PIVOT TALK BUSINESS
起業の必須知識 スタートアップファイナンス
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2025年7月31日

『決算分析の地図』の村上茂久氏による、スタートアップ・ファイナンス超入門。Amazonはなぜ赤字に見える?キーエンスから見える日本企業のファイナンスの特徴とは?村上氏の超解説第三弾。
スタートアップはなぜ赤字でも資金調達できる?ファイナンスミックスの秘密
スタートアップの世界では、赤字でも多額の資金調達ができる企業が数多く存在します。なぜこんなことが可能なのでしょうか?また、成長フェーズに応じた最適な資金調達方法とは?『決算分析の地図』の著者で、ファインディールズ代表の村上茂久氏に、スタートアップファイナンスの基礎知識について解説してもらいました。

Q. そもそもスタートアップはなぜ赤字でも資金調達できるのですか?
まず資金調達の基本的な構造を理解する必要があります。バランスシートは「資産」「負債」「自己資本(純資産)」で構成されています。負債側は「デット」と「エクイティ」に分けられます。
デットは金融機関からの融資や社債発行によるもので、元本と利息の返済が必要です。一方、エクイティは株式による調達で、会計の教科書では「返済の必要がない調達方法」と説明されることが多いです。
しかし、ファイナンス的には、エクイティは「高い利回りを株主から求められる調達方法」です。投資家から見ると、デットはローリスク・ローリターン、エクイティはハイリスク・ハイリターンとなります。企業から見ると、デットは調達コストが低く、エクイティは調達コストが高いという特徴があります。
例えば、10億円を調達した場合、金利1%のデットなら1000万円の利息と元本返済で済みますが、エクイティだと数十億円ものリターンを投資家に返す必要があります。
Q. では創業時はデットで資金調達した方が良いのでは?
そこが難しい点です。金融機関は実績の少ない企業に多額の融資はできません。創業融資という形で最大1000万円程度は借りられますが、エクイティ調達だと初期段階から1億円や数億円を調達できる可能性があります。

日本のスタートアップ界隈ではエクイティ調達が圧倒的に多いです。金融機関もスタートアップにはリスクが高いため融資しにくいという事情があります。
一方、大企業や中小企業ではエクイティファイナンスはほとんど行われず、デットファイナンスが中心です。上場時にIPOで公募増資をしても、その後継続的に公募増資をするケースは多くありません。日本は間接金融(銀行融資)が強い国なので、コーポレートローンや特殊なファイナンス手法が主流です。
Q. スタートアップが赤字でもエクイティ投資を受けられる理由は?
これを理解するには「Jカーブ」という概念が重要です。スタートアップは初期に赤字を出しながら成長し、その後急激に利益を出す曲線を描きます。

例えば、動画メディアのSchooは2022年9月期に売上13.2億円に対して7.7億円の赤字でした。従来の金融機関の判断なら融資は難しいでしょう。しかし、わずか2年後の2024年9月期には売上28億円で黒字化し、2025年9月期では売上33億円、利益2.4億円と予測されています。
なぜこんな急激な変化が起きるのか?Schooの場合、2022年9月期は売上を100%とすると、原価54%、広告宣伝費31%などで、費用が売上を大きく上回っていました。2024年9月期には原価33%、広告宣伝費17%と下がり、利益が出せるようになりました。
コンテンツビジネスは売上が増えるほど原価率が下がる特性があり、広告宣伝費も調整できます。成長を優先するために高額な広告宣伝費をかけていたものを、ある程度市場シェアを確保したら調整することで黒字化できるのです。
メルカリも同様に、2020年6月期は売上763億円に対して193億円の赤字でしたが、2024年6月期には売上1800億円、利益175億円を計上しています。この時期の広告宣伝費は売上の45%にも達していました。
Q. 投資家は何を見て投資判断しているのですか?
PMF(プロダクト・マーケット・フィット)という概念が重要です。これは製品やサービスが市場に受け入れられているかどうかを示します。市場に受け入れられていない製品にマーケティングコストをかけても意味がありません。
PMFが確認できている状態であれば、さらなる成長のために赤字でも投資する価値があると判断されます。PMFの指標は業種によって異なりますが、売上以外にも、例えばYouTubeチャンネルの登録者数など、市場での受容度を示す指標が使われることもあります。
要するに、成長への投資として赤字を出していることが重要なのです。
Q. 最近話題の「ファイナンスミックス」とは何ですか?
ファイナンスミックスとは、スタートアップのフェーズや資金調達において複数の資金調達手段を組み合わせ、それぞれの特性を活かしながら資金調達力を担保し、成長資金を確保することを指します。
従来のスタートアップファイナンスはエクイティ中心でしたが、近年は金融機関やファンド、事業会社がベンチャーデットという形でスタートアップ企業に融資するケースが増えています。
エクイティファイナンスだけだと既存株主の持分が希薄化し、より高いリターンを求められるプレッシャーがかかります。デットを活用することで調達額を増やしつつ調達コストを下げられますが、デットだけだと自己資本比率が下がって健全性が悪化します。そこで両者をバランスよく組み合わせるのがファイナンスミックスです。
Q. ファイナンスミックスの具体例を教えてください
スキマバイトで知られるタイミーの例が分かりやすいです。タイミーはシリーズDまではエクイティファイナンスでしたが、2022年に183億円、2023年に130億円のデットファイナンスを行いました。

なぜタイミーがこれほどのデットファイナンスを実現できたのか?それはバランスシートに秘密があります。タイミーは「立替金」が65億円もあり、資産全体178億円の約36%を占めています。
タイミーのビジネスモデルは「即日払い」なので、求職者がアルバイトした分をタイミーがすぐに支払い、企業からは後で回収します。売上が伸びるほど立替金が増え、資金繰りが厳しくなるという特性があります。
しかし、PMFがしっかりしていて成長が続いており、立替金の貸し倒れ率も低かったため、金融機関が融資に応じたのです。
また、家具・家電のレンタルサブスクを提供するクラスという会社は、2025年4月に25億円の調達をしましたが、エクイティはわずか2.5億円で、残り22億円以上がデットファイナンスでした。
クラスの場合は、保有する家具・家電をリース会社に譲渡し、それを裏付けにお金を借りるセール&リースバック方式を活用しました。これは資産を持つビジネスモデルだからこそできる手法です。
このほか、RBF(レベニューベースドファイナンス)という、将来の売上予測に基づいて融資を受ける方法も登場しています。特にサブスクリプションビジネスでは、解約率や成長率から将来収益が予測しやすいため、この手法が有効です。
Q. スタートアップファイナンスを学ぶメリットは?
スタートアップを運営する側はもちろん、投資家や金融機関で働く人にとっても、スタートアップファイナンスの知識は重要です。従来の金融知識だけではスタートアップの成長モデルを正しく評価できません。
スタートアップ特有のファイナンス手法や赤字の意味を理解することで、より良い投資判断や資金調達戦略を立てることができます。
さらに、自社のビジネスモデルを深く理解し、その特性に合わせたファイナンス手法を選択することが、持続的な成長につながります。