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【肥料価格が高騰】日本の農業をウンチが救う
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2025年8月30日

ロシアのウクライナ侵攻や中国の禁輸措置で肥料が高騰する中、実は我々の「ウンチ」が資源として注目されている。リンなどを豊富に含む「ウンチ」には、どのような活用の可能性があるのか?農業ジャーナリストの山口亮子氏に聞いた。 <ゲスト> 山口亮子|ジャーナリスト 2010年京都大学文学部卒業。2013年中...
「ウンコノミクス」の衝撃 ウンチが日本を救う?
肥料高騰が農業経営を圧迫し、その影響でお米や野菜の価格上昇が続く今、意外な救世主として「ウンチ」に注目が集まっている。ウンチの秘める可能性とは?ジャーナリストの山口亮子氏に聞いた。

Q. 「ウンコノミクス」というタイトルにした意図は?
うんことエコノミクスをくっつけて「ウンコノミクス」という造語を考えました。アベノミクスやウーマノミクスといった言葉からヒントを得ています。ウンチは排泄物で価値がないと思われがちですが、実は世界的に見ると価値を認められ、お金にどんどん変わっている世界があります。あえてエコノミクス(経済)という言葉と合体させることで、こんな発想もあるんだということを知ってもらえたら嬉しいと思いました。
Q. ウンチの可能性とはどのようなものですか?
本当にいろんな用途に使えるのが強みです。私は農業分野から取材を始めましたが、調べてみると多様な活用法があります。例えば:
肥料として農業に活用
魚やのりの養殖に養分として使用
ビルの空調などエネルギー源として利用(六本木ヒルズや梅田の再開発など最新の開発でも採用)
自動車の燃料としても活用可能
特に注目すべきは、ウンチに含まれるリン成分です。これは肥料として非常に重要で、作物の成長に欠かせない要素です。人間の歯や骨にもリンが含まれているため、排泄物からもリンが出てきます。このリンは農業だけでなく、消火器などの工業用途にも使われています。
Q. なぜ今「ウンチ」に注目が集まっているのですか?
ここ5年ほど特に注目されるようになった背景には、肥料価格の高騰があります。2021年から22年頃から肥料の価格が急上昇し、農業経営を圧迫する大きな問題となっています。

その主な要因は二つあります。一つはロシアのウクライナ侵攻の影響、もう一つは中国が禁輸措置を取って肥料輸出を停止したことです。特に中国の措置が大きく影響しています。
中国は化学肥料の生産大国であると同時に、14億人という人口を抱える消費大国でもあります。これまで世界に肥料を輸出して外貨を稼いできましたが、国内需要が満たせなくなったため、一時的に輸出禁止措置を取りました。また、環境対策の一環として二酸化炭素を多く排出する肥料産業に規制が入り、製造量が減少したことも影響しています。
Q. 肥料高騰は私たちの生活にどう影響していますか?
肥料価格の上昇は、農産物の価格に直接反映されています。お米や野菜の値段が上がっているのはその影響です。
さらに、気候変動による温暖化も問題を悪化させています。気温が高いと、肥料が植物の根に吸収される前に分解されてしまうため、以前より多くの肥料が必要になります。ところが価格は上がっているので、農家は肥料を節約せざるを得ない状況に追い込まれています。その結果、収穫量が減少するという悪循環が生じています。
Q. 日本の肥料事情はどうなっていますか?
日本は肥料の約9割を輸入に頼っています。特に窒素(尿素)、リン酸、カリウムといった農業に不可欠な三大要素のほとんどを海外からの輸入に依存しています。
中でも「ウンコノミクス」に関わるのがリン酸です。これは作物の根の発達や果実の成長に重要な成分ですが、従来はほとんど中国から輸入していました。しかし、中国の輸出規制により、現在はモロッコなどからの輸入に切り替えています。モロッコはアフリカ大陸にあり、中国と比べると輸送コストが大幅に高くなるため、全体的な価格上昇につながっています。
Q. 肥料危機に対する解決策は?
国内の資源を使って肥料を作っていくことが重要です。その中で最も注目されているのがウンチです。実はこれは新しい発想ではなく、約230年前から重要性が認識されてきました。
過去にも定期的にリン鉱石の輸入が困難になる状況があり、その都度「ウンチを活用すべき」という議論が起きましたが、危機が去ると従来通りの輸入に頼る状態に戻ってしまいました。
しかし今回は状況が異なります。従来は農業分野だけでリン需要が変動していましたが、現在は電気自動車(EV)のバッテリーなど工業用途でもリンが使われるようになり、農業より何倍も高い価格で取引される需要が生まれています。つまり、肥料としての需要増加に加えて、EV需要も重なり、さらに価格が高騰しているのです。
Q. 実際に「ウンチ」を活用している事例はありますか?
現在、東京都、埼玉県、横浜市など多くの自治体で下水由来の肥料作りが始まっています。
特にうまくいっているのは、意外にも小さい自治体です。昔からハイテクではなく、ローテクで下水処理場から出てきたうんこ由来の汚泥を堆肥化する簡単な方法を続けているところがあります。

埼玉県では下水処理場に集まったものを焼却処分し、その焼却灰から肥料を取り出す取り組みをしています。これなら従来通りの工程で肥料が得られるため、余計なコストがかかりません。埼玉県は肥料メーカーと協力して、今後この焼却灰を使った肥料の販売を計画しています。
Q. なぜ日本では「ウンチ」の活用が途絶えたのですか?
日本では戦後、GHQの影響が大きいです。それまでは「下肥」と呼ばれるウンチは肥料として非常に重要で、田んぼや畑の脇に「肥溜め」があり、そこに汲み取り便所から集めたものを貯めて使うことが一般的でした。
しかしGHQが入ってきた際、生野菜を食べる習慣のあるアメリカ人にとって、下肥を使った野菜は寄生虫の問題があり食べられないものでした。そのため「清浄野菜」として下肥を使わない栽培法が広まりました。
実は日本人も漬物など加熱しない食品で寄生虫を摂取していたため、寄生虫保有率は高かったのですが、戦後の近代化とともに下肥の使用は減少していきました。
Q. 今後「ウンチ」の活用は進むのでしょうか?
2022年に当時の岸田首相が下水汚泥の大規模利用拡大を表明したことで、状況が変わり始めています。首相の発言は大きな影響力があり、それまで国土交通省が積極的だった一方で、農林水産省はやや消極的だった状況が変化しました。
現在、肥料の国内資源割合を2030年までに現状の25%から40%に高める目標が設定されており、この中でウンチの活用を倍増させることが期待されています。
下水道を管轄する自治体が、ウンチを「経済的な資源」と捉える感覚を持つことが重要です。現状では、多くの自治体が下水処理を公共事業として考え、「儲ける」発想がないことが活用の障害になっています。
Q. 日本ならではの可能性はありますか?
日本人のウンチの量は欧米人に比べて多いという特徴があります。これは食物繊維の摂取量などが影響しているためです。そのため日本は「排泄大国」とも言え、かつ化学肥料の資源が乏しい国として、資源循環の可能性が高いと言えます。

現状では膨大な量のウンチが処理されて燃やされています。その重量は東京タワー6個分にも相当します。これを有効活用すれば、下水処理の予算不足問題も解決でき、肥料危機にも大きく貢献できるでしょう。
東京には日本のウンチの約1割が集まるため、東京都の取り組みが全国に与える影響は大きいでしょう。東京での活用がうまくいけば、他の自治体にも広がっていくことが期待されます。