PIVOT TALK BUSINESS
いつの時代も変わらない人間の幸せとは
(932)
1.8万回視聴
2025年7月3日

スマホが普及して早10年以上。我々にとってスマホは欠かせない。 だが、私たちは、たとえば動画視聴しながらSNSを見て、連絡も返しながら、ECサイトで買い物をする・・・など、当たり前に膨大なマルチタスクをこなしている。 このスマホ時代の生きづらさもある中で、どう幸せに生きられるかのヒントを哲学者の谷川...
スマホ時代の孤独と向き合い方とは? 哲学者・谷川嘉浩に聞く「スマホ時代の哲学」Q&A
私たちはスマホ画面に夢中になる一方で、本当の意味での「孤独」の時間を失っているのかもしれない。哲学者の谷川嘉浩氏に、現代人の生きづらさとスマホ社会での自分との向き合い方について話を聞いた。

Q. ダラダラする時間の価値とは?
ダラダラしている時間は実は孤独な時間であり、それは悪い意味ではなく自分なりに悩みを反芻する貴重な機会だと思う。中学生頃までガラケーすら持っていなかった時代を思い返すと、「何もしていない時間」がたくさんあった。友達と公園で座って話したり、一人で街をうろうろしたりしていた。
そういう時間は単に「孤独」としか言いようがなかったが、当時の悩みを自分なりに反芻する機会になっていた。不器用だったかもしれないが、そのような時間を過ごせたことは実はとても良いことだったと思う。だからこそ、もっと皆がスマホなしでダラダラする時間を持つべきだと考える。
Q. スマホが集中力に与える影響は?
スマホを使う時、私たちは小さな画面の上で忙しく指を滑らせ、複数の画面を行き来している。この落ち着きのない激しい目や注意の動かし方は、集中力を失わせる訓練のようなものだ。
できるだけ私たちは自分の注意をだらだらと一つのことや漠然と何か一つの対象を見ることに向けるべきだ。信号待ちでもスマホを見てしまうのは、集中力を奪う訓練をしているようなもの。食事中にテレビをつけてスマホを見て、さらに誰かと会話もするというマルチタスキングが日常化している。
Q. 集中力の低下が人間関係に与える影響とは?
研究によると、自分自身の身体的な痛みを理解することは簡単だが、心の痛みはこの体の痛みから応用して理解している。他人の体や心の痛みも同様に、自分の体や心の痛みの推測を応用して理解している。
つまり、身体的な痛みや自分の痛みから遠ざかるほど、他者を理解するのに時間がかかるということだ。集中力を失った先に待っているのは、自分のことも他人のことも分からなくなるという事態で、これは単に落ち着きがないというだけでなく、人間関係の根幹に関わる問題だ。
Q. SNS上での感情理解の難しさについて
SNSのプラットフォームは、短時間で「これはこういうこと」と分かりやすく伝えるように設計されている。しかし人の感情は単純ではない。例えば結婚は社会的に喜ばしいこととされているが、様々な変化や調整が必要で、心が動揺することもある。喜びと不安、時には怒りのような複雑な感情の混合が生じる。
昇進も同様で、責任が増えたり労働時間が長くなったりする不安もある。「嬉しいけど悲しい、でも怒っている」というような感情の複合体が見えづらくなっているのは本当に恐ろしいことだ。孤独の時間は、そうした感情を複雑にする助けになる。
Q. 孤独の時間が持つ意味とは?
孤独の時間の役割の一つは、自分の人生や他人の人生の陰影と付き合うことだと思う。就活や転職の面接では自分のことを短く切り詰めて「私はこういう経歴の人間です」と単純に語るが、現実はもっと複雑だ。

例えば「実は別の会社も受けていた」とか「最初はこの業界に興味がなかった」といった複雑さは語られない。孤独の時間は、そうした陰影を見えるようにし、それと付き合う役割を果たす。もっと皆が一人でいることを大事にするべきだ。
Q. 取り残される恐怖(FOMO)について
現代はサブスクリプションのおかげでコンテンツの共有が難しくなっている。みんなが見ているコンテンツについていくために、朝ドラ、Netflixの話題作、U-NEXTの独占配信など、様々なものがある。
共有できるものがなくなり、私たちは何をしているかというと、SNSのトレンドを見て「芸能人の不倫」や「企業の不祥事」といった話題を追いかけ、翌日それを話す生活をしている。取り残されるのが怖いからゴシップや切り抜き動画で埋めているが、本当にそれが必要なのだろうか。
Q. 子どもたちにも広がる同調圧力について
小学校3年生くらいの子どもたちに「お友達ロボットと何をしたいか」と聞いたところ、「ポケモンカードで遊びたい」と答えた子が複数いた。理由を尋ねると「学校の友達とはポケモンカードができないから」と言っていた。
つまり、友達と話すときはみんなについていくための別の話題があり、自分の趣味はそれとは切り離してやっているということだ。小学生も必死にみんなの話題に追いつこうとしているという傾向がある。これは私たち大人も同じかもしれない。
Q. 現代人の生きづらさと対処法について
現代人が生きづらく、しんどい時にやることは2つある。1つはスマホを見て漠然としただるさに浸ること。つまり何かに集中するのがしんどいからショート動画などを見て、ネットの海に意識を溶かすような行動だ。もう1つは自己啓発本でテンションを上げること。

しかし、「自分のやりたいこと」として語られているものは、社会で言われている「やりたいことっぽいこと」にすぎないことが多い。人間は周りの人がやっていることに惹かれやすいから、「みんながやっているんだよ」と言われると、それが自分のやりたいことだと錯覚してしまう。
Q. 悩み方について哲学的アプローチとは?
悩み事の大半は今ある手札では解決できないから悩んでいる。自分の頭だけで考えても限界があるので、他人の考えを取り入れて悩むことが必要だ。
私の実践としては、信頼できる人に適当に将来を決めつけてもらい、その言葉を後で反芻する。「なぜあの人にはそう見えるのだろう」と考えることが悩みのとっかかりになる。
また、文学を読むことも良い方法だ。文学は主人公が完全に善人でも悪人でもなく、明確な結末がないことも多い。私たちの人生と似ていて、物語の複雑さを表現している。そこには自分が持っていない考え方も書かれているので、手札を増やすことができる。
Q. 哲学するとはどういうことか?
哲学とは確信、つまり「これが絶対に正しい」ということからできるだけ距離を取ることだと思う。納得しないことが哲学する上では大事で、確信を持っているなら哲学は今その人に必要ない。
ゾンビ映画で言えば、モブキャラは確信を持って「こうするべきだ」「お前たちは間違っている」と主張する。一方、主人公は不安を抱いたり決断に迷いを見せたりする。哲学するというのは、自分の納得していることにも疑問を持つことだ。
もちろん納得するまで考えることは大事だが、その考えがずっと正しいかは分からない。子どもの頃に「ケーキ屋さんになりたい」と思っても、それはその時考えた最善であって、実際には作ることが好きなのか、食べることが好きなのか、誰かに食べてもらうことが好きなのかは経験してみないと分からない。
Q. AI時代の孤独と向き合い方について
AIとの付き合いは難しい問題だ。AIを使って対話する時、プロンプトが必要になるが、これは私たちの手札に左右される。つまり、自分の中にないものをAIから本当にもらえているかは、自分がどれだけ複雑な手札を求められるかにかかっている。

技術的に今後プロンプトがいらなくなったり、私たちの特性を見越して必要なことを提案してくれるようになるかもしれないが、現時点ではそうではない。だから私たちはAIだけでなく、普通に勉強したり、様々な物語に接することで手札を増やすべきだ。
Q. 人間の変わらない幸せとは?
自分の世界の中に新たなものが付け加わっていくことが、結局人間の喜びだと思う。人間は「ないものねだり」で、欲しかったものを手に入れても、すぐに興味がなくなることがある。
輝かしいキャリアを歩んでいても「あの時逆の方向を選んでいたら」と考えるし、その逆もある。そういう時に私たちにできるのは、今この時点で何か新しい学びを得ることだけだ。
今の自分の頭だけで考えないということがその都度できれば、新しい見方ができるようになる。自分のペースで世界の見方をちょっとずつ広げていくことが、幸せになる上では必要なのではないだろうか。