PIVOT TALK BUSINESS
組織の処方箋 恐怖は「二人称で聞け」
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2025年9月5日

「飲み会に来ない」「すぐ辞める」「なんでもハラスメント」 ーーそれは“本当に起きている”のか? 経営学者・舟津昌平氏がデータで解き明かす「若者恐怖症」の正体。恐怖は錯覚か、それとも構造的な変化か。 <参考文献> 舟津昌平『若者恐怖症ーー職場のあらたな病理』 https://amzn.to/41wj...
「若者を怖がる上司」は何を恐れているのか?ハラスメント恐怖症の正体と解決法
若者とのコミュニケーションで感じる不安、その原因は何か?経営学者の舟津昌平氏に聞いた。

Q. 職場での「若者恐怖症」「ハラスメント恐怖症」というものがあるそうですが、どのような現象なのですか?
最近の職場では、上司が若手社員とコミュニケーションを取ることを恐れる「若者恐怖症」が広がっている。特に飲み会の誘い方や仕事の指示の出し方など、何をどう言えばいいのか分からず萎縮してしまう管理職が増加中だ。経営学者の舟津昌平氏によれば、この背景には「何でもハラスメント」と言われることへの恐怖がある。
「上司が若者を怖がるあまり、関わりを避けたり、指示を直接言わず伝言形式にしたりする例が増えています。こうした恐怖の弊害が実際に起きています」と舟津氏は指摘する。
Q. ハラスメントについて「受け手がハラスメントと思えばハラスメント」と言われますが、これは正しいのでしょうか?
「この考え方には大きな誤解があります」と舟津氏は言う。この言葉が広まった背景には、相手への思いやりを促す意図があったが、事実認定とは別の問題だという。
「実際のハラスメントの認定には、厳密な条件があります。パワハラの場合、①職務を逸脱した言動であること、②業務に支障が出ていること、③権力関係を利用していること—この3つの要件が必要です」

舟津氏によれば、日本でパワハラという言葉が独特の広がり方をしたことが混乱の原因だ。英語圏では「パワーハラスメント」という言葉はなく、職場いじめ(bullying、mobbing)と呼ばれている。本来、パワハラ対策とは「職場いじめをなくそう」という単純な話だったのだ。
Q. 最近は「スメハラ」なども出てきていますが、ハラスメントの概念が広がりすぎているのでしょうか?
ハラスメントの種類は急速に増えている。最近では「スメルハラスメント」という言葉も登場し、香水や体臭について指摘する現象も出てきた。さらに「ハラスメントハラスメント」という言葉さえある。つまり、相手の言動をハラスメントだと指摘することそのものがハラスメントになりうるという循環的な状況だ。
「互いに境界を主張し合い、侵害されたことを訴え合う状況が生まれています。これは非常によろしくない状態です」と舟津氏は説明する。
Q. 最近のフジテレビの問題でも「ハラスメント」が焦点になりましたが、これをどう見ていますか?
舟津氏は、フジテレビの第三者委員会報告書を例に挙げ、「ハラスメント認定には丁寧な事実確認が必要」と強調する。
「報告書は非常によく調べられており、単に『被害者が主張したから』という理由でハラスメントと認定しているわけではありません。事実関係を詳細に調査した上での判断です。これを見ても『受け手が思えばハラスメント』という図式は成立しないことが分かります」
舟津氏によれば、問題の本質は個別の行為だけでなく、「組織として問題を放置してしまった」点にもあるという。
Q. 若手社員のやりがいや成長についても恐怖心があるのでしょうか?
「やりがいは自分の能力発揮や成長感覚と強く結びついています。しかし、日本企業は社員教育にあまりお金をかけていない現実があります」と舟津氏は指摘する。
近年の「人的資本経営」の考え方では「自分のキャリアのための投資は自分で行う」という前提があるという。しかし、組織の中での成長とはどういうことなのか、明確な道筋が示されないまま若手社員に成長を求めている企業も多い。
「会社でどう成長していくか、具体的には昇進したらどんな仕事ができるのか、そうした将来像が見えないと若手は不安になります。特に、上の立場にいる人たちが楽しそうに見えなければ、『あの人たちのようになりたい』とは思えません」
Q. 若手との関係を良くするために、上司が態度を低くしすぎることはありますか?
「上司が若手に合わせて態度を下げる」という現象も広がっているが、舟津氏はこれを問題視する。

「これは完全に権力差を消せないという点で不自然です。上司はいくら怖くないふりをしても、権力を持っている以上、その関係性は残ります。むしろ上下関係があることを認めた上でコミュニケーションする方が健全です」
日本語には敬語という上下関係を前提とした言葉遣いがあり、それを使いこなすことで相互理解は深まる。上下関係があること自体が問題なのではなく、それを利用して業務を逸脱した行為をすることが問題なのだ。
Q. これらの問題を解決するためには、どうすればいいのでしょうか?
「一番シンプルな解決法は『聞く』ことです」と舟津氏は言う。飲み会に行きたいかどうか、仕事の進め方はどうしたいのか—相手に直接聞くことで多くの誤解は解消される。
「データや一般論に頼りすぎず、目の前の人に実際に確認することが大切です。それができる状態は健全な組織の証です」
Q. 内閣府の調査で20代の相談相手の中心が母親だというデータがあるそうですが?
舟津氏によれば、若者の人間関係は狭くなっている。「最も信頼できる相談相手」として母親を挙げる若者は15年間で2倍近くに増加し、4割程度になっているという。また、「最も信頼できる友人」との出会いの時期も早くなる傾向があり、多くの若者は大学以降に出会った人に深く心を開かない傾向がある。

「母親が相談相手として最適かは疑問です。特に会社の問題について、母親世代は経験や知識が古い場合もあります。多様な相談相手を持てないことは危うさを孕んでいます」
Q. 最後に、これらの「恐怖」をどう乗り越えるべきでしょうか?
舟津氏は「お化けの正体は枯れ尾花」という表現を使い、恐怖の実体はしばしば想像上のものだと説明する。若者恐怖やハラスメント恐怖は、相手を思いやる気持ちから生まれるが、それが行き過ぎると健全なコミュニケーションを阻害してしまう。
「SNSやネットで恐怖を増幅させる前に、目の前の人との対話を大切にしてほしい。一般的なデータは目の前の人がどうかを説明できません。まずは会話し、信頼を築き、怖さを持たずに済むようにコミュニケーションすることが大切です」
舟津氏は「化け物の正体は枯れ尾花」という言葉の意味を、「遠くから見るとお化けに見えるものも、近づいて実際に見れば、単なる枯れた花だった」と説明する。若者との関係も、恐れずに近づき、実際のコミュニケーションを通じて理解を深めることが重要だというメッセージだ。