PIVOT TALK BUSINESS
スパイの技術を仕事に生かす方法
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2025年9月10日

世界のスパイたちは、人の心を掴むために、どんな技術を駆使しているのか?その技術をビジネスパーソンはどう生かせるのか?スパイの世界に詳しい、元公安部捜査官の稲村悠氏に聞いた。 <ゲスト> 稲村悠|日本カウンターインテリジェンス協会 代表理事 1984年生まれ。大卒後、警視庁に入庁。刑事課を経て公安部...
スパイの「謀略の技術」をビジネスに活かす方法
信頼構築の秘訣は相手の弱みを見抜くこと
「これって、スパイ活動以外の普通のビジネスパーソンにとってはどういう風に生かせるんですか?」
スパイが使う人間関係構築の手法は、実はビジネスの世界でも応用できる貴重な知見です。日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠氏に、その活用法について聞きました。
Q. 営業や顧客対応にどう活かせる?
生命保険の営業で成功している例があります。彼らは見込み客の悩みをリストアップし、生命保険というサービスで解決するのではなく、「人として」どうアプローチするかを考えます。その結果、商品比較ではなく「この営業マンが親切だから買おう」という心理が働き、商品力で劣っていても成約につながるのです。
これは生命保険に限らず、あらゆる営業に応用できます。顧客が抱える悩みや課題を把握し、それを取り除くことで信頼関係を構築するアプローチです。

例えば「介護」という問題を抱える顧客がいたとします。これは「ストレス(S)」や「家族(L)」に関わる深刻な悩みです。一営業マンがこの問題を完全に解決することは不可能ですが、解決しようとする姿勢を示すだけでも大きな信頼につながります。
特に職場では公にしづらい介護の問題を共有できれば、それは「秘密(S)」の共有となり、より深い安心感と信頼関係を築けます。このように、MICELDSフレームワークの中でも特に「LDSS」(不満、ストレス、秘密)の要素は実務で活用しやすいのです。
Q. 信頼を獲得した後はどうアプローチすればよい?
信頼獲得後は「7Dアプローチ」が効果的です。これは相手の弱みや悩みに対してどうアプローチするかを示すフレームワークです。
例えば、金銭的に困っている人に対して、まずその状況を「理解」するアプローチがあります。次に「支援」というアプローチがありますが、これは物質的な支援と精神的な支援の2種類があります。さらに踏み込んで「救済」するというアプローチもありますが、これは金銭的な問題をすぐに解決してしまうため、継続的な関係につながりにくいというデメリットもあります。

「承認/評価」は特に効果的なアプローチです。相手の承認欲求が強い場合、褒めることで大きな信頼を得られます。例えば「あなたの専門知識は素晴らしい」「あなただけがこの問題を解決できる」と評価することで、相手は使命感を持ち、強い協力関係を築けます。
「依存」は相手を自分に精神的・物質的に依存させるアプローチです。これにより相手は自発的に協力するようになります。「共鳴」は相手のイデオロギーや信念に共感するアプローチで、「私たちは同じ考えを持っている」と示すことで信頼を深めます。
最後の「正当化」は、相手の行動を肯定し「あなたの行為は正しい」と思わせることで、後悔や裏切りを防ぐ効果があります。
Q. より強固な信頼関係を築くための「RASCLS」とは?
MICELDSと7Dアプローチの先にあるのが「RASCLS」です。これは信頼をさらに強化するための6つの心理要因を示しています。

「返報性」は与えて恩義を感じさせ返してもらうという原理です。日本の中元や歳暮の文化もこれに通じるもので、ギブ&テイクを繰り返すことで信頼関係が深まります。
「権威」は人が権威に従いやすい心理を利用します。国土交通省からの連絡と一個人からの連絡では受け止め方が全く異なるように、肩書きや権威は大きな影響力を持ちます。
「希少性」は限られたものに価値を感じる心理、「一貫性」は一度言ったことや行動に一貫性を持たせようとする心理を指します。特に日本人に強い「社会的証明」は、多数派に同調しようとする心理です。
これらの要素を戦略的に組み合わせることで、より強固な信頼関係を構築できます。
Q. これらの手法を実務で使う際の注意点は?
こうした手法は使い方次第で良くも悪くも作用します。例えば詐欺師も類似の手法を用いることがあるため、防御的な視点でも理解しておくことが重要です。
自分自身の弱みを分析することもカウンターインテリジェンスの基本です。例えば海外赴任する方には、現地でのハニートラップのリスクを認識させるために自己分析をさせることもあります。自分がどういった状況で弱みを見せるかを知っておくことで、心の準備ができます。
また、特定の国籍の人だからといって一律に警戒するのではなく、重要な情報や技術に触れる立場にある人に対しては、国籍に関わらず適切な管理を行うべきです。差別ではなく、情報セキュリティの観点から必要な措置を取ることが大切です。
Q. どのような人が特に注意すべき?
権限を持つ人は特に注意が必要です。サイバーセキュリティの観点では管理者権限を持つ人、会社組織では重要情報へのアクセス権を持つ人や経営層などが狙われやすくなります。実際に中小企業のCSOがアプローチされるケースも報告されています。

Q. これらの手法を学ぶことで得られるメリットは?
これらの手法を理解することで、戦略的に人間関係を構築する能力が高まります。また、詐欺やソーシャルエンジニアリングから身を守るディフェンスにも役立ちます。相手が自分のどのような弱みや特性を突こうとしているのかを見抜く力がつくのです。
仕事において、相手を理解し適切にアプローチする技術は、営業成績の向上、チームワークの強化、交渉力の向上など様々な面でメリットをもたらします。スパイの手法と聞くと否定的な印象を持つかもしれませんが、その本質は人間理解と関係構築の技術であり、ビジネスパーソンにとって貴重な学びになるでしょう。
Q. 相手の本音やイデオロギーを見抜くには?
相手の本音やイデオロギーを見抜くのは容易ではありませんが、いくつかの方法があります。SNSアカウントや投稿内容、著書がある場合はそこから分析できることもあります。また、日常会話の中での発言や反応からも手がかりを得られます。
EAPメソッドという手法では、相手の環境(Environment)、属性(Attribute)、思考(Philosophy)を分析することで、どのようなアプローチが効果的かを判断します。これは採用面接や人材評価にも似た手法です。
Q. 実践的な心理テクニックにはどのようなものがある?
「フットインザドア」は小さな要求から始めて徐々に大きな要求に発展させる手法です。「カリギュラ効果」は禁止されたことをやりたくなる心理を利用します。
「エゴアップ・エゴダウン」は相手の自尊心を持ち上げた後に劣等感を与え、その動揺した隙に確信的な質問をする手法です。「ラピッドファイアアプローチ」は次々と質問を投げかけて相手を混乱させる技術ですが、誤った回答を引き出すリスクもあります。
これらのテクニックは、適切に使えば交渉や情報収集に効果的ですが、相手を尊重する姿勢を忘れないことが重要です。人間関係はテクニックだけでなく、誠実さと信頼の積み重ねが基本となります。