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交通弱者を作らない、ドイツのインフラ革命
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2025年7月28日

日本と同じく高齢化が進むドイツで、交通インフラの革命が起きている。交通弱者を作らないためにドイツはどんな取り組みを行っているのか?自動車ジャーナリストの川端由美氏に聞いた。 <ゲスト> 川端由美|自動車ジャーナリスト 群馬大学大学院工学科修了。住友電工にてエンジニアとして務めた後、 二玄社『NAV...
ドイツの新型モビリティ革命:49ユーロ定額パスとライドプーリングが変える交通の未来
交通弱者をつくらない。その明確なビジョンのもと、ドイツでは画期的な交通システム改革が進んでいる。自動車メーカーも巻き込んだこの取り組みは、高齢化社会を抱える日本にも大きな示唆を与えてくれる。高速道路の逆走事故、免許返納問題、過疎地の交通空白など、日本と同じ課題を抱えるドイツが導入した新しい交通政策とは何か。自動車ジャーナリストの川端由美氏に聞いた。

Q. ドイツでは現在、どのような交通革命が起きているのですか?
ドイツでは「交通弱者を作らない」という明確なビジョンのもと、革新的な交通システムの改革が進んでいます。特に注目すべきは全国で使える49ユーロの定額制鉄道パスと、「ライドプーリング」という新しい移動サービスの導入です。
ハンブルクは公共交通の先進都市として知られており、国際的な公共交通の展示会も開催されています。この都市では「全ての人が5分以内に公共交通にアクセスできること」という明確な目標を掲げています。さらに障害を持つ人々に対しては、無条件で公共交通へのアクセスを保証するという方針を打ち出しています。
ドイツがこうした政策を進める背景には、高齢化社会における移動手段の確保という日本と共通する課題があります。特に注目すべきは、官民一体となったアプローチで、行政が目標を明確に定義し、民間企業がその実現のための技術とサービスを提供している点です。
Q. 49ユーロチケットとは何ですか?どのように機能しているのですか?
49ユーロチケットは、ドイツ全土の鉄道や公共交通機関が月額49ユーロ(約8,000円)で乗り放題になる定額制パスです。このチケットは当初、コロナ禍で停滞した経済を活性化するための一時的な政策として導入されましたが、その効果が高く評価され、現在は無期限の政策として継続されています。
このチケットを使えば、新幹線に相当する高速鉄道を含め、ドイツ国内のどこへでも移動することができます。日本に当てはめると、九州から北海道まで新幹線も含めて月額1万円程度で乗り放題になるようなイメージです。
このシステムは、税金からの補助金(約5,000億円)によって支えられていますが、それ以上の経済効果があるとドイツ政府は試算しています。特に地方の公共交通維持のコストを都市部の利用者と分担する効果や、自家用車依存からの脱却による環境・安全面でのメリットが評価されています。
Q. ライドプーリングとは何ですか?なぜ注目されているのですか?
ライドプーリングとは、複数の乗客の需要をAIで最適化し、効率よく相乗りさせるサービスです。単にオンデマンドで車を呼ぶライドシェアとは異なり、乗車ルートを最適化して乗車率を上げることに重点を置いています。
フォルクスワーゲンの子会社「MOIA」がハンブルクで展開しているサービスでは、すでに800台以上の専用車両が都市内を走行し、アプリで簡単に予約できます。料金はタクシーの半額程度で、一般的な移動で10ユーロ(約1,600円)以下で利用できます。

ライドプーリングが注目される理由は、いくつかあります:
1. 交通弱者のアクセシビリティ向上
2. 公共交通と自家用車の中間的な選択肢の提供
3. ドライバー不足問題への対応
4. 自動運転技術との高い親和性
5. 公共交通予算の効率化
特に革新的なのは「バーチャルバス停」の概念です。天候や曜日、時間帯によって最適な乗降場所を動的に設定し、利用者に若干の移動を求めることで全体の効率を高めています。
Q. MOIAは具体的にどのようなサービスですか?
MOIAはフォルクスワーゲンが展開するライドプーリングサービスで、専用開発された6人乗りの車両が使われています。車内は広々としており、プライバシーを確保するための仕切りや充電器など、快適さにも配慮されています。
利用方法はシンプルで、専用アプリまたはハンブルク交通局の総合アプリから予約できます。AIが最適なルートを計算し、乗車地点と時間を指定してくれます。乗車率を上げるため、途中で他の乗客をピックアップすることもありますが、大幅な遅延が生じないよう最適化されています。
料金はタクシーの半額程度で、例えば通常タクシーで2,500円程度かかる移動が、MOIAなら1,000円程度で済みます。このコスト効率の良さから、飲み会の帰りや通勤など、様々な用途で利用されています。
特筆すべきは、このサービスが単なる実験ではなく、フォルクスワーゲンのトップも参加する戦略的な事業として位置づけられていることです。EVの普及に苦戦する中、移動サービス全体を提供する新しいビジネスモデルとして力を入れています。
Q. 自動運転とライドプーリングの組み合わせにはどのような可能性がありますか?
ライドプーリングと自動運転技術の組み合わせは、交通システムの未来において極めて理想的な形と言えます。MOIAはすでに自動運転車両による実証実験を開始し、「SELF-DRIVING-VEHICLE」のブランドで展開する計画を発表しています。

この組み合わせには以下のようなメリットがあります:
1. ドライバー不足問題の解決
2. 24時間運行の実現
3. 運行コストの大幅削減
4. 安全性の向上(特に高齢ドライバーによる事故防止)
5. バーチャルバス停の活用による柔軟な運行
特に自動運転車は、安全に走行できるルートのみを選択できるため、バーチャルバス停のコンセプトと相性が良いとされています。利用者が少し歩いて安全なピックアップポイントに来ることで、自動運転の実用化のハードルを下げることができます。
日本でも応用可能なアイデアとして、コンビニエンスストアをバーチャルバス停として活用する案が考えられています。実際、MOIAの経営陣には日本滞在経験者もおり、日本のコンビニが待機場所として適していることを認識しています。
Q. ドイツと日本の交通課題には共通点がありますか?
ドイツと日本は交通に関する課題で多くの共通点を持っています:
1. 高齢化社会による移動弱者の増加
2. 高齢ドライバーによる事故リスク
3. 地方部での公共交通の維持困難
4. 交通分野での人材不足
特に高齢ドライバーの問題はドイツでも深刻で、高速道路の逆走事故も頻発しています。ドイツでは免許更新制度がないため、一度取得した免許が生涯有効となり、高齢ドライバーの能力低下に対応できないという課題があります。
また両国とも、車の所有に関する意識が似ており、「公共交通が充実していれば車は必要ない」という価値観を持つ傾向があります。これは「車は必ず所有すべきもの」とするアメリカや「移動手段は何でもいい」とする東南アジアとは異なる特徴です。
こうした共通点から、ドイツの交通政策の成功事例は日本にも応用できる可能性が高いと考えられます。
Q. ドイツでは他にどのような移動手段が整備されていますか?
ドイツでは鉄道や自動車以外にも多様な移動手段が整備され、それらを統合的に利用できるシステムが構築されています:
1. 電動スクーター:1日5ユーロ程度で乗り放題のサービスがあり、指定エリア内ならどこでも乗り捨て可能
2. シェアサイクル:駅前に多数配置され、利用パターンに応じて配置が最適化されている
3. バスなどの公共交通:低床バスの導入など、アクセシビリティに配慮
4. 統合アプリ:これらの交通手段を一元的に検索・予約できるアプリの整備
特筆すべきは、自転車と電動スクーターのための専用レーンが明確に分離されている点です。歩行者、自転車・電動スクーター、自動車の走行空間が明確に区分けされているため、安全性が高まっています。
また、これらの交通手段を統合的に管理するデータプラットフォームが整備されており、最適な移動手段の提案や、交通需要の予測、インフラ整備の計画などに活用されています。
Q. 日本がドイツから学べることは何ですか?
日本がドイツの交通システムから学べる点は多岐にわたります:

1. 明確な数値目標の設定(例:全ての人が5分以内に公共交通にアクセスできる)
2. 民間の努力やモラルに頼らない公的サービスとしての交通の位置づけ
3. ライドプーリングによる需要集約と効率化
4. バーチャルバス停による柔軟な運行
5. 多様な交通手段の統合と一元的な情報提供
6. 自動運転技術の実用化に向けた具体的なアプローチ
7. コンビニなど既存インフラの活用可能性
特に日本では、コンビニエンスストアの全国ネットワークを活用したバーチャルバス停の展開や、「デジタルサンドボックス」制度を活用した実証実験の促進など、具体的な適用方法が考えられます。
また、交通を単なる移動手段としてではなく、高齢者の社会参加や認知症予防といった側面からも捉え直すことが重要です。移動の権利を保障することで、健康で活動的な高齢社会の実現にもつながる可能性があります。