PIVOT TALK BUSINESS
【デジタル業界への提言】日本は「ミドルウェア」で生き残れ
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2025年7月25日

AI革命によってソフトとハードの主従が逆転し、SI市場の瓦解が叫ばれる中、日本のデジタル業界はどのように生き残れば良いのか。津田通隆氏と澤円氏に聞いた。
【デジタル業界の生存戦略】ボーン・グローバルの精神で世界へ挑め
デジタル化が進む現代、日本のデジタル産業はどのように世界で戦っていくべきなのか。
経済産業省のデジタル経済プロジェクトチームでプロジェクトリーダーを務める津田通隆氏と、元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員の澤円氏が、
日本のデジタル産業の現状と未来について語る。

Q. 日本のデジタル産業が生き残るために必要なことは?
まず理解すべきは、ハードウェアとソフトウェアの主従関係が逆転し、データが世界を飲み込む時代が到来していること。
この大原則は世界では既に常識となっている。
そのうえで重要なのは、国際市場で戦うことを大前提とすること。
ソフトウェアの世界では、一度ストックを作れば電気代程度のコストで横展開できる特性がある。
つまり、最初に大きなマーケットでプロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成した者が勝者総取りとなる世界だ。

日本市場だけを見ると、ICTスペンディングベースで約0.2兆ドルと十分大きい。しかし米国市場は1.7兆ドルと8.5倍もの規模がある。
同じ業種で戦うなら、市場規模の違いだけで成長速度に8.5倍の差がつく。この差こそが米国企業のスケーラビリティの強さの源泉だ。
日本市場だけでヒットさせても、8.5倍の顧客を獲得した米国企業が後から日本に進出したら太刀打ちできない。
Q. 日本企業はなぜ国内市場に過剰適応してしまうのか?
これは経営者だけの問題ではなく、投資家の問題でもある。
日本国内である程度プロダクトを大きくすれば上場でき、十分なリターンを得られることから、あえて厳しい米国市場に挑戦する必要性を感じない構造がある。
投資家も、リスクを低く抑えて上場させれば十分稼げるため、グローバル挑戦を求めない。
結果として、日本のシードラウンドで必要な資金額は少なく、リスクマネーが膨れにくい構造になっている。
この問題は日本市場が「中途半端に大きい」という構造問題から発生している。
対称的に、市場が小さい国々の方がうまく戦略を立てている。英国、韓国、イスラエル、エストニアなどはマーケットが小さいため、
「ボーングローバル」(生まれながらにしてグローバル志向)という発想が当たり前になっている。
Q. 成功している国々の戦略とは?
世界の国々は開発要因と市場要因をマトリックスで考えると、それぞれ異なる戦略をとっている。
米国と中国は自国マーケットが巨大なため、国内でマーケットフィットするだけで勝てる。
シンガポールやアイルランドは、外資企業を呼び込んでヘッドクォーターを設置し、法人税率を下げて稼ぐ戦略をとっている。
最も上手くやっているのは英国、韓国、イスラエルといった中小国で、彼らは市場が小さいからこそ最初から海外展開を前提としている。
韓国のカカオやネイバー、英国のフィンテック企業などは国内から海外に出て、世界から稼いでいる。
対して日本は、市場規模に見合わない戦略をしている。中途半端に大きい市場を持ちながら、米国や中国と同じ戦い方をしているのだ。
Q. グローバルを見据えた成功事例はあるか?
ファーストリテイリング(ユニクロ)は早い段階からグローバルを見据えて成功している企業の一例だ。
ライバルはH&MやZARAといった、日本よりも規模の小さい国から出てきた企業。彼らは最初から社内文書を全て英語にするなど、グローバル展開を前提としていた。
ファーストリテイリングもそれを取り入れ、「公用語英語」を導入した。
「まず日本でしょ」という発想でいる限り、グローバル展開の第一歩が遅れてしまう。その障壁をなくすことが重要だ。
Q. デジタル戦略を考える上で役立つフレームワークは?
「ニブモデル」という新しいフレームワークが提案されている。これはデジタル企業の戦略を体系的に分析するためのモデルだ。
このモデルでは、デバイス、サービス、ミドルウェア、インフラという4層に分け、汎用性の幅でくびれた形状になっている。
デバイスとミドルウェア/OSは汎用性が低く、サービスとインフラは汎用性が高い(コモディティ化されやすい)特徴がある。
例えば、GoogleやMeta、リクルート、ZOZOには共通点がある。
これらの企業はもともとアプリケーションサービスを提供していたが、顧客データを取得するためにデバイス側に進出している。
GoogleはPixelを、リクルートはAirレジを、ZOZOはZOZOスーツを開発した。これは「ゲートシーキング戦略」と呼ばれる。
また、AmazonがAWSを開発したのは「インフラショッピング戦略」の例だ。
もともとECサイトのインフラとして構築したサーバーの稼働率を上げるため、クラウドサービスとして外部に提供し始めた。
Q. 日本が持つ強みは何か?
日本には2つの強みがある。

1つ目は、有形産業のアセットだ。日本の製造業やコンテンツ産業には「翻訳可能な構造」が大量に眠っている。
これを活かし、特に「ミドルウェア」レイヤーで戦うべきだ。
ミドルウェアは開発コストに対するドミナントデザイン強度(一度ポジションを築いたら崩されにくい度合い)のコスパが良い。
2つ目は、データの優位性だ。最近、インターネット上のテキストデータが枯渇しつつあるという問題が生じている。
2026年から2032年の間に、インターネット上の全データが学習され尽くすと予測されている。
この問題に対し、米国企業は「シンセティックデータ」(合成データ)の生成に力を入れている。
一方、日本の製造業は現場の「リアルデータ」を大量に持っており、これが今後大きな強みとなる。
Q. 日本企業はどのように変革すべきか?
まず経営者が「正規なきデジタル市場」が到来していることを理解し、自社が持つアセットと「翻訳可能な構造」の掛け算を考えるべきだ。
デジタルシフトには経営者のコミットメントが不可欠であり、必要な権限を現場に与える必要がある。

スタートアップも、国内上場で満足せず、「ボーングローバル」の精神で海外市場を狙うべきだ。
必ずしもシリコンバレーである必要はなく、APACなど他の大きな市場も視野に入れるとよい。
日本が持つハードウェアの強みは諸外国から狙われているが、それを守りながら戦略的に活用することが重要だ。
データスペースの取り組みなど、日本のデータ資産を活かした国際戦略も進んでいる。
最後に重要なのは「マインドの変革」だ。最初からグローバルデザインで考え、必要なら海外で実証実験を行い、日本に逆輸入するという発想も必要になる。