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【売上高3兆円超え】富士フイルムはなぜ大逆転できたのか
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2025年8月1日

4期連続の最高益となり、絶好調の富士フイルム。一時は「本業喪失」の危機に直面しながら、なぜここまでの大復活を遂げたのか。同社の事業戦略や今後の展望について、後藤禎一社長に聞いた。 <ゲスト> 後藤禎一|富士フイルムHD 代表取締役社長・CEO 1983年富士写真フイルム(現富士フイルムHD)に入社...
「本業喪失」の危機から生まれ変わった富士フイルム 第二の創業と今後の成長戦略
富士フイルムは写真フィルム市場の急激な縮小という「本業喪失」の危機を乗り越え、
現在はヘルスケアや半導体材料など多様な事業で成長を続けている。
創業から91年が経つ同社はなぜ大転換に成功し、今後どこに向かうのか。富士フイルムホールディングス代表取締役社長・CEOの後藤禎一氏に聞いた。

Q. 富士フイルムの現在の事業構成はどうなっていますか?
当社は1934年に国産の写真フィルムを作ることを目的に設立されました。
写真フィルムの世界市場は2000年にピークを迎えましたが、その後デジタルカメラと携帯電話の普及により、市場は年率20-30%で急落しました。
当時は売上の約6割、営業利益の約3分の2を写真フィルム関連のビジネスが占めていた会社だったので、本業を失うという危機に直面しました。

現在は事業ポートフォリオを大きく変え、2023年度の売上は約3兆2000億円に達しています。
内訳としては、ヘルスケアが約1兆円、ビジネスイノベーションも約1兆円、エレクトロニクス(半導体材料など)が約4500億円、
イメージング(デジタルカメラやチェキなど)が約5000億円となっています。
かつての主力事業だった写真関連から、ヘルスケアなどが大きなウェイトを占める会社へと変わりました。
Q. 写真フィルム市場の急激な縮小をどのように体験されましたか?
当時、私はシンガポールに駐在していました。2003年末に中国に転勤となった際、
本社からは「まだアジアでは写真フィルムが売れるだろう、デジタルカメラの波はまだ来ないだろう」と言われていました。
しかし実際には予想よりもはるかに速いスピードで変化が訪れました。
特にアジアでは、写真カメラがまだあまり普及していない段階で突然携帯電話が入ってきたのです。
ベトナムなどでは固定電話が普及する前に携帯電話が導入されるというように、技術の段階を飛び越えて進化が起こりました。
こうした現場を見ながら、本社の動きも横目で見ていました。
当時の小森CEOが、事業ポートフォリオを変えるという大きな決断を一気に行い、会社の転換が始まりました。
Q. 大転換を成功させた要因は何だったのでしょうか?
三つの要因があります。一つ目は挑戦する人材の存在です。
写真業界では長らくイーストマン・コダックが世界一で、1960年代には富士フイルムの20倍の規模がありました。
それを2001年にようやく売上で抜いたという歴史があります。
その過程で「なんとしても世界一になろう」という気持ちの人材が技術者にも営業にも多く育っていました。
二つ目は財務力です。世界市場の70%のシェアを持つフィルム事業があったため、新しい分野への投資余力がありました。
三つ目は信頼のブランド力です。これらの資産が重なり合って、大転換を成功させることができました。
当時の小森CEOの「スピードとダイナミックさが必要だ」「成功しない決断は意味がない」という言葉には大きく感銘を受けました。
社員にとっては本業を失うような状況でしたが、変化を成長へのチャンスと捉える意識が蔓延し、それが結果的に会社の成長につながっています。
Q. 現在の業績は好調と聞いていますが、具体的にはどうですか?
売上は約3兆2000億円弱となり、当社の91年の歴史で初めて3兆円を超えました。営業利益は約3300億円で、10%を超える営業利益率を達成しています。
売上は3期連続、営業利益は4期連続で過去最高を更新するなど、非常に好調な業績を上げています。
Q. 現在の成長をけん引している事業は何ですか?
2000年にフィルム需要が落ち始めてから、ポートフォリオを変えるためにさまざまなM&Aや新規事業を起こしてきました。
最初の10年間は技術の棚卸しをしながら、どの分野が成長市場なのか、どの分野で技術的差別化ができるのかを探索してきました。
2010年から2020年にかけては、医薬品分野ではバイオCDMO(医薬品の受託製造)に注力し、2011年からバイオ医薬に参入しました。
また、医療機器などのメディカルシステムや半導体材料事業にも投資を拡大してきました。
私が2021年春にCEOに就任してからは、バイオCDMOと半導体材料を最も成長が見込める分野と位置づけ、集中的な投資を行っています。
現在はその戦略の真っただ中にあります。
Q. バイオCDMOとは何ですか?その市場の可能性は?
バイオ医薬品とは、低分子医薬品(化学合成によって作られる一般的な薬)とは異なり、微生物や細胞の中で培養して作る医薬品です。
代表的なものは抗体医薬です。作り方が非常に繊細で高度な技術が必要です。
低分子医薬品の開発には約300億円かかるのに対し、バイオ医薬品は約1000億円と巨額の投資が必要です。
しかし、その効能は従来の薬では治療が難しかったがんや認知症などの疾患に効果があり、副作用も少ないという特長があります。
市場は急速に拡大しており、2028年には低分子医薬品の市場を抜いて50%以上のシェアを占め、99兆円規模になると予測されています。
CDMOとはContract Development and Manufacturing Organization(医薬品受託製造開発機関)の略です。
半導体で言えばTSMCのようなファウンドリー(受託製造業)のような立場です。製薬メーカーは研究開発に集中し、製造は外部に委託する傾向が強まっています。

バイオ医薬品の市場は年率9%で成長していますが、バイオCDMO市場はさらに速く年率13%で拡大しています。
当社は過去5年間で約70億ドルの投資を行い、2030年には7000億円の売上を目指しています(現在は約2100億円)。
Q. 日本のバイオ医薬品製造の現状はどうなっていますか?
日本の製薬会社もいくつかバイオ医薬品を開発していますが、製造は主に海外で行われています。
その結果、日本の医薬品貿易は2024年度で1.7兆円の赤字となっています。
当社は2027年に富山県富山市に600億円を投資し、日本最大のバイオCDMO工場を建設する計画です。
日本でバイオCDMOが発達しなかった理由としては、市場がグローバルであることと、専門知識を持つ人材不足が挙げられます。
当社はイギリスの工場のノウハウを活用し、機械や品質保証体制、ITシステムを導入するとともに、人材も派遣して技術移転を進めています。
また、富山県と協力してバイオ人材の育成にも取り組んでおり、大学に寄付講座を開設するなどの活動も行っています。
募集をかけたところ、日本全国から特に女性を中心に多くの応募がありました。
政府も2024年6月に「新しい資本主義グランドデザインと実行計画」においてバイオ医薬品の国内製造サプライチェーン構築を政策に掲げており、
国家戦略としても重要な分野となっています。
Q. 半導体材料事業ではどのような強みを持っていますか?
半導体製造工程は大きく前工程と後工程に分かれますが、当社は特に前工程向けの材料を手がけています。
具体的には、ウェハーの上に塗布するレジスト、平坦性を出すためのCMPスラリー、洗浄用の高純度ケミカルなど、
製造工程で必要となる幅広い材料を提供しています。
また後工程向けにも特殊ポリイミドやCMPスラリーなどを展開しており、前工程から後工程まで網羅的に製品を持っているのは世界でも珍しい強みです。
これにより、ワンストップソリューションを提供できる点が顧客から高く評価されています。
例えば、半導体製造で異物混入などの問題が発生した場合、各材料メーカーは「自社の製品に問題はない」と主張するのが一般的です。
しかし当社は、フィルム時代から蓄積してきた解析技術とノウハウを活かし、問題の原因究明から解決までを一貫してサポートできます。
半導体製造では、いかに歩留まりを高く保ち続けるかが各社の競争力になるため、このような支援は非常に価値があります。
現在、世界に20箇所の製造拠点(アメリカ6、アジア6、ヨーロッパ5、日本3)を持ち、地産地消の考え方で各地域のニーズに応えています。
さらに、現地でのサポート体制を「地援」と呼び、問題発生時に迅速に対応できる体制を整えています。
Q. 半導体材料事業の成長戦略は?
今後はインドや東南アジアが大きく成長すると予測しています。
特にゼロから産業を育てる地域では、複数の工程で必要な材料をワンストップで提供できる当社の強みが活きると考えています。
既存の工場で製造工程を変更するには3〜4年かかりますが、新規立ち上げの案件では当社のようなワンストップソリューションが採用されやすい傾向があります。

投資計画としては、2024年から2026年にかけて半導体関連で1700億円の投資を予定しています。
静岡のマザー工場に研究開発施設を今年秋に開設するほか、台湾の新竹に2026年末にスラリー製造工場をオープンする計画です。
半導体材料は技術革新が激しく、ゲームチェンジが起こる可能性がありますが、
当社の強みである材料技術を磨きながら、他社が真似できない差別化を図っていきます。2030年には売上5000億円(現在の2倍)を目標としています。
Q. 経営者として大切にしていることは何ですか?
現場をよく見ることを重視しています。ビジネスを行う上で、本社に座っているだけでは分からないことが多く、現場の匂いを感じることが大切だと考えています。
役員になっても事業を任せることも必要です。社会課題を解決する製品やサービスを生み出すためにはイノベーションが不可欠ですが、
そのために最も重要なのは「志(アスピレーション)」です。社員がこうしたいという思いを持つことが企業の最大の強みになると信じています。