マーケティング新常識
【クリエイター新時代】ドン・キホーテ情熱価格リブランディングの舞台裏
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2025年6月16日

広告・マーケティングに携わる人たちが、すぐに使える学びを提供する番組「マーケティング新常識」。 「クリエイター新時代」をテーマに、博報堂クリエイティブディレクターであり、2024年クリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞した宮永充晃氏に聞いた。 <ゲスト> 宮永充晃 博報堂 クリエイティブディレクター...
クリエイターの新時代とは?ドンキホーテのリブランディングから読み解く「実行責任」の重要性
博報堂クリエイティブディレクターの宮永充晃氏が2024年クリエイターオブザイヤーを受賞し、クリエイターの定義が変わったと話題になっています。従来のクリエイターは、CMやポスターなどの制作を主としていましたが、現代においては単なる表現だけでなく、ブランドコンセプトの実行責任まで担うことが重要になっているようです。宮永氏がリードしたドンキホーテのリブランディングプロジェクトから、新時代のクリエイターの在り方を探ります。

Q. クリエイターオブザイヤーを受賞されて、どのような感想をお持ちですか?
素直に嬉しいです。ただ、広告会社の仕事はチームで行うものなので、一緒に働いたチームメンバーや、機会をくださったクライアントの皆さん、そして広告という文化を紡いできた先輩方に感謝しています。
このクリエイターオブザイヤーという賞は今年で36年目になりますが、これまで32回は電通が獲得していました。博報堂が取ったことで社内的には「おお!」という反応があり、クライアントの方々も含めて「良かったね」という声をいただいています。
Q. クリエイターの定義が変わったと言われていますが、それはどういう意味でしょうか?
広告業界のクリエイティブディレクターは従来、CMやコピー、デザインを通じて、ブランドの世界観や価値を生活者に伝えることを主な仕事としてきました。しかし近年、メディアやコンテンツが増え、CMだけでブランドを体験する時代ではなくなっています。
また以前は、クリエイティブディレクターが作るコンセプトボードで「この世界観なら新商品やサービスが行けるかもしれない」と判断されることが多かったのですが、今はテストマーケティングやPOC(概念実証)で検証できるようになっています。サービス開発も容易になり、小学生でも簡単にアプリを作れる時代です。
そうした中で、クリエイティブの力はコンセプトを作るだけでなく、それを社内に浸透させ、組織全体がコンセプトに沿って動けるようにすることにも活かすべきだと考えています。
Q. ブランドの捉え方についてはどのようにお考えですか?
ブランドの語源は「バーンド」という牛の焼印です。私はブランドとは単に焼印(シール)のデザインをかっこよくすることではなく、牛の品質そのものが大事だと考えています。その品質を育てるためには、牧場の環境や運動方法、そこで働く人々のモチベーションなど、全てが関わっています。

つまりブランドとは、シール(表現)の側の話だけではなく、そこで働く社員全員のモチベーション設計を含めたものです。クリエイティブディレクターがやるべき役割は、ブランドコンセプトを作るだけでなく、それによって社員のモチベーションがアップしているか、そのためにどういう会議体設計をすべきか、どのような書類で議論すべきかというところまで見ていくべきだと思います。
Q. なぜそういった役割が重要になってきているのでしょうか?
メディアやサービス、商品を売る場所など、あらゆるものが多様化しています。その結果、チームも細分化されていますが、日本の労働人口は減少しているため、少ないメンバーで多くの業務を回さなければならず、指令系統が複雑になっていきます。
そのため、組織内部にブランドコンセプトを浸透させ、チームとしての結束力を高めることが重要です。ブランドコンセプトを中心に据えることは昔も今も変わりませんが、昔のままのやり方では結束力は高まらなくなっています。複雑な組織になっているからこそ、その実行責任まで背負うべきだと考えています。
Q. ドンキホーテのリブランディングではどのような取り組みをされたのですか?
ドンキホーテには元々プライベートブランドとして「情熱価格」がありましたが、それを大きく成長させるために、ブランドのあり方を再定義しました。まず「情熱価格」ブランドから出る商品がどういうものであるべきかのルールを決め、そのルールを実行するための体制作りまで一緒に取り組みました。
最初に重要だったのは、ドンキホーテというブランドがPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の方々にとって、またお客様にとってどういうものなのかをヒアリングすることでした。その結果、「驚きのニュースの発見」というコンセプトに行き着きました。

ドンキホーテは店舗ごとに品揃えや価格が異なります。これは店長や従業員が売れ行きを見ながら、その土地に最適な店舗を作るという「権限委譲」と、お客様に最も都合のいい店舗を作るという「顧客最優先主義」によるものです。世の中にあるメーカーの商品は同じでも、その土地のお客様に対してどういう商品をどういう価格で置くべきかはオーダーメイドでなければならないという考え方があります。
こうした「顧客最優先主義」「権限委譲」、そして「CVD+A」(コンビニエンス、バリュー、ディスカウント、アミューズメント)という3つの要素がドンキホーテのDNAとしてあります。
Q. リブランディングの結果、どのような変化がありましたか?
新しいロゴは「ど」という文字が特徴的で、多くの文字が入った楽しいテンションのデザインになっています。これは「ニュースモンゴン」と呼んでいるもので、ドンキホーテのポップのように情報がたくさん書かれています。
また、ドンキホーテのプライベートブランドは「ピープルブランド」と呼ばれるようになりました。これは企業の所有物という意味の「プライベートブランド」ではなく、お客様のためのブランドであることを宣言したものです。
具体的な取り組みとして「ダメ出しの殿堂」と「マジボイス」というシステムを導入しました。お客様の意見を参考にして商品を改良し、その改良したものを発売するというプロセスを公開しています。実際の会議の様子も記事として公開し、何をどう改良するかを示しています。
また「マジボイス」では「いい」「微妙」というボタンで商品を評価できるようにしています。「微妙」という言葉を選んだのは、日本人は「悪い」と言いづらいためです。評価が高い商品は「マジ価格」として安く提供するという、顧客主義に基づいた取り組みも行っています。
Q. 広告代理店から参画する際に難しさはありませんでしたか?
もちろん最初は拒否反応がありました。ドンキホーテは元々大手広告代理店と付き合わないという方針があり、自発的なパワーで成長してきた会社です。そのため、私たちが参画する意義は常に問われていました。
ただ、ブランドを作る責務を負ったものとして、どれだけ熱量を持って真剣に向き合えるか、細かい部分まで一緒にやる姿勢が大切でした。単にコンセプトやデザインだけを作って「どうぞ」というだけでは、良い関係は築けなかったでしょう。クライアントの方々と一緒に並走し、実行段階までコミットしたことが成功の要因だと思います。
Q. 今後のクリエイティブディレクターの役割についてどう考えていますか?
私が重要視しているのは「後進育成」です。ただし、1人や2人を育てるというよりも、クリエイティブディレクターという職業の印象や可能性の幅を広げることが大切だと考えています。

今の若い世代が「宮永のやり方はもう古い」と思えるくらい、クリエイティブディレクターの役割の幅を広げておけば、次の世代はさらにその幅を広げてくれるでしょう。まだ見ぬ後輩たちの選択肢のベースを広げることが、本当の意味での後進育成ではないかと思っています。