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イギリスの「ISA」から学ぶこと:NISA制度の課題
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2025年9月16日

「金融庁税制改正要望」で、NISAの変更案が明らかに。つみたて投資枠の未成年への拡大、対象商品の拡充、そしてスイッチング解禁など、注目すべき点を有識者が解説。今後のNISA制度の課題と展望について考察する。 <ゲスト> 野尻哲史|合同会社フィンウェル研究所代表 一橋大学商学部卒。山一証券、メリルリ...
【イギリスの制度に近づいた新NISA、今後の課題は高齢層向け改革】
若年層だけでなく高齢者も使いやすいNISAへ。投資商品のスイッチング問題と相続時の非課税継続が鍵に。
Q. イギリスのISAから学べることはありますか?
日本でNISAが導入された2014年頃、私はイギリスのISAを調査するために現地へ出張し、広告や勧誘方法、金融商品などを詳しく調べました。当時、ISAは非常に優れた制度だと感じ、そのまま日本に導入したいと思ったものです。

しかし、初期の日本版NISAは金額の上限がかなり厳しく、保有期間も5年に限定されるなど制約が多く、長期投資による資産形成には不十分でした。
ところが昨年の制度改正で大幅な変更がありました。まず非課税期間が無期限になり、制度そのものも恒久化されました。これは2014年当時のイギリスのISAの姿そのものであり、イギリスと同等レベルになったと感じました。
ただ、一点違いがあります。この10年間でイギリスのISAは高齢の口座保有者向けの改革が進みました。高齢者が有価証券を持ち続けるための制度改善が行われたのです。残念ながら、その点はまだ日本のNISAには取り入れられていません。
若い世代の資産形成という点では、NISAは非常に良い制度になりましたが、高齢者向けの改革はこれからの課題といえるでしょう。
Q. イギリスのISAでは資産形成に成功している人も多いのでしょうか?
イギリスでは公的な統計には表れていませんが、「ISAミリオネア」と呼ばれる、ISAで資産を1000万ポンド以上に増やした人が一定数いるといわれています。
イギリスのISAの特徴は、年間の投資上限はありますが、トータルの保有上限がない点です。日本のNISAには1800万円という非課税保有上限額がありますが、イギリスではどんどん投資を続けられるため、資産を大きく育てることが可能です。
ただし、日本のNISAも現状では1800万円まで投資した人はまだいません。新NISAが始まって3年目ですので、1年に360万円投資しても5年かからないと上限に達しません。実際に1800万円の投資をする人は、特に若い世代では多くないでしょう。働きながら投資を続けることを考えると、現在の上限額はまだ十分大きいと言えます。
もちろん、NISA内で投資した資産が10倍になれば残高は1800万円を超えますが、非課税保有上限額は時価ではなく投資元本で計算されるため、運用成績が良くても問題ありません。
Q. 投資商品の入れ替え(スイッチング)とは何ですか?現状と何が違うのでしょう?
入れ替えについては、現役層と高齢層で考え方が異なります。高齢層の方々は、現役時代に積み上げた資産が株式などのハイリスク・ハイリターン商品である場合が多いですが、退職後に資産を取り崩す段階になると、価格変動が大きいと不安になります。そこで、リスクの少ない商品に変えたいというニーズが強くなります。

現状のNISAでは、例えば1800万円の投資元本があり、運用で1200万円の利益が出て合計3000万円になった場合、これをリスクの低い商品に一度に切り替えることができません。元本分の枠が翌年に開くため、1年目は1800万円のうち360万円分(年間投資上限額)しか売却できず、5年かけて全額を入れ替える必要があります。
さらに、運用益の1200万円分はスイッチングの対象にならず、NISA口座から出さなければなりません。課税口座に移すか、生活費に充てるかの選択を迫られるわけです。

現役層にとっても問題があります。2014年当初は投資信託の信託報酬が高かったのですが、この10年で低コストの商品が増えました。NISA内の高コスト商品を低コスト商品に切り替えたい場合も、同様の制約があります。
金融庁の税制改正要望には「投資商品の入れ替えをしやすくするための非課税保有限度額の当年中の復活」とありますが、これが実現しても、年間360万円という上限は変わらないため、大きな改善にはなりません。ただ、スイッチングを視野に入れ始めたという点では評価できます。
Q. 今回の改正要望で注目すべき点は何ですか?
若年層向けの枠の拡大、特に18歳未満へのつみたて投資枠の拡充は注目すべき点です。例えば10代の子どもや10歳以下の子どもの口座がどれくらい開設され、誰がお金を拠出するのか(親や祖父母など)という動きは興味深いところです。
ただ、これによって投資商品の市場に大きな変化が生じるとは考えにくいです。若年層向けの投資商品は初心者向けの商品が中心ですので、その市場が多少拡大する程度でしょう。
高齢者の資産が若年層に流れる可能性もありますが、相続税や贈与税の問題もあるため、贈与税の非課税枠(年間110万円)の範囲内での移動が中心になると思われます。
Q. 現状のNISA制度の課題や今後必要な改善点はありますか?
NISA制度がスタートして10年以上が経過しましたが、高齢層の資産をNISA内に維持することが重要な課題です。そのためには、スイッチングを時間をかけずに直接行えるようにする必要があります。
具体的には、投資元本が1800万円で時価評価額が3000万円になった場合、その全額をリスクの低い商品に移せるようにすることが望ましいです。時価評価ベースでの移行ができる制度設計に変えていくべきでしょう。
もう一つの課題は相続時の扱いです。例えば夫婦でそれぞれNISA口座を持っている場合、一方が亡くなると、その口座は課税口座に移行します。特に退職後は資産形成口座から生活費を賄うことになるため、配偶者が亡くなった後も生活を続ける必要がある側にとって、非課税のままで引き継げないのは大きな問題です。

イギリスでは「相続ISA」という仕組みがあり、配偶者が亡くなった場合、その非課税口座の残高に相当する金額を翌年の配偶者の年間投資上限額に上乗せできます。これにより、非課税資産を引き継ぐことが可能です。
NISAが国民に広く普及するほど、こうした高齢者向けの制度整備が必要になります。特に今の40代、50代の方々が退職を迎える頃には、スイッチングや相続の問題が重要になってくるでしょう。今からその準備を進めるべきだと考えています。