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【日本発・異彩アートは世界を変えるのか】ヘラルボニー カンヌライオンズ受賞の裏側
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2025年8月9日

障害がある作家の才能を広げるクリエイティブカンパニーであるヘラルボニー。カンヌライオンズグラス部門でゴールドを受賞し話題に。目指す先に見据えるものとは。桑山知之氏、長谷川輝波氏、光岡修氏にヘラルボニーとは何か、そしてこれからの展望について聞いた。
「ヘラルボニー」がカンヌライオンズでゴールド受賞の裏側 - 日本発のアートビジネスが世界に認められた理由

Q. カンヌライオンズとは何か、どのような賞なのか?
カンヌライオンズは世界最大級のクリエイティビティの祭典で、1954年に始まった。もともとはCMを評価する賞だったが、2011年に「カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル」と名称を変更。

現在は広告の枠にとどまらず、あらゆる課題解決のためのアイデアを評価する場となっている。毎年6月にフランスのカンヌで開催され、世界中からクリエイターやマーケターが集まる。30の部門があり、各部門で最高賞のグランプリから順にゴールド、シルバー、ブロンズが選ばれる。
Q. 日本の「ヘラルボニー」とはどのような会社か?
ヘラルボニーは障害のある作家のアートをライセンス化し、さまざまな製品や空間に展開するクリエイティブカンパニー。障害のある作家が描いたアートデータを企業とコラボレーションし、シャツやペットボトルのラベル、空間デザインなど多様な形で世に送り出している。アート使用料は作家に報酬として還元され、持続可能なビジネスモデルを形成している。創業7年で、現在は盛岡本社、銀座、パリの3拠点で展開中。
Q. ヘラルボニーはカンヌライオンズでどのような賞を受賞したのか?
ヘラルボニーは2023年のカンヌライオンズにおいて、グラス部門でゴールドを受賞した。グラス部門は今年10周年を迎え、これまでの「ジェンダーギャップをなくす取り組み」から「障害の有無や人種、性的思考といった幅広いコミュニティの公平性を称える部門」へと再定義された。この部門には251のエントリーがあり、受賞は全体の3%のみ。その中でも障害の有無に焦点を当てた受賞はヘラルボニーだけだった。
Q. なぜ「キャンペーン」ではなく「企業体」として評価されたのか?
カンヌライオンズでは通常、特定のキャンペーンや作品が評価されることが多い。しかしヘラルボニーの場合、キャンペーンではなく「企業体そのもの」を出品し、7年間の事業活動全体が評価された点が特徴的だ。審査委員長からは「自社ブランドだけで展開するのではなく、様々なステークホルダーや企業とのパートナーシップを結びながら社会を巻き込んでいくアプローチ」が高く評価された。
Q. どのような点が評価されて受賞につながったのか?
ヘラルボニーの受賞につながった主な評価ポイントは以下の通り:
1. 障害のある人の反復行動に着目し、それをアートとして価値化した発想
2. 作品をIP(知的財産)としてライセンスビジネス化した独自のモデル
3. 7年間にわたる作家とのリレーションシップ構築
4. 企業とのコラボレーションによる社会巻き込み型のビジネス展開
5. 持続可能な事業モデルの確立
6. 作家本人の意思を尊重するプロセスの徹底
特に「What's Next(次は何をするのか)」という審査員からの問いに対して明確なビジョンを示せたことも大きかった。
Q. 応募準備ではどのような工夫や苦労があったのか?
応募準備では、ヘラルボニーの多面的な事業をどう切り口で見せるかが課題だった。特に、海外の視点でどう評価されるかを考慮し、日本特有の文脈に依存しない普遍的な価値を伝えることに注力した。
電通とヘラルボニーは何度もディスカッションを重ね、「障害のある人の反復行動に着目し、それをIPビジネスとして展開した」という核となるアイデアを軸に据えた。また、作家の意思確認プロセスなど、国際的な価値観に合致する点も強調した。
審査では2分間の映像審査の後、プレゼンテーションの機会があり、ヘラルボニーの共同代表やフランス法人のメンバーが現地で直接プレゼンを行った。これが審査員の心を動かす重要な要素となった。
Q. 日本の作品がカンヌライオンズで評価されるための課題は?
日本の作品がカンヌライオンズで評価されるには「日本特有の文脈」に依存しない普遍性が重要だ。審査はたった2分の映像を見て行われ、日本人審査員がいなければ背景説明ができないため、言葉に頼らず視覚的に伝わるものが有利となる。
電通の長谷川氏は「日本らしさをあえて前面に出さない」選択をしたという。日本特有の課題や背景を説明するよりも、グローバルに共感される普遍的な価値や課題に焦点を当てることが重要だと指摘する。
過去に評価された日本の作品としては、ホンダの「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」(2014年)やJRグループの「My Japan Railway」(2021年)などがある。
Q. カンヌライオンズの日本事務局はどこが担当し、なぜ関わっているのか?
カンヌライオンズの日本事務局は日本経済新聞社が担当している。日経が事務局を担う理由は主に3つある:

1. 世界のアイデアの見本市を広告業界だけでなく、ビジネス界全体に伝えるメディアとしての使命
2. ソーシャルグッドとブランドパーパスを掛け合わせた事例が、日経のビジネス方向性と合致している点
3. 70年以上の歴史を持つクラフトマンシップを大切にする思い
日本経済新聞社の光岡氏は「広告祭ではなく、ビジネス界全体で関わることができる場」としてカンヌライオンズの価値を広めたいと語る。
Q. カンヌライオンズでグローバルに評価された過去の例としてどのようなものがあるか?
カンヌライオンズで高く評価された代表的な事例としては、2019年のナイキ「Dream Crazy」キャンペーンがある。このキャンペーンは「Just Do It」30周年を記念したもので、アメリカンフットボール選手のコリン・キャパニックを起用し、様々な障壁を乗り越えるアスリートにフォーカスした内容だった。
このキャンペーンはアメリカ国内で賛否両論を巻き起こしたが、ナイキはブランドの信念を貫き、結果的に多くのファンを獲得。ナイキの歴史の中でも最も成功したキャンペーンの一つとなった。複数のグランプリとゴールドを受賞し、単一のキャンペーンではなく、30年にわたるブランドの一貫した姿勢が評価された事例である。
Q. ヘラルボニーの今後の展望は?
ヘラルボニーはカンヌライオンズ受賞を「グローバル展開のためのチケット」と位置づけている。フランスのパリには既に拠点があり、今後さらなる国際展開を目指す。
桑山氏は「カンヌで他の受賞作品を見て『ヘラルボニーにもできる』と確信した」と語る。障害福祉の領域で新たな挑戦を続け、長谷川氏は「ナイキやアップルのように毎年カンヌで注目されるグローバルなクリエイティブブランドになりたい」という展望を語る。
また、アートだけでなく障害者雇用など様々な社会課題に取り組み、それをビジネスとして持続可能な形で展開していく計画だ。
Q. カンヌライオンズに出品する意義とは?
カンヌライオンズへの出品には、受賞以外にも大きな意義がある。桑山氏は「出品するプロセスを通じて、現在の社会潮流や評価されている価値観を理解し、自社の活動を見直すきっかけになる」と語る。また「7年間お世話になった方々への感謝を伝える機会になった」とも述べている。
長谷川氏は「受賞がゴールではなく次のスタート地点」であること、そして「世界中のクリエイティブに興味のあるCXOが集まる場で企業をPRできる機会は他にない」と指摘する。

カンヌライオンズはもはや単なる広告賞ではなく、クリエイティビティを通じて社会課題に取り組む企業や団体が世界に認められ、次のステップへ進むための重要な舞台となっている。