PIVOT TALK BUSINESS
雇用統計ショックが示す「米国経済の実態」
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2025年8月11日

米国の雇用統計が持つ大きな問題点とは何か?雇用統計から見える、今後のアメリカ経済のリスクとは何か?雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏に展望してもらった。 <ゲスト> 海老原嗣生|雇用ジャーナリスト サッチモ代表社員。大正大学客員教授。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)...
アメリカ雇用統計の大幅下方修正の裏側と今後の経済展望
移民政策が与える影響と市場の今後のシナリオとは?

Q. アメリカの雇用統計が大幅に下方修正されたことで話題になっていますが、何が起きたのでしょうか?
アメリカの雇用統計で、非農業部門就業者数が当初発表の14.7万人増から1.9万人増へと大幅に下方修正されました。これは異例の修正幅です。特に建設業、サービス業、宿泊業、公教育などの分野で大きな下方修正がありました。
雇用統計は最初に60〜70%のデータが集まった段階で速報値を発表します。通常、大企業や法令順守意識の高い企業から先にデータが集まり、中小企業からは時間がかかるのが一般的です。今回は遅れて出てきたセクターがすべて悪い方向に振れたことが、大幅修正の要因となっています。
Q. この雇用統計の下方修正の主な原因は何だと考えられていますか?
最大の要因はトランプ政権による移民政策の厳格化です。これは景気後退によるリストラではなく、移民労働者が減少していることが背景にあります。特に建設業、飲食業、サービス業、宿泊業といった分野で移民労働者が多く、公教育分野でも清掃や食事提供などを担当する臨時職員に移民が多く含まれています。

国境警備局のデータによると、3月から6月のたった3か月間で外国生まれの労働者が120万人近く減少しています。これは月間約40万人のペースです。不法滞在者に対する罰金制度も導入され、滞在を続けるとかなりの額の罰金が積み上がっていくため、早期に帰国する動きが加速しています。
Q. 失業率への影響はどうなっていますか?
興味深いことに、就業者数が大幅に下方修正されたにもかかわらず、失業率はあまり上昇していません。これは労働者が失業者として市場に残るのではなく、そのまま帰国してしまうためです。つまり、労働力人口自体が減少しているのです。
失業率は見かけ上悪くなっていませんが、実態はより悪化していると考えるべきでしょう。ただし、昔の不況時に比べれば4%台の失業率はまだ許容範囲内であり、急激な崩壊というよりは徐々に悪化している状況です。
Q. 新規求人数はまだ700万人を維持しているようですが、実態はどうなのでしょうか?
表面上の求人数は多いものの、実態はより減少していると考えられます。移民労働者が帰国することで発生する求人は、単純に埋まるわけではなく、現在働いている人の移動を引き起こすため、見かけ上の求人数は増えてしまいます。
つまり、求人数が700万あるように見えても、実際は630〜640万程度ではないかと推測されます。景気は徐々に悪化しており、企業にとって厳しい状況になってきています。
Q. 物価や賃金への影響はどうでしょうか?
移民労働者の減少により、特にサービス業などで人手不足が深刻化し、賃金上昇圧力が強まっています。しかし、個人消費はそれに比例して増えていないため、企業は苦しい状況に陥っています。
コアPCE(個人消費支出価格指数)と個人所得を比較すると、物価が下がっているのに賃金が上昇し続けており、事業者にとって厳しい状況が続いています。これは末端の必要不可欠な労働者が不足しているため、賃金を上げざるを得ない状況が続いているためです。
Q. トランプ政権の関税政策はどのような影響を与えていますか?
トランプ政権による関税引き上げも経済に大きな影響を与えています。2月から始まった対中関税の引き上げに続き、4月にも追加の関税が課されました。これらの関税は、時間差をもって価格に転嫁されていきます。

国民負担率の観点から見ると、アメリカの関税による実効税率は現在1.7%程度ですが、8月以降は2.55%程度に上昇すると予測されています。これは1997年の日本の消費税引き上げ時(実効税率2.9%)に近い水準で、景気への悪影響が懸念されます。
Q. 在庫状況はどうなっていますか?
企業の在庫が著しく減少しています。通常、関税引き上げ前には駆け込み需要で在庫が増えるはずですが、今回はそれほど増えていません。その理由としては、①駆け込み需要自体が弱い、②中国からの輸入が一時的に止まった、③企業が将来の関税政策の不確実性から生産計画を立てられない、④移民労働者の減少による生産能力の低下、などが考えられます。
特に製造業では、今後、非正規労働者に対する取締りが強化される可能性があり、在庫不足が解消されない恐れがあります。これは物資不足を引き起こし、1970年代のオイルショックのような状況になる可能性も否定できません。
Q. 今後の金融政策はどうなるでしょうか?
9月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、雇用が悪化する一方で、関税による物価上昇が顕在化するという難しい局面を迎えます。トランプ大統領は利下げを強く求めていますが、物価上昇や供給不安がある中での利下げは難しい判断を迫られるでしょう。
特に注目すべきは10月末のFOMCです。この時期は関税による価格転嫁の谷間にあたり、また第3四半期のGDP発表直後であるため、経済状況によっては0.5%や0.75%といった大幅な利下げが行われる可能性もあります。
Q. 株価への影響と今後の見通しは?
短期的には8月と9月のCPI(消費者物価指数)の発表で市場が動揺する可能性がありますが、大幅な暴落は当面ないと考えられます。ただし、10月末のGDP発表で悪い数字が出れば、市場が混乱する可能性があります。

中長期的には、移民政策による労働力不足、関税による物価上昇、賃金インフレなどが企業収益を圧迫し、景気は徐々に悪化していく見込みです。本格的な景気後退は年末から来年春にかけて起こる可能性があります。
Q. トランプ政権は今後、移民政策や関税政策を緩和する可能性はありますか?
移民政策については、すでに建設業、農業、宿泊業に関しては取締りを緩和する動きが見られます。ただし、支持層からの支持が強いため、大幅な政策転換は難しいでしょう。一方で、来年の中間選挙を控え、景気を悪化させるわけにはいかないため、何らかの対策を講じる可能性はあります。
関税政策については、減税政策の財源として活用する計画があるため、大幅な緩和は難しいと考えられます。ただし、経済状況が悪化すれば、金融政策による対応(FRBへの圧力)や財政政策(減税や給付金)などを通じて対応する可能性があります。