PIVOT TALK BUSINESS
【自動車産業を超えるか】日本のキャラクタービジネスの課題と可能性
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2025年8月10日

自動車産業に肉薄するとも言われる日本のエンタメ産業。今後世界で稼ぎ続けるために、課題となる部分は何なのか?業界の展望は?エンタメ社会学者の中山淳雄氏に聞いた。
日本のIPビジネス戦略と成功の秘訣 - カギは「すり合わせ技術」にあり
日本のキャラクタービジネスは近年、世界的な注目を集め、その市場規模は拡大を続けている。自動車産業に匹敵する時価総額を持つまでに成長したエンターテインメント産業だが、その成長の背景にはどのような戦略があるのだろうか?エンタメ社会学者の中山淳雄氏に、日本のIPビジネスの現状と今後の展望について聞いた。

Q. 日本のキャラクタービジネスの現状をどう評価していますか?
現在の日本のキャラクターIPを含むエンタメ全般の輸出力は約5.8兆円とされています。政府はこれを20兆円にする目標を掲げています。注目すべきは、任天堂・ソニー・バンダイナムコなどエンタメの巨大企業の時価総額が、トヨタをはじめとする自動車業界の合計約60〜70兆円を追い抜いたことです。

しかし、自動車産業が100万人を雇用し、関連産業を含めると500〜800万人が関わるのに対し、エンタメ業界は15万人程度の規模です。巻き込む産業の広がりも限定的で、まだ「よちよち歩き」の段階といえます。
ディズニーのような総合的なIPビジネスになるには大きなステップが必要です。近年、集英社がゲームやアニメに展開したり、東宝が映画以外の事業を始めたりと、各社が連携的な動きを始めていますが、まだ産業として成熟するには時間がかかるでしょう。
Q. 日本のIPビジネスの理想形はディズニーなのでしょうか?
ディズニーは分かりやすい目標ですが、日本型のモデルを考えるべきです。例えば「ワンピース」や「名探偵コナン」のように、作家を中心に有機的なチームが形成されるモデルが考えられます。こうした企業はまだ存在していません。
日本のIPビジネスの特徴は「すり合わせ技術」にあります。これはモジュラー型(部品を組み合わせる)ではなく、各要素が有機的に連携してシナジーを生み出す方法です。アニメ、ゲーム、漫画、グッズ、体験施設などが連携し、IPの世界観を構築していきます。
トヨタが部品メーカーやディーラーと連携しながら完成品を作るように、IPビジネスでも「完成品メーカー」の存在が必要です。現状では出版社、アニメ制作会社、ゲーム会社がそれぞれの得意分野に特化していて、総合的なプロデュース力が不足しています。
Q. ポケモンの海外展開はなぜ成功したのでしょうか?
ポケモンの海外展開は「奇跡」と言えるものでした。1980年代後半、小学館が米国に「ビズメディア」という出版社を設立しましたが、日本の漫画はあまり流行らず、年間売上は5〜10億円程度でした。ところが1996〜97年にポケモンがヒットした翌年、ビズメディアの売上は100億円に急増しました。鬼滅の刃のような大ヒットが市場を一変させる好例です。
成功の鍵となったのは任天堂の山内社長の「海外展開せよ」という決断と、後に任天堂社長となる岩田聡氏の貢献です。岩田氏はゲーム制作会社「ゲームフリーク」から直接ソースコードを受け取ることなく、リバースエンジニアリングで英語版を開発しました。このような職人技、「工芸」としての取り組みが日本の強みです。
結果、ポケモンは人類史上最大のキャラクターIPとなり、世界での年間売上は約1.5兆円、ポケモン社の売上は3000億円、利益は1000億円に達しています。これはハリーポッターやディズニー作品をも超える規模です。
Q. 日本のIPの海外展開における変遷はどのようなものでしょうか?
1970年代までの日本は国内市場だけでは十分でなかったため、積極的に海外展開を進めていました。マジンガーZ、ゴジラ、ウルトラマンなどが海外でも人気を博しました。
しかし1980年代のバブル期に国内市場が拡大すると、海外展開の必要性が薄れました。現在は再び海外を意識する時代になっていますが、日本的な作品をそのまま海外に出しても人気を得られるようになりました。
かつては日本人であることを隠して作品を海外展開していましたが、今は「日本的であること」がプレミアムになっています。例えば「鬼滅の刃」は日本的な要素が強いのにルーマニアなどでも人気があり、現地の文化と重ね合わせて受け入れられています。
Q. ファンとの共創は今後のIPビジネスでどのような役割を果たしますか?
初音ミクは「ユーザーと共に作り上げるIP」の代表例です。2007年に音源ソフトとして誕生した初音ミクは、ユーザーが自由に創作した楽曲や映像によって成長しました。
当初は「ニコニコ動画」を中心に展開されていましたが、2014〜15年頃に一時的に勢いが落ちました。しかし「プロジェクトセカイ」などのモバイルゲームを通じて再び人気を獲得し、現在は200〜250億円規模のビジネスに成長しています。

ユーザーの創作を許可する「ピアプロ」というルールの下で、米津玄師さんのような才能ある創作者も育ちました。これは従来の「作ったものを消費してもらう」モデルとは異なる、革新的なアプローチです。
Q. 今後の日本のIPビジネスはどのように成長すべきでしょうか?
現在は「空前絶後の日本ブーム」と言える状況で、政府も商社も銀行も、エンタメ産業を支援する気運に満ち溢れています。

この好機を生かすには「工芸は工芸のまま」保ちながら、それを広げるためのビジネスやディストリビューション(流通)の専門家を育成することが必要です。ソニー的なアプローチで、クリエイションを尊重しながらビジネス展開していくことが重要です。
そうすれば2040〜50年には、自動車産業に匹敵する産業に成長する可能性があります。現在は15年前と比較しても、かつてないほどトレンドが熱を帯びており、この好機を生かす絶好のタイミングです。