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日本経済の分岐点 人口減にAIは勝てるか
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2025年8月19日

2025年7月、「2075年 次世代AIでよみがえる日本経済」という報告書が発表された。 日本がGDP世界11位に転落するというのは本当なのか?著者の一人でエコノミストの梶田脩斗氏に展望を聞いた。 <ゲスト> 梶田脩斗|日本経済研究センター主任研究員 2016年、早稲田大学大学院経済学研究科修士課...
2075年までの日本経済予測、人口減少とAIが及ぼす影響
2025年7月、「2075年 次世代AIでよみがえる日本経済」という報告書が発表された。日本がGDP世界11位に転落するというのは本当なのか?著者の一人でエコノミストの梶田脩斗氏に展望を聞いた。

Q. 日本経済研究センターが発表した長期予測レポートの概要は?
日本経済研究センターが発表したレポートは、世界83カ国・地域のGDPを予測し、2075年にどうなっているかを描いたものだ。結果として、日本は現在のGDPランキング4位から11位まで転落すること、また1人当たりGDPも現在の29位から45位に落ちることが示されている。

この背景には主に人口減少の問題がある。日本の出生率は人口置換水準である2.1を下回っており、このままでは労働力人口が減少し続ける。また、このレポートでは米中逆転は起こらないと予測している点も特徴的だ。
Q. このレポートが作られた理由は?
日本経済研究センターは以前から長期経済予測を行っているが、2012年に発表された「アーミテージ・ナイ報告書」が1つのきっかけになった。この報告書は「日本はこれから先、一流国であるつもりはないのか。二流国に転落していくがそれでいいのか」という問いを投げかけたものだった。
この問いに対し、「二流国になるのは避けたい」という思いから、経済を立て直すためにどうすればよいかを長期的観点から分析するという動機でレポートが作成された。
Q. AIがこの予測において重要な要素となっている理由は?
AIは単なるテクノロジーの一つではなく、マクロ経済に大きな影響を与える可能性のある「汎用技術」になりうるからだ。電力や自動車、インターネットのように、社会全体を変革するような技術は少ないが、AIはそうした技術の一つになる可能性が高い。

特に日本のような人口減少社会においては、労働力人口の減少を補い、経済の供給力を維持するための突破口になり得る。標準シナリオでは、現在の生成AI技術だけでは労働力人口減少の影響を完全に相殺できないが、より高度なAI(AGI)が普及すれば、労働投入量の減少を上回る生産性向上が期待できる。
Q. 日本のGDPランキングと1人当たりGDPの低下は何を意味するのか?
GDPランキングの低下は国の総合的な経済力の衰退を意味し、特に安全保障や国際的な発信力に影響する。一方で1人当たりGDPの低下は国民一人一人の豊かさの減少を示している。
驚くべきことに、日本の1人当たりGDPは2000年時点では世界2位だったが、わずか20年ほどで29位まで急落している。この下落スピードは世界的に見ても極めて異例であり、このまま何も対策を講じなければ、2075年には45位まで落ちると予測されている。
Q. AIはどのように労働力人口減少を補うのか?
AIは主に生産性向上を通じて労働力人口減少を補う。レポートでは、AIの発展段階を3つに分けて分析している:
1. 生成AI:現在発展中の技術で、一定の生産性向上をもたらすが、労働力人口減少を完全に相殺するには不十分
2. ソフトウェアAGI:人間と同程度の能力を持ち、デジタル空間で完結するタスク(全タスクの約50%)を担える
3. フィジカルAGI:物理空間でのタスク(全タスクの約43%)も担える高度なAI

レポートの分析によると、2040年代後半から50年代にかけて、AIの導入効果が人口減少の影響を上回る可能性がある。特にソフトウェアAGIとフィジカルAGIが実現すれば、労働力減少を大きく補うことができる。
Q. 日本の生産性停滞の原因とスタートアップの重要性は?
日本の生産性(全要素生産性、TFP)が停滞している原因の一つに、研究開発投資の偏りがある。欧州と同様に、日本は自動車や化学などの「中流技術」分野に投資が集中し、ソフトウェアやバイオテクノロジーなどの「ハイテク」分野への投資が少ない。
アメリカでは過去30年で研究開発投資のトップ企業が自動車メーカーからMicrosoftやGoogleなどに変わり、産業構造の転換に成功した。一方、日本のR&D投資のランキングはほとんど変わっていない。
新しい産業を創出し、経済全体の生産性を高めるために、スタートアップの育成が重要だ。しかし日本のスタートアップは早期にIPOして成長が止まりがちで、特に後期段階での資金調達に課題がある。日本の金融システムは銀行融資(デットファイナンス)に偏っており、リスクマネー(エクイティファイナンス)が流れにくい構造になっている。
Q. 「シンギュラリティ」とは何か、経済的にどのような意味を持つのか?
一般的にAIのシンギュラリティは、AIが自分より賢いAIを作れるようになる時点を指すことが多い。経済学的には、GDPの成長率が理論上無限になるような状態を指す。
しかし、マクロ経済的に重要なのは、AIが新しいアイデアを爆発的なスピードで生み出す可能性だ。特に、次の「汎用技術」の発見が重要で、人間が通常1000年以上かかるような革新的技術をAIが10年程度で発見するようになれば、生産性に大きなインパクトを与える。
例えば、死なない技術(脳移植など)や惑星間でのエネルギー利用といった、現代の制約条件を打破するようなイノベーションが実現すれば、経済成長に大きな影響を与える可能性がある。
Q. 日本経済の未来を変えるために必要な改革は?
レポートでは複数の分野での改革が提案されている:
1. 教育改革:AIの時代に合わせた教育スタイルへの転換。旧来の教室での勉強だけでなく、ソフトウェアを活用した新しい教育方法の導入
2. 金融改革:銀行中心の金融システムから、スタートアップへのリスクマネー供給を促進する仕組みへの移行。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの資金をスタートアップ育成に活用する視点も重要
3. 労働市場改革:年齢による差別の撤廃と、正規・非正規の格差是正。「人に値段をつける」発想から「ジョブに値段をつける」発想への転換
これらの改革により、標準シナリオで予測される日本の経済的地位の低下を回避し、持続可能な成長を実現できる可能性がある。