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若者の「飲み会嫌い・すぐ辞める」は本当か?
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2025年9月5日

「飲み会に来ない」「すぐ辞める」「なんでもハラスメント」ーーそれは“本当に起きている”のか? 経営学者・舟津昌平氏がデータで解き明かす「若者恐怖症」の正体。恐怖は錯覚か、それとも構造的な変化か。 <ゲスト> 舟津昌平|経営学者 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(释清学)。 京都産業...
「若者恐怖症」の正体とは?データで読み解く3つの誤解
仕事で若い部下や後輩と接するとき、「最近の若者はすぐに辞めるから」「ハラスメントと言われそうで怖い」などと感じることはないだろうか。経営学者の舟津昌平氏は著書『若者恐怖症』で、このような「若者に対する漠然とした恐怖心」の正体に迫っている。果たして私たちは若者を正しく理解できているのだろうか?

Q. 「若者恐怖症」とは何ですか?
若者恐怖症とは、年下の人たちに対して持つ漠然とした恐怖心のことです。例えば「最近の若い子は飲み会に来ない」「すぐ辞める」「何でもハラスメントと言われる」といった不安です。

この恐怖心は「お化けが怖い」という感覚に似ています。お化けを見たことがある人はほとんどいませんが、それでも怖いと感じるのと同じで、実際の事実とは関係なく恐怖を感じることがあります。「犬が怖い」という例も同様で、犬が必ずしも頻繁に噛むわけではないのに、噛むかもしれないという可能性だけで恐れる心理と似ています。
また「若者」という言葉自体が非常に相対的な概念です。20代後半の人が新入社員を「今どきの若い子は...」と言うこともあります。20歳前後の大学生が「一つ下の学年が理解できない」と感じることさえあります。この本では、「自分より下の人をどう見るか」という相対的な視点で若者恐怖症を考えます。
Q. 「若者恐怖症」は具体的にどのような形で表れますか?
若者恐怖症は主に3つの形で表れます。
1. 飲み会恐怖症:「若者は飲み会に来ない」「飲み会を断られたらどうしよう」という恐れです。関係を拒絶される不安の表れとも言えます。
2. 離職恐怖症:「若者はすぐ辞めてしまう」という恐れです。これは組織にとっても個人にとっても大きな問題と捉えられがちです。
3. ハラスメント恐怖症:「何を言っても何をしてもハラスメントと言われそう」という恐怖です。会社としても個人としても問題になり得るという点で特に強い恐怖を感じさせます。
これらの恐怖は、実際の事実というよりも「なんとなく怖い」「ぼんやりと怖い」という感覚から来ています。しかし、この恐怖の実態を理解することで、適切に対処できるようになります。
Q. 「若者は飲み会に来ない」というのは本当ですか?
「若者は飲み会に来ない」という認識を検証するには、まず「過去と比べてどうなのか」「何割くらいが来たら『来た』と言えるのか」といった視点が必要です。しかし多くの場合、このような具体的な基準なしに「来ない」と感じていることが多いのです。

日本生産性本部が行った調査データを見てみると、興味深い結果が出ています。「職場の人たちとの飲み会」と「友人との約束」が重なった場合、どちらを選ぶかという質問に対して、2016年頃までは約64%が職場を選ぶと回答し、この割合は長年安定していました。
しかし質問の仕方を変えたところ、回答も大きく変わりました。当初は「職場の裏情報が聞ける」という条件付きでしたが、単に「どちらの飲み会を優先するか」という質問に変えると、職場を選ぶ割合が大幅に増加したのです。
この例から分かるのは、アンケートの聞き方一つで結果が大きく変わるということです。つまり「若者の飲み会離れ」を示す明確なデータはなく、私たちが抱いている印象と実態には乖離がある可能性が高いのです。
Q. 若者の飲酒習慣は変化していますか?
飲酒習慣に関しては、厚生労働省のデータが参考になります。週間飲酒率で見ると、平成から令和にかけて男性の飲酒率は減少傾向にあります。一方で女性は概ね上昇傾向にあります。
全体の割合では男性の方が多く飲んでいますが、増加傾向にあるのは女性という点は、一般的なイメージとは異なるかもしれません。ただし、これは飲酒習慣の変化であって、「飲み会への参加」とは必ずしも一致しません。
飲み会文化に関しては、コロナ禍の影響も無視できません。特にコロナ禍の時期に大学生だった人たちは、飲み会の「作法」や「文化」を経験する機会を失い、「どうやって飲み会をするのかわからない」という声もあります。飲み会という文化が一時的に断絶したことで、その復活が難しくなっている側面もあるのです。
Q. 若者はすぐ辞めるというのは事実ですか?
「若者はすぐ辞める」という認識も検証が必要です。2021年に大学を卒業した人たちの3年以内離職率は34.9%で、15年ほどの間で最大となりました。このニュースは大きく取り上げられ、若者のライフスタイルの変化や会社側の問題などさまざまな理解が示されました。

しかし、厚生労働省が取っている大卒3年以内離職率のデータを長期的に見ると、平成以降、この数字はほぼ変わっていません。25%から35%の間で推移しており、特にここ15年は32%前後で安定しています。リーマンショックや東日本大震災、さらにはコロナ禍でもほとんど大きな変動がなかったのです。
つまり「若者がすぐ辞める」というのは、今に始まった話ではなく、少なくとも平成以降は一定の割合で続いている現象なのです。2023年の34.9%という数字も、統計的に見れば通常の範囲内の変動と考えられます。
Q. 退職代行サービスの普及は早期離職に影響していますか?
最近話題になっている退職代行サービスについても考えてみましょう。このサービスの存在が「若者はすぐ辞める」という印象に影響している可能性がありますが、実際の早期離職率との関係は明確ではありません。
重要なのは、退職代行を使ってやめた人たちが、このサービスがなかったらやめなかったのかという点です。おそらく多くの場合、退職の意思自体はあったでしょう。つまり、退職代行サービスは「辞め方」を変えただけであり、離職率自体に大きな影響を与えたとは考えにくいのです。

データで見る限り、若者の早期離職率はこの30年ほど大きく変化していません。私たちが「最近の若者はすぐ辞める」と感じているのは、印象に過ぎない可能性が高いのです。
Q. ハラスメントに関する若者の意識はどう変化していますか?
「ハラスメントかどうかは受けた側が決める」というフレーズをよく耳にします。このような考え方の浸透により、若い世代とのコミュニケーションに恐怖を感じる人も多いでしょう。
若者の関係性の変化として興味深いのは、「最も信頼できる相談相手」として母親を挙げる割合が急増していることです。つまり、職場での人間関係よりも家族との関係を重視する傾向が強まっているのです。
これは良くも悪くも狭い関係性の中で生きることを意味し、特に会社で働く上ではあまり効果的でない可能性があります。職場でどのように信頼関係を構築するかが、今後の課題と言えるでしょう。
Q. 若者をより良く理解するためには何が必要ですか?
若者に対する理解を深めるには、APC分析という考え方が役立ちます。これは「Age(年齢)」「Period(時代)」「Cohort(世代)」の3つの要素で現象を分析する方法です。
例えば「若者が飲み会に行かなくなった」という現象を考えるとき:
年齢の問題なら「20代は飲まないが、40代になると飲むようになる」という普遍的な傾向があるはずです
時代の問題なら「コロナ禍で飲み会文化が途絶えた」といった特定の時期の影響が考えられます
世代の問題なら「Z世代は特有の価値観を持っている」という解釈になります
これらの視点を区別することで、「若者」という大きなくくりではなく、より正確に現象を理解できるようになります。
最終的に重要なのは、一般論や印象論に頼るのではなく、目の前の人に直接聞くことです。「若者は飲み会に行きたがらない」という先入観を持つのではなく、「あなたは飲み会に行きたいですか?」と個人に問いかけることが、若者恐怖症を克服する第一歩となるでしょう。