PIVOT TALK BUSINESS
精子バンク:知られざる実態
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2025年7月8日

精子提供という選択肢をとる人の理由は?ドナーになる人の動機は?少子化対策になるのか?法制度が追いつかない現状や、社会的・倫理的な課題など、様々な視点から深掘り。精子提供によって生まれる「家族」の姿とは?精子提供当事者で、精子バンクを運営する伊藤ひろみ氏と議論の最前線に迫る。 <ゲスト> 伊藤ひろみ...
精子バンク、それは誰のため?多様な家族形成の新たな選択肢
少子化が進む日本で出生数が70万人を割り込んだという報道が話題になっている。子どもを持つ選択肢として、従来の結婚して夫婦間で子どもを授かるという道以外にも様々な方法があることをご存知だろうか。その一つが「精子提供」だ。今回は精子バンクを運営し、自身も精子提供により二人の子どもを持つ不妊カウンセラーの伊藤ひろみさんに、精子提供の現状と課題について聞いた。

Q. そもそも精子提供とは何ですか?
精子提供は元々、男性不妊によって子どもを授かることができない男女のカップルや夫婦のために始まった治療です。男性側に原因があり、精子に問題があって子どもが持てない場合に、第三者から精子提供を受け、医療機関で人工授精や体外受精を行うことで、その2人の実子として子どもを産み育てることができます。
Q. 精子提供を利用するのはどのような人たちですか?
元々は男女のカップルのために始まった治療ですが、利用者層は大きく変化しています。世界的には現在、男女のカップルや夫婦が占める割合は2割に満たず、半分以上がシングル女性、残り3割程度が女性カップルとなっています。もはや男女のカップルの不妊治療というよりは、シングルの女性や同性カップルが子どもを持つための選択肢として認識されるようになりました。

日本のルール上は、男女の婚姻夫婦で無精子症または性別変更している夫がいるケースしか認められていませんが、実際には海外の精子バンクなどを使って、男女のカップルが3割、それ以外はシングルや同性カップルが精子提供を受けている現状があります。世界と同様に日本でも、多様な家族形成を望む人たちは多くいます。
Q. 日本で正規の方法で精子提供を受けるにはどうすればいいですか?
日本では従来、医療機関(主に産婦人科)がドナーを集め、その医療機関の患者に使用するという仕組みでした。代表例として慶應義塾大学病院では70年以上前から行われており、主に大学の医学部学生にボランティアで提供してもらっていました。
しかし、匿名でのドナー提供という仕組みに対して、生まれた子どもの出自を知る権利を保障すべきという意見が出てきたことや、地方を中心にドナーが集まらなくなってきたことなどから、実際に精子提供を行っている医療機関は減少傾向にあります。日本産科婦人科学会に登録している17施設のうち、実際に実施しているのは10施設前後にとどまっているようです。
現在、伊藤さんが関わっているプライベートケアクリニック東京では、医療機関内に精子バンクを立ち上げ、ドナーを集めて提供された精子を凍結保管し、安全性が確保できた時点で全国の産婦人科に配送するという仕組みを作っています。これにより、ドナーは東京などの人口が多い地域で集め、地方の患者さんが東京に来なくても治療を受けられる体制を構築しているとのことです。
Q. 精子ドナーはどのような人たちで、どんな動機で提供しているのですか?
伊藤さんの運営する精子バンクに申し込んでいる方は、平均30代前半の男性で、関東圏に住む方が8割程度です。動機としては、周囲で不妊治療について聞く機会が増え、自分にできることはないかと考えた方が多いようです。また、献血や骨髄バンクの登録などと同様に社会貢献の一つとして考えている方もいます。

興味深いのは、ベンチャー精神を持った人が多く、新しいことが好きな傾向があるとのこと。自分の軸で様々なことを考え、非匿名での精子提供という新しい取り組みに賛同し、一緒に取り組もうと思ってくれた方が多いそうです。職業も自分で起業している方やスタートアップ企業に勤めている方が多いという特徴があります。
Q. ドナーの選定はどのように行われますか?
申し込んだ方全員がドナーになれるわけではなく、75%程度の方は基準を満たせず残念ながら断っているそうです。伊藤さんの運営する精子バンクでは、開始から約1年1ヶ月で220人ほどの応募があり、正式に登録しているのは45人とのことです。
選考では医学的安全性はもちろん、精子の質や感染症検査を行います。HIV等の感染症は潜伏期間があるため、最初の提供日に検査し、提供終了から3ヶ月後に再検査を行います。精子は全て凍結しておき、この3ヶ月のスクリーニング期間を経て再検査で陰性だった場合に初めて安全な精子として使用可能になります。
また、本人と家族の病歴や疾患状況の確認、公認心理士による心理面の評価も行います。将来的に子どもとの関係構築の可能性も考慮し、ドナーとしての適性を多角的に判断しているようです。
Q. 匿名と非匿名のどちらが良いのでしょうか?
従来の匿名でのドナー提供には、子どもの出自を知る権利が保障されないという大きな問題があります。また、ドナーが誰であっても極端な話では良いということになり、1人のドナーから生まれる子どもの数制限(日本では10人)が本当に守られているか検証できず、ドナーがどんな人物なのかも分からないという課題があります。

世界的には徐々に非匿名化が進んでいます。子どもの権利を守るという観点から、自分がどう生まれたかという事実を知る権利、さらにはドナーが誰なのかを知る権利があるという考え方が広がってきました。
また、近年では唾液を送るだけで人種的ルーツが分かる遺伝子検査が普及し、匿名で提供したドナーが特定されたり、精子提供の事実を親から告知されていなかった子どもが偶発的にそれを知ってしまうケースが増えています。このような状況から、匿名での提供という仕組み自体が成立しにくくなってきており、将来的には完全に非匿名化していく傾向にあります。
Q. 精子提供は少子化対策になりますか?
例えばデンマークでは、生まれる子どもの約2%が精子提供や卵子提供で誕生しているそうです。これを日本に当てはめると、年間約1万人の子どもが精子提供で生まれる可能性があるとのこと。少子化対策としても一定の効果が期待できるかもしれません。
精子提供という選択肢が広がることで、従来の家族形成だけでなく、多様な形で子どもを持ちたいと願う人々の希望を叶える道が開かれつつあります。今後の法整備や社会の理解が進むことで、より多くの人が安全に精子提供を利用できるようになることが期待されます。