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【脳科学の未来】人工冬眠と宇宙旅行の可能性
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2025年9月6日

最新研究で多くのことが明らかになってきた、人間の「脳」。かつてSFで描かれた近未来の世界は、まもなく実現されるのか?人工冬眠と宇宙旅行の関係や「脳の潜在能力」について、櫻井武氏に聞いた。 <ゲスト> 櫻井武|医学博士 1964年、東京都生まれ。筑波大学大学院医学研究科修了。 筑波大学医学医療系教授...
人工冬眠の可能性と「脳の潜在能力」神話
人工冬眠と聞くと、SFの世界の話のように思えるかもしれない。しかし、動物では既に実現している冬眠を人間にも応用できる可能性があるという。また、「脳は能力の10%しか使っていない」という有名な説は本当なのだろうか。医学博士の櫻井武氏に、最新の研究と人間の潜在能力について聞いた。
Q. 人工冬眠は人間でも可能なのでしょうか?
動物では可能だということがわかっている。マウスは通常冬眠しない動物だが、脳に特定の神経細胞を活性化する操作を加えると冬眠できるようになる。おそらく人間でも同様の神経を活性化できれば可能だろう。
Q. 人間が冬眠できると、どのようなメリットがありますか?
医療面で多くのメリットがある。冬眠の目的はエネルギー節約だ。冬眠中は体温が下がり、生理機能が低下してエネルギーと酸素の消費が抑えられる。これは救急医療などで重要な意味を持つ。

例えば心筋梗塞などで心臓の調子が悪くなった場合、通常は一刻も早く病院に運び治療する必要がある。しかし冬眠状態にできれば、酸素が必要ない状態になるため、酸素が行き届かなくても生きていける可能性が高まる。救急車やドクターヘリが到着した段階で患者を冬眠状態にできれば、助かる確率が大きく上がるだろう。
Q. 脳外傷への効果はありますか?
非常に効果的だ。脳に外傷を負うと通常は炎症によって神経細胞が死んでしまう。しかし、外傷を負った直後に24時間程度でも冬眠状態にすると、炎症が収まり神経細胞の残存率が高くなる。つまり、予防的な効果があり回復率が高まる。

低体温療法という似た治療法は以前からあったが、血液が固まりにくくなったり血糖値が不安定になるなどの合併症があり、あまり有効とは言えなかった。しかし安全な冬眠状態が作れれば、これらのデメリットを乗り越えられる可能性がある。
Q. がん治療にも効果があるのでしょうか?
マウスの実験では効果が見られている。通常のマウスはがんで死んでいくが、1年近く冬眠状態を導入したマウスはがんにならない。これは非常に興味深い発見だ。
Q. 他にはどんなメリットがありますか?
ダイエット効果も期待できる。リスやハムスターなどの冬眠動物は、冬眠中に体重が半分ほどになる。半年食べていないので当然だが、興味深いのは筋肉があまり落ちず、主に脂肪を優先的に燃焼することだ。ほとんど動かない状態で半年過ごしても筋肉の縮小がほとんどないのは特筆すべき点だ。
Q. 宇宙旅行での応用も考えられますか?
SF映画でよく見るような「ディープスリープ」は、宇宙旅行において現実的な解決策になりうる。例えば火星への旅は、月への旅とは比較にならない距離がある。月は地球から約38万km離れているが、火星は最も近い時でも6500万km以上離れており、現在のロケット技術では片道2年ほどかかる。

宇宙飛行士と食料、酸素などの物資を乗せる積載量は限られている。もし宇宙飛行士を冬眠状態にして代謝を下げることができれば、必要な物資を半分程度に減らせる可能性があり、実現性が高まる。NASA等でも研究が進められており、来年にはマウスを国際宇宙ステーションで冬眠状態にする実験も計画されている。
Q. 人工冬眠の研究はどの程度進んでいますか?
この分野の発見からまだ5年ほどしか経っておらず、基本的な概念実証の段階だ。冬眠が実際に病気の回復を早めたり進行を遅らせたりする効果があるかを確認している段階で、並行して人間への応用も検討されている。未来的には十分実現可能性がある技術だ。
Q. 「脳の10%しか使っていない」という説は本当ですか?
これは神話で、科学的事実ではない。そもそも「10%」という数字の根拠が不明確だ。脳は普段からかなり活発に働いており、寝ている時でさえ活動している。特にレム睡眠中は起きている時よりも活動が高いくらいだ。
人間の頭がこれほど大きいのは、脳をフルに使っているからこそ。もし本当に10%しか使っていないのなら、進化の過程で残りの90%は消えているはずだ。頭の大きさはエネルギー消費や出産の難しさにも関わるため、無駄な大きさであるはずがない。
Q. 「ゾーン」に入るような集中状態は脳の使用率が高まっているのですか?
集中している時は脳内でセチルコリンやノルアドレナリンといった物質が増え、脳の処理速度がやや上がっているが、劇的な変化ではない。脳機能画像で見られる「活性化」は全体からみるとほんの少しの変化にすぎない。
一流のアスリートなどは、このような状態を意図的にコントロールできるようになっている可能性はあるが、科学的にコントロールする方法はまだ確立されていない。
Q. 将来的に脳の活動をコントロールできるようになりますか?
脳幹にある神経細胞を電極で刺激するなど、脳のモードを変える技術は理論的には可能だ。今でも心臓ペースメーカーがあるように、将来的には脳にも電極を入れてスマホでコントロールするような「ブレインコンディショナー」が出てくる可能性はある。
ただし、これは能力を超人的に高めるものではなく、元々持っているポテンシャルを発揮しやすくする程度のものになるだろう。
Q. 脳の成長には限界がありますか?
脳には可塑性があり、年齢に関わらず学習によって機能を高めることができる。シナプスは常に作り変えられており、寝ている間に少し減って、起きて学習すると増えていく。昨日の自分と今日の自分は、シナプスの状態が少し違うのだ。
運動神経や技能の向上も同様で、これらは「手続き記憶」として脳に蓄えられる。ゲームの上達や楽器の演奏技術の向上なども、すべて記憶の一種だ。継続的な練習や学習により、脳は常に成長し続ける可能性を持っている。
Q. 「悪い予感」のような直感は科学的に説明できますか?
これは情動記憶と関係している。脳は事実を覚える「陳述記憶」だけでなく、その出来事に伴う感情も「情動記憶」として別々の脳の組織に記憶している。時には陳述記憶がなくても情動記憶だけが残ることもある。
例えば、何かの理由で不快な体験をした場所や状況に近づくと、その理由を明確に思い出せなくても不安や恐怖を感じることがある。これが「悪い予感」として現れることがあるのだ。香りや音など、様々な感覚刺激に対しても同様の反応が起こり得る。

これらの複雑な仕組みがあるからこそ、AIが「心」を完全に再現することは難しい。感情や記憶の複雑な相互作用までシミュレーションするには、まだまだ研究が必要だ。