PIVOT TALK BUSINESS
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2025年8月25日

2025年7月、ラピダスは「2nm世代」半導体の試作成功を発表した。国産半導体への国を挙げた再挑戦の命運は?業界歴40年のベテラン、大山聡氏が徹底解説。 <参考文献> 大山レポート 第3号 | Grossberg LLC https://grossberg.jp/oyama-report-03/ ...
半導体産業で日本の復活を目指す「Rapidus(ラピダス)」。2022年に設立されたこの企業は、2ナノメートル世代の先端ロジック半導体の開発・製造に取り組んでいる。北海道に建設中の工場は2027年の量産開始を目指しているが、そこには様々な課題が横たわっている。業界歴40年のベテランアナリスト、大山聡氏に半導体量産の壁と日本の可能性について聞いた。

ラピダスの北海道工場の具体的なキャパシティ(何万枚のウェハーを処理できるか)については、これから明らかになっていくでしょう。ただし、半導体工場は最先端であろうとなかろうと、基本的には24時間365日のフル稼働が前提です。停電や事故で一時的に停止することはあっても、意図的に操業を停止することはほとんどありません。
このような24時間稼働を実現するためには、3シフト体制(8時間×3シフト)の人員配置が必要になります。ただ、ラピダスが目指している高度に自動化された工場では、規模が大きくなっても数千人もの人員は必要ないでしょう。
実は日本の人件費は世界の中ではやや安めの水準になっています。例えば九州熊本にTSMCが進出した際、地元では時給1000円程度ではアルバイトが集まらなくなったという話もあるほどTSMC効果があったようです。

対してアメリカの場合、たとえばアリゾナ州では時給5000円程度するといわれています。アメリカ人にとっては普通の賃金でも、「たった時給5000円で夜中働かされるのか」といった見方になり、ランニングコストが非常に高くなります。
半導体製造は自動化が進んでいるため人件費よりも装置代が大きな比重を占めますが、製造コストに人件費が与える影響を考えると、アメリカで物を作るのは不利です。そのため、パソコンやスマホなどの電子機器の量産工場は基本的にアジアやメキシコなどに立地しています。日本はコストの面では相対的に有利な状況にあります。
装置メーカーや材料メーカーのサポートも不可欠です。幸い日本には経験豊かな装置メーカー、材料メーカーが多く存在します。北海道にまだ拠点を持っていない企業も慌てて進出する動きがあり、基本的な土壌は整っていると言えるでしょう。
しかし、大きな課題は「経験」です。日本では長らく半導体のプロセス開発が行われておらず、経験者が少なくなっています。トランジスタ構造で言えば、フィンフェットの経験がないままゲートオールアラウンド(GAA)に挑戦することになります。フィンフェットの経験の有無がGAAの成功を左右するとは思いませんが、経験者をいかに集めるかは今でも重要な課題です。「人はいくらいても足りない」という話はラピダスの経営陣からよく聞かれます。
半導体製造は大きく分けると、設計、マスク、ウェハ、前工程、後工程という流れになっています。ラピダスが担当しているのは前工程の部分です。前工程では装置や素材も重要な役割を果たしています。
インテルやサムスンなどのIDM(Integrated Device Manufacturer:総合型半導体メーカー)は自社で設計から前工程、後工程まで一貫して行います。一方、TSMCやラピダスなどのファウンドリは、顧客が持ち込むマスクを使って前工程を担当し、設計はしません。後工程は専門のメーカーに委託するケースが多いです。
本当は全工程を確保することが理想です。有事の際にどこでサプライチェーンが分断されるか分からないからです。例えば台湾が中国に支配されてしまった場合、TSMCの前工程が利用できなくなってしまいます。

そのため、前工程だけでなく設計や後工程も含めた自給体制を整えるべきだという議論は実際に出ています。これらは前工程ほどの投資は必要ありませんが、カバーしていくべき重要な領域です。
ラピダスは現在、前工程に集中していますが、後工程にも手を伸ばそうとしています。これは同時並行で進めるべき取り組みであり、前工程の成功だけに依存せず、顧客を確保するためにも重要なことです。
最近の後工程は従来のイメージとは大きく異なってきています。例えば、NVIDIAの高速プロセッサとSKハイニックスの高速DRAMをつなぐデータのやり取りを高速化するためには、従来の後工程技術では対応できません。TSMCはこの領域で新しい技術を開発し、「中工程」と呼ばれる新しい市場を開拓しています。
この中工程には新しい装置も必要になります。例えば、ウェハを薄くするグラインダーは日本のディスコが世界シェアの半分以上を持ち、非常に需要が高まっています。また、高速DRAMを樹脂で覆うモールディング装置は京都の東洋といった会社がトップシェアを持っています。どちらも現在は供給が需要に追いついていない状況です。
これらの日本企業は工場を増設して対応しようとしていますが、その収益性の高さから、ディスコでは1日ボーナスが出たという話も報道されています。このように、半導体産業の中でも日本企業が強みを持つ領域が確かに存在しています。
TSMCの創業者であるモーリス・チャンは、かつてテキサス・インスツルメンツでエンジニアとして働いていた際、IBMに半導体を提供して品質の良さから表彰されたことがあります。その時に「下請けではない」という認識を強く持ち、それがTSMCを創業する原動力になったと言われています。
設立当初は「ファウンドリ(製造専門)しかやらない会社」と馬鹿にされていたTSMCですが、今やそんな声は聞かれません。半導体業界では設計する側が偉くて製造は下請けという発想は成立しません。重要なのは、他社が真似できない技術や強みを持っているかどうかです。NVIDIAも設計でその強みを発揮し、TSMCも製造でその強みを発揮しています。
ラピダスにも同様の強みを発揮してほしいという願いを込めて、私も応援しています。
量産の歩留まり(良品率)が決定的に重要です。100個作って50個以上、できれば70%程度の歩留まりで量産できるという目処が立てば、お金は勝手についてくると考えています。お金をかければそうなるとは限りませんが、歩留まりが上がることがきちんと分かれば顧客もついてきますし、資金も集まります。

サムソンとインテルが現在苦戦している原因の一つとして、ゲートオールアラウンド構造での不純物の均一性が保てないことが挙げられています。半導体には意図的に不純物(リンやボロンなど)を1億分の1個程度の割合で入れる必要がありますが、その均一性を保つことが非常に難しいのです。この課題をラピダスがどう乗り越えるのか、私は期待しています。