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新しい世界秩序:4つのシナリオ
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2025年9月30日

米国の変調により、グローバル化の後退により、世界秩序が大きく変わりつつある。今後の世界秩序の4つのシナリオとともに、小国でも大国でもない日本の戦略を、田所昌幸・慶應義塾大学名誉教授に聞いた。 <ゲスト> 田所昌幸|国際大学 特任教授 法学博士。慶應義塾大学名誉教授。専門は国際政治学。著書に『国連財...
グローバル化の終焉と世界秩序の行方:田所昌幸教授が語る4つのシナリオ
グローバル化が終わりを迎え、世界秩序が大きな転換点を迎えている。国際大学特任教授の田所昌幸氏は、今後の世界秩序について4つのシナリオを提示する。アメリカ主導の秩序は持続可能なのか、中国は新たな覇権国になりうるのか、そして日本はどのような戦略をとるべきなのか――。長期的視点から世界の行方を展望する。

Q. なぜ「国際秩序」ではなく「世界秩序」という言葉を使うのでしょうか?
「国際秩序」という言葉は、国家が括弧として存在することが前提となっています。しかし、現在私たちが慣れ親しんでいる国家という概念はそれほど古くからあったわけではありません。私たちがよく知る主権国家の概念はヨーロッパ近代に起源があり、主権国家体系は17世紀頃のヨーロッパに起源があります。また、一つの民族が一つの国家を持つべきだという考え方は、19世紀後半から現れた比較的新しい考え方です。
より広い視点で秩序の問題を考えるためには、「世界秩序」という言葉を使う方が適切だと考えています。歴史的にも地理的にも、より包括的な視点から現在の変化を捉えることができるでしょう。
Q. グローバル化の時代は終わったのでしょうか?
冷戦終結後の約30年間は「グローバル化の時代」と呼ぶことができるでしょう。トーマス・フリードマンが描いた「フラット化する世界」、つまり世界中が一つの市場となり、誰もがインターネットでつながり、自由に交流できる世界が実現するかに見えました。しかし、現在ではその流れが逆転しています。
トランプ政権以降、アメリカはグローバリゼーションと逆方向の政策を取り始めました。同時に中国も、フリードマン流のグローバリゼーションの一員として調和的に存在するのではなく、自国流の秩序を構築しようとしています。市場は分断し、制度も分断し、国連や国際法といった制度もアメリカ自身が支えなくなっています。

WTO協定などの国際的な枠組みはほとんど機能せず、ウクライナでは主権国家の領土を武力で変更しないという重要な規範が崩れています。民主主義と市場経済という規範についても、多くの国で民主主義の後退が見られます。これらの状況から、グローバリゼーションの時代から次の時代へと移行していると考えられます。
Q. 今後の世界秩序について、どのようなシナリオが考えられますか?
世界秩序の未来について、4つのシナリオが考えられます。
第一のシナリオは「一つの世界」、再グローバル化です。これはアメリカの強さが継続するシナリオです。しかし問題は、アメリカが帝国として世界秩序に責任を持つ意思を失っていることです。アメリカは力の面では依然として強大ですが、国内でアメリカの世界における役割についてのコンセンサスが形成できていません。冷戦時代のような国民的合意が取れなくなっています。
第二のシナリオは「三つの世界」です。これは米国と同盟国、中国を中心とする陣営、そしてグローバルサウスという三つのブロックに分かれるシナリオです。アメリカは中国と対抗するために同盟国を束ね、中国は独自の秩序を構築しようとします。グローバルサウスの国々は、どちらの陣営にも完全に取り込まれず、米中両陣営から利益を引き出そうとするでしょう。
第三のシナリオは「多数の世界」です。アメリカが覇権国としての役割を放棄し、中国もグローバルな秩序を管理する能力も責任感も持たない場合、世界中に地域大国が台頭してくるでしょう。インド、ブラジル、トルコ、エジプト、ロシアなどの国々が、自国の周辺は自国の勢力圏だと主張するようになります。19世紀のヨーロッパの列強のような競争的な秩序が生まれる可能性があります。
第四のシナリオは「無数の世界」です。これは最もカオスなシナリオで、国家間の秩序が崩壊し、情報や人々の移動のコントロールが強化される世界です。各国が国境を再強化し、国家の枠組みが強化される可能性があります。

Q. 米中対立の中で、中国は新たな覇権国になる可能性はありますか?
中国の力の伸びは目覚ましく、冷戦後30年間の最大の勝者は中国と言えるでしょう。しかし、中国が新たな覇権国になるには多くの障害があります。
覇権国や帝国は、巨大な地域を統治・統御する必要があります。そのためには腕力だけでは不十分で、周辺国に自国のリーダーシップを受け入れてもらう必要があります。中国は一帯一路などを通じて経済的利益を分配し、自国を支持する国を増やそうとしていますが、敵も多いのが現状です。
さらに重要なのは規範的な魅力です。自由や民主主義といった価値観は、アメリカ人だけでなく世界中の人々に魅力的に映ります。しかし中国は「中華民族の偉大なる復興」という自国中心の夢を語るのみで、グローバルな魅力を持つ規範的なメッセージを提供できていません。
これはソ連との大きな違いです。ソ連はマルクス主義的な解放の物語を語ることができ、西側世界でもそれに惹かれた知識人が多くいました。現在の中国にはそのような普遍的な規範的装置が欠けており、新たな覇権国になるには課題が多いと言えるでしょう。
Q. グローバルサウスとはどのような国々で、米中対立の中でどのような立場をとるのでしょうか?
グローバルサウスとは、G7のような豊かな先進国でも、中国のような権威主義国でもない、途上国や新興国を指します。彼らの多くは旧植民地であり、欧米帝国主義によって植民地化された記憶を共有しています。IMFなどの国際機関を通じた構造改革などで苦しめられた経験から、欧米に対して良いイメージを持っていない国が多いです。
中国の台頭は彼らにとって歓迎すべきことであり、中国の開発モデルにも魅力を感じています。しかし、グローバルサウスの国々は一枚岩ではなく、相互に対立することもあれば、中国に対する姿勢も一様ではありません。
彼らにとって最重要課題は国内の開発であり、アメリカが提供する秩序と中国が提供する秩序のどちらがより有益かを考え、どちらにも飲み込まれることなく、両方から良いものを引き出そうとする姿勢をとるでしょう。
インドは特殊な存在で、自らをグローバルサウスの一員と位置づけつつも、地政学的な大国としての野心も持っています。インドはケースバイケースで、時に中国側に、時に米国側に立つという柔軟な姿勢をとっています。
Q. 日本はこれらのシナリオの中でどのような立場をとるべきでしょうか?
日本は地政学的に見て、アメリカと同盟関係にあるG7の一員として、「三つの世界」シナリオでは欧米ブロックに位置づけられます。日本が中国側に行くという選択は、国内世論的にも、体制的にも、地政学的にも、経済的利害からしても考えにくいでしょう。
日本はグローバルな市場とつながっていないと経済的に困難な立場に置かれます。海洋秩序が重要で、世界中から物を買い、作ったものを世界中に売るという経済モデルのためには、開放的な秩序が必要です。その点では、アメリカや欧州と同じ利害を持っています。

アメリカと中国が対立する中で、日本はアメリカとの同盟関係を維持することが国益にかなうでしょう。特に「リムランド」理論によれば、アメリカにとってユーラシア大陸の縁辺部(リムランド)に友好的な国を持つことは重要な戦略です。日本はその地政学的な位置から、アメリカにとって重要な同盟国であり続けるでしょう。
ただし、アメリカと日本の利害が一致する限りにおいて協力するという視点が重要です。アメリカ主導の海洋秩序を日本が支えることは、日本の国益にも合致しています。
世界秩序が変化する中で、日本は自らの立ち位置を見極め、柔軟かつ戦略的な外交を展開していく必要があるでしょう。