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アメリカの新右翼。なぜリベラルを嫌うのか?
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2025年7月8日

トランプ政権を支える新右翼たち。なぜ今、第3世代のニューライトが勃興しているのか?その思想は第一世代、第二世代とどう違うのか?『アメリカの新右翼』の著者である井上弘貴・神戸大学教授に、代表的な新右翼の思想を読み解いてもらった。 <ゲスト> 井上弘貴|神戸大学教授 早稲田大学政治経済学術院助教、テネ...
変容するアメリカ保守 ―リベラルに対する「反逆」が多様性を生む第3のニューライト
保守とリベラルの対立は続いているが、その中身は大きく変化している。特に右派の変化が顕著で、アンチリベラルの立場から様々な右派の立場が生まれている。シリコンバレーの若い世代を感化しつつあるテック右派から宗教的価値観を重視するポストリベラル右派まで、第3のニューライトと呼ばれる新たな保守主義が台頭している。

Q. アメリカのニューライト(新右翼)とは何か?
ニューライトとは、アメリカにおけるリベラルに対するアンチの立場を取る保守思想の総称だが、その内容は時代とともに変化してきた。大きく3つの波があり、現在は第3のニューライトの時代にある。
第1のニューライトは、1930年代のニューディール(政府による公共投資と再分配)に対する批判から生まれた。「なぜ政府が税金を取って人々にお金をばらまくのか」という批判が出発点となり、戦後に確立された。
第2のニューライトは、1950年代後半から60年代にかけての公民権運動の時代に登場した。経済的平等だけでなく、人種やジェンダー、セクシュアリティの平等を求める動きに対抗する形で、キリスト教的価値観を重視する社会保守や反エリート主義が台頭した。
第3のニューライトは2010年代以降、特にトランプ大統領の登場によって台頭した。第1のニューライトが排除していた孤立主義や陰謀論的な要素が表面化し、SNSの普及によってタブーとされていた極右の考え方がカジュアルな形で広がった。
Q. 第3のニューライトには、どのような立場があるのか?
第3のニューライトには様々な立場がある。主なものとして:

オルトライト:「オルタナティブ・ライト」の略で、白人ナショナリズムを掲げる立場。リチャード・スペンサーが代表的人物だが、現在は歴史的役割を終えたとされる。ただし、その思想はすでに広く浸透している。
ポストリベラル右派:リベラリズムは過去のものだとし、キリスト教的価値観に基づいて国を作り直すべきだと主張する。パトリック・デニーが代表的人物で、個人主義の行き過ぎを批判し、共同体や家族の価値を重視する。
ナトコン(国民保守主義):国民国家(ネーション・ステート)の単位こそが人々の生活に重要だと考え、グローバリズムに反対する。イスラエルのシオニストであるヨラム・ハゾニーが代表的人物。
リフォーミコン:経済的なアメリカの改革を求め、小さな政府を批判し、保護主義的な政策を支持する。関税政策に肯定的で、製造業の復活を重視する。
テック右派:シリコンバレーを拠点とする技術志向の右派。元々シリコンバレーの人々は民主党支持者が多かったが、暗号通貨やAIに対する規制が強まるにつれ、共和党に接近した。ピーター・ティール、イーロン・マスク、マーク・アンドリーセンが代表的人物。
Q. テック右派の思想的特徴は何か?
テック右派の代表的人物であるピーター・ティールは、「0から1を生み出す」創造性を重視している。この考えは彼のキリスト教的価値観と結びついており、無から有を生み出す創造は神の業に通じるという見方をしている。

イーロン・マスクは思想が分かりにくい面があるが、人類の絶滅を防ぐ必要があるという長期主義の思想を持ち、政府の効率化を強く求める。また、SDGsやダイバーシティに批判的で、反フェミニズムの立場をとる点で極右的な価値観も持つ。
マーク・アンドリーセンは「テクノオプティミスト宣言」を発表し、技術の進歩が社会問題を解決するという加速主義的な立場をとる。
彼らに共通するのは、より大きなビジョンを描き、若い世代に影響を与えようとしている点だ。シリコンバレー自体が一種の思想となり、テクノロジーが社会を変革するという確信を深めている。
Q. トランプとニューライトの関係は?
トランプは第3のニューライトの様々な立場を包摂し、それらの間で調整役を果たしている。彼自身は「王様のようにゆったり構えて」様々な意見を聞き、その時々で採用する政策を決めている。
JDバンス(トランプの副大統領候補)は、テック右派(ピーター・ティールの下で働いていた)とポストリベラル右派(カトリックに回心した)、そしてリフォーミコンの立場を総合的に受け継いでいる政治家だ。
かつての保守主流派であったネオコン(2000年代のブッシュ政権下で力を持った集団)は、現在では完全に少数派の立場に追いやられている。
Q. なぜ保守派は多様な立場が生まれやすいのか?
リベラルは考え方がカチッとしているのに対し、右派はリベラルに対するアンチの立場を取る中で、そのアンチの取り方によって様々な立場が生まれる。これは良くも悪くも「多様性」につながっている。
例えば、リベラリズムによる様々な権利拡大の中で、宗教的価値観の喪失を懸念する人々、エリート主義に反発する人々、政府の経済介入を批判する人々など、様々な反応が生まれた。
また、保守の中での「主流」と「傍流」の交代劇が起きている。かつて傍流だった孤立主義や陰謀論的な要素が、トランプの登場によって「我々こそが主流だ」という形で台頭してきた。
Q. 第3のニューライトは持続性のある思想になるのか?
第3のニューライトは長く続くと予想されるが、それが統一した思想として確立されるかは不明だ。むしろ「思想」というより「運動」に近く、アカデミズムの世界では分析しにくい性質を持つ。
論理が破綻している部分もあり、リベラリズムのように論理的にしっかりしたものではなく、アンチの立場からのゲリラ戦のような性格を持つ。
ただし、これはアメリカが大きな変革の時代にあることの表れでもあり、思想が大衆化した現象とも言える。かつてのような南北戦争の時代やニューディールの時代のように、アメリカが大きく揺れ動いている時期だと考えられる。
Q. 日本への示唆はあるか?
日本とアメリカは土壌が異なるが、アメリカの影響は世界に直接入ってきている。日本においても、ジェンダーやセクシュアリティの問題、外国人の受け入れなどをめぐって、アメリカに似たような対立の図式が強まる可能性がある。

日本のリベラリズムには、しっかりとした思想的土台を作る必要がある。戦後民主主義、明治の啓蒙思想、あるいはそれ以前のどの時代に根ざすのかといった議論も含め、日本の歴史の厚みを活かした論争があってもよい。
福沢諭吉のような古典的自由主義に繋がる思想家から、丸山眞男のような戦後の啓蒙思想家まで、様々な源流がある。日本でも保守とリベラル、どちらの立場であれ、思想的にしっかり考えることが必要だ。