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未来の戦争:小泉悠×猪瀬直樹
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2025年8月21日

戦後から80年が経過し、戦争は遠い昔になった日本。将来、日本は再び戦争を強いられる可能性はあるのか?未来の戦争を防ぐために、日本は何をすべきなのか?小泉悠氏と猪瀬直樹氏に対談してもらった。 <ゲスト> 猪瀬直樹|作家 1987年『ミカドの肖像」により第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2002...
未来の戦争 ― 歴史から学ぶ危機意識と自衛の概念

Q. なぜ戦争は終わらないのか?
近年、ウクライナやガザでの紛争が続き、台湾海峡での緊張も高まるなか、戦争の本質とメカニズムについて考えざるを得ない状況にある。多くの日本人にとって戦争は過去のもの、あるいは遠い国の出来事と思われがちだが、実際はそうではない。

戦争が終わらない根本的な理由の一つに「自衛」の概念がある。1928年のパリ不戦条約では戦争放棄が宣言されたが、「自衛のための戦争」は例外として認められた。しかし、「自衛」の定義は曖昧で、各国が自国の利益に合わせて解釈する余地を残している。
山形有朋が提唱した「主権線」と「利益線」の概念は今日も有効だ。主権線とは国境そのものであり、利益線はその外側にあって国家の安全を確保するために必要と考えられる線である。ロシアはウクライナの向こう側まで、中国は第二列島線(グアムの辺りまで)を自国の利益線と見なしている。
「自衛」の名のもとに他国の領域に踏み込むことが正当化される限り、戦争は終わらない。
Q. 現代の未来戦争論は当たるのか?
未来の戦争を予測することは極めて難しい。過去の未来戦争論を検証したローレンス・フリードマンの研究によれば、ほとんどの予測は外れている。
その理由は、20~30年後の国際関係や政治状況を正確に予測することが不可能だからだ。結果として、多くの未来戦争論は「新兵器」の話に集中する傾向がある。新兵器の話はエンターテイメント性が高く、「早く少ない犠牲で楽に勝てる」という明るいビジョンを描きやすいためだ。
また、敵国の軍事力を正確に評価することも困難である。兵士の数や装備は客観的データとして入手できても、訓練度や士気、後方支援能力などの質的要素は測定が難しい。小さな誤差が積み重なり、大きな判断ミスにつながることがある。
Q. 戦争はどのように始まるのか?
戦争の起源には、「不安」が大きく関わっている。国際社会には警察官が存在せず、各国は自国の安全を自ら確保しなければならない。そのため、他国への不安や恐怖が軍備拡張を促し、それがさらなる不安の連鎖を生む。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、欧米諸国ではアジアからの「黄禍」に対する恐怖が広がった。1895年にドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が広めた「黄禍の図」は、アジアからの脅威に対して欧州諸国が団結して立ち向かうべきだというメッセージを含んでいた。
同時期、アメリカでは日本人移民への警戒感から、日本軍がアメリカを占領するという未来戦争小説「万歳」が人気を博した。一方、日本でもアメリカからの侵略を描いた物語が広まり、相互不信が戦争への道を開いていった。
現代でも、異質なものへの恐怖や「なめられている」という感覚が、社会の中に不安を広げ、対立を深める原因となっている。
Q. 日本人の戦争観はどう変化したか?
日本は歴史的に見て、国防軍を持たない特異な国だった。白村江の戦い(7世紀)での敗北以降、鎌倉時代までの日本には国防軍が存在せず、外国の脅威から守るための要塞も建設されなかった。島国であるため、海そのものが天然の要塞となっていたからだ。
明治維新以降の80年間(戦前期)、日本は初めて近代的な軍隊を持ち、国家存亡の不安と向き合うことになった。この時期、未来戦争を描いた作品が多く生まれた。夏目漱石の『三四郎』にも、日露戦争に勝利した日本が将来没落するという予言が登場する。
戦後の日本人は「生存が前提ではない」平和な環境で育ってきた。特に冷戦終結後に生まれた世代は、自分の人生が戦争によって破壊される可能性をほとんど想像したことがない。しかし、近年のウクライナ侵攻やガザでの紛争、台湾海峡の緊張により、若い世代の間にも危機意識が芽生えつつある。
Q. 未来の戦争にどう備えるべきか?
戦争のアウトラインは基本的に変わらない。領土や資源、影響力をめぐる争いは今後も続くだろう。特にアジアでは、台湾海峡や朝鮮半島が今後の紛争の火種となる可能性がある。

日本にとって重要なのは、米中関係の行方だ。米中が太平洋を分割統治するような合意に達した場合、日本の安全保障環境は大きく変化する。そのため、日本は一定の自立性を保ちながら、同盟関係を強化する必要がある。
また、軍事力の評価には限界があることを認識し、過信や過小評価を避けるべきだ。日本が戦後長らく「ディズニーランド」のような安全な環境で過ごせたのは、同盟国との協力があったからこそであり、現実的な危機管理能力を高めることが求められる。
最後に、不安や恐怖に基づく排外主義に陥らないよう注意すべきだ。異質なものへの漠然とした恐怖が、結果的に紛争を引き起こすことがある。歴史から学び、冷静な判断力を養うことが、未来の戦争を防ぐ鍵となるだろう。