PIVOT TALK BUSINESS
地政学リスク時代 経営チェックリスト10項目
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2025年7月9日

日本企業は経済安全保障をどのように実践できるのか?元・経産省 通商交渉官・羽生田慶介氏に、10の部門の具体的な対策を聞いた。
企業が地政学リスクに対応するために必要なこと
地政学的なリスクが高まる中、企業はどのように対応すべきか。オウルズコンサルティンググループ代表で、元・経産省通商交渉官の羽生田慶介氏が、企業が今必要としている人材像や、経営層と現場のギャップを埋める方法、そして明日からでも着手できる対応策について解説する。

Q. 企業が今求めている人材像はどのように変化していますか?
経営層にとっては、対局的な視点が重要です。日々の報道に一喜一憂するのではなく、大きな方向性やメガトレンドを捉える力が必要です。また、極端に報じられることに対してニュートラルな目を持つことも大切で、そのためには教養としての地政学的な知識が役立ちます。
現場に近い人材に関しては、意外かもしれませんが、一般的な情報を自社のビジネスの文脈に置き換えられる能力が重要です。インテリジェンスの99%は公開情報の分析だと言われるように、オープンソースの情報を自分のビジネスの言葉に置き換えられるかどうかが鍵となります。物事を構造化する力や、概念だけでなく自社のビジネスや商品に落とし込む能力が求められています。
Q. 若い世代がこうした能力を身につけるためにはどうすればよいですか?
コンサルタントが行うような構造化の手法を学ぶことも一つの方法ですが、それよりも実践的なアプローチとして「顧客の顧客と話す」ことが効果的です。

通常のビジネスでは、直接取引する相手(お客様)やサプライヤーとしか話しませんが、顧客の顧客こそ自分の事業に関する先読みのインテリジェンスが眠っています。顧客の顧客の意見や動向を理解することで、自社の顧客がどう動くかを予測できるようになります。
例えば、顧客の顧客が「アメリカの状況が危うい」「中国のままで問題ない」などと言えば、それが顧客の考えにも影響するでしょう。このように、情報を立体的に捉えることができるようになります。
Q. 経営層と現場の人たちの間にあるギャップをどう埋めていくべきですか?
このギャップを埋めるには、目標設定を変える必要があります。現場の人々は、数年前に策定された中期経営計画に基づいた目標達成の責任を負っています。例えば、コストダウンの目標を与えられている人に対して、サプライチェーンの強靭化のために取引先を増やしたり在庫を増やしたりするよう求めても、それは相反する指示となります。
そのため、経営層は「このご時世だからキャッシュフローに関する目標は一旦諦めて良い。点数を下げなくても良いから、その代わり在庫は増やせ」というように目標自体を変更する必要があります。全社的な目標を下げる必要はなく、重要な部分(例えばレアメタルを使用している部門など)に関してのみ、コストダウン目標を一時的に停止するといった調整で十分です。
これは非常にシンプルなアプローチですが、経営層がきちんと伝えなければ現場は抵抗勢力になってしまいます。
Q. 中小企業も含め、明日からでも着手できる対応策はありますか?
まずは自社にどれだけ地政学的・経済的リスクがあるかを確認するところから始めるべきです。具体的には以下のようなチェックリストで確認することができます:
1. 自社の扱う商品・サービスが「重要技術」や「先端技術」に該当するかを確認する。創業が古い会社でも、先端技術に使われる素材を扱っていることがあります。
2. 懸念国(各国の視点により異なる)に自社の拠点があるか確認する。ある場合は直ちに問題というわけではありませんが、対応の仕方が変わってきます。
3. 外国と共同開発しているプロジェクトがあるか確認する。現代では純粋な日本の技術だけで成り立つことはほとんどないため、このリスクチェックは重要です。
4. 懸念国からソフトウェアを購入しているか確認する。部品だけでなく、ソフトウェアも大きなリスク要因となります。アメリカのソフトウェアを多く使用している日本企業も多く、またスマートフォンアプリなども様々な国のエンジニアが関わっていることがあります。
5. 調達先が偏っていないか確認する。これは懸念国に限らず、友好国であっても調達先が偏っていればリスクとなります。従来のキャッシュフロー重視の考え方から脱却する必要があります。
6. 「勝者」から購入している、「勝者」に売っているという状況はリスクがあります。勝者が誰から購入しているか、どこに販売しているかが不明瞭になるためです。可能であれば取引先のサプライチェーンも把握すべきです。
7. 政府機関やインフラ向けに製品を納入しているか確認する。こうした分野は規制が多いため、しっかりとリスト化して管理する必要があります。
8. 本社所在地以外に新設備を作ったり増設する計画があるか確認する。投資のタイミングで懸念される企業に資金が流れないよう注意が必要です。
9. 懸念国への出張や資材の持ち出しに関するルールを徹底する。
10. 重要技術に関わる部署に外国籍の従業員がいる場合、セキュリティクリアランスの確認や、本国からのコントロールの有無を確認する。

これらのチェックポイントを確認した上で、「対応策がない」と諦めてはいけません。リスクを特定することと問題解決を同時に考えると身動きが取れなくなるので、まずはリスクを把握することに集中し、その上で対応策を考えていくべきです。
Q. 地政学リスクへの対応が企業にとってなぜ重要なのでしょうか?
私たちは不安定な世界で生きています。報道では戦争のニュースも多く、アジアでも戦争リスクに関する報道が今後増えていくでしょう。

しかし、ビジネスを止めないことが世界の平和につながると考えるべきです。地政学・経済安全保障は国だけの仕事ではなく、ビジネスも主体的に行動する必要があります。将来の自社の市場を担保することは自社のためでもあり、ビジネスパーソンとして世界の平和に貢献できる機会でもあります。
日本の英知を活かして次世代に誇れるビジネスを構築することが、これからのビジネスパーソンに求められています。トランプ政権関連の動向など、今後も経済安全保障に関する話題は増えていくでしょうが、常にアップデートしながら対応していくことが重要です。