソロジー」と呼ばれますが、単純に言えば「動物の行動の研究」です。実は動物の行動とは、動物がやること全て。視線をどう動かすかといった細かな動きはもちろん、寝ているだけでも「なぜここでこんなに寝ているのか」という視点で研究対象になります。プーさんの言葉を借りれば「何にもしないをしている」というのも立派な行動なのです。

Q. 動物行動学はいつ頃から始まったのですか?
動物行動学が学問として認知されたのは、おそらくここ50年くらいのことです。しかし、動物の行動への興味は古くからありました。例えばイソップ物語には「カラスが水を飲むために石を放り込んで水位を上げる」話が書かれています。長い間これは単なる伝承とされてきましたが、現代の実験によってカラスが実際にそうした行動をとることが証明されました。
科学の発展初期には「動物は生きた機械」と考えられる時代があり、動物の行動に対する人間的な解釈は排除されました。しかし最近の数十年間で、科学的観察の結果、動物たちは驚くほど複雑な行動をとることが明らかになってきています。カラスの道具使用能力のように、かつては人間の思い込みと切り捨てられていた逸話が、実は科学的な根拠を持つと証明されるケースも増えています。
Q. 虫が電球の周りを飛んで激突するのはなぜですか?
これには複数の説明があります。一つは「走性」と呼ばれる、光に向かって突進する性質によるものです。しかし、最近有力視されているのは別の説です。
最新の研究では、虫にとって「明るい方が上」だと勘違いしているという説が注目されています。自然界では通常、空の方が明るいため、虫は背中を光に向けて飛ぶようプログラムされています。ところが人工の光源が現れると「こっちが上だ」と誤認して向きを変え、結果的に光源を中心にくるくる回って衝突してしまうのです。
この説を裏付ける実験もあります。虫の真下から突然光を当てると、背面飛行になって光に突っ込む現象が観察されています。私たち人間の感覚では上下を間違えるなんて考えられませんが、体重が0.001gほどの虫にとっては、重力よりも空気の粘性の方が重要な要素なのです。
Q. カラスは本当に言葉を話していますか?
カラスが会話しているように聞こえるのは、単なる人間の思い込みではありません。科学的に調べると、確かに「音声信号のやり取り」をしていることがわかっています。
例えば、繁華街の電柱の上でカラスが「カァ、カァ、カァ」と鳴いているのを見かけることがありますが、これは「フードコール」と呼ばれる「ここに餌があるよ」というサインです。それを聞いて集まってきたカラスたちが一声ずつ鳴くのは「俺はここにいるよ」という合図です。

興味深いことに、カラスは声を聞くだけで仲間が誰かを識別できます。これは餌場の状況を判断するのに重要な能力です。「自分より強いカラスばかりいる」と判断すれば別の場所へ行くかもしれませんし、「対処できる相手ばかり」なら集まった方が有利になります。
カラスが朝によく鳴くのは、都市部では朝にゴミ出しがあり、餌が多いからかもしれません。ゴミ出しのタイミングが関係なければ、一日中いつでも鳴いていると考えられます。
Q. 分裂する生物に「誕生日」はあるのでしょうか?
ゾウリムシのような単細胞生物が分裂するとき、興味深い哲学的問題が生じます。分裂した後、どちらが「オリジナル」なのでしょうか?あるいは、分裂した瞬間にオリジナルは消えて、新たな2個体が生まれたと考えるべきなのでしょうか?
さらに複雑なのは、ゾウリムシには「接合」という現象があり、2匹がくっついて遺伝情報を交換することもあります。その場合、交換後は別の生物になったのか、それともどちらかは同一なのかという問題も生じます。
人間のような多細胞生物では、生殖細胞(卵子や精子)が受精して新しい個体になるというプロセスがあるため、「誕生」の概念は比較的明確です。しかし単細胞生物の場合、体そのものが生殖細胞であるため、「誕生日」という概念が曖昧になってしまうのです。
幸いなことに、ゾウリムシには自意識がないため、彼らがこの問題で悩むことはありません。
Q. キリンの首が長い理由は何ですか?
キリンの首が長い理由については、従来「高いところの葉を食べるため」という説明がありました。これは「自然選択」の観点から、少しでも首が長い個体がより多くの食物を得られ、生き残りやすかったという理解です。
その後、「ネックスパーリング」という首を使った闘いからメスを獲得するために首が長くなったという説も登場しました。しかしこれだとメスの首まで長い理由が説明できません。
最新の研究では、オスとメスそれぞれに首が長くなる理由があるという説が提唱されています。確かにオスの方が体が大きく、首も長いのですが、体に対する首の比率で見るとメスの方が大きいのです。
調査によると、メスはより細長い首を活かして、木が茂る奥深くまで口を届かせることができます。また、キリンは大型動物でありながら季節移動をしないという特徴があります。これは高いところの葉を食べられるため、干ばつの時期でも移動せずに済むからです。

そして、オスはメスを獲得するために首を使って闘うため、首を太くする必要がありました。この説明は、オスとメスそれぞれの首の特徴をうまく説明しています。ただし科学は常にオープンクエスチョンであり、将来さらに新しい説が登場する可能性も十分あります。
Q. 動物行動学は実生活でどのように役立っていますか?
動物行動学の知見は、動物による被害防止などに役立てられています。例えば、風力発電の風車に鳥が激突する問題では、羽根の1枚だけ色を変えることで激突が劇的に減少することがわかっています。また、羽に縞模様を付けると回転パターンが目立ちやすくなり、鳥が認識しやすくなるという研究成果もあります。
このように、動物の視覚や認知機能を理解することで、人間と動物が共存するための効果的な対策を開発できるのです。
Q. 動物行動学の研究はどのように進められるのですか?
動物行動学の研究は、まず観察から始まります。例えば「カラスが朝によく鳴く」という観察があれば、それを科学的な問いに発展させます。本当に朝に多いのか、それは餌の有無と関係があるのか、という具合に仮説を立て、検証していきます。
研究者は何年もかけて同じ動物を観察することもあります。松原氏自身、京都で2年間カラスの縄張りを観察し、ハシブトガラスとハシボソガラスで環境利用の仕方が異なることを明らかにしました。
長期間の観察でも明確な結論が得られないことはありますが、そこで諦めず継続することで新たな発見につながることもあります。このように、動物行動学は忍耐強い観察と客観的な検証を重ねることで進展してきました。
今後も動物行動学の研究は続き、私たちの身の回りの生き物たちの不思議な行動の謎が、一つずつ解き明かされていくでしょう。