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大統領選挙で読み解く韓国社会
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2025年6月7日

韓国の大統領に4日、共に民主党の李在明氏が就任した。各候補はどのような主張をしていたのか? 戒厳令はなぜ発令されたのか? なぜ分断がおきているのか? これからの韓国社会について、東京外国語大学大学院の藤井豪准教授に話を聞いた。 <ゲスト> 藤井 豪|東京外国語大学大学院 准教授 韓国に約20年間在...
韓国大統領選から見る社会の変化〜「非常戒厳令」で可視化された民主主義
韓国の大統領選挙が行われ、与党・共に民主党のイ・ジェミョン候補が49.42%の得票率で当選した。しかしこの選挙は単なる指導者交代ではなく、ユン・ソンニョル大統領による「非常戒厳令」という異例の措置とその後の弾劾という文脈の中で行われた。

なぜ韓国社会はこの選挙で民主主義を選び取ったのか。長年韓国に住み、その政治と社会を見続けてきた東京外国語大学大学院准教授の藤井豪氏に聞いた。
Q. 韓国大統領選挙の結果をどう読み解くべきでしょうか?
選挙で当選した人物だけを見るのではなく、その人物に政治を任せようとした韓国の有権者たち、そして韓国社会全体を見ていくことが重要です。イ・ジェミョン候補が獲得した49%という得票率は、民主化以降の歴代記録で2位、得票数では最高を記録しました。これは非常戒厳令から弾劾へという流れに対する審判という側面が大きいでしょう。
Q. 3位のイ・ジュンソク候補(8.34%)の支持層はどのような人たちでしょうか?
出口調査によると、20代以下の男性の37.2%がこの候補に投票しており、20代男性に限ると1位です。前回の大統領選挙でも、20代男性の約6割がユン・ソンニョル候補に投票しており、若い男性のエリート層への反発が見られます。

イ・ジュンソク候補は徴兵制に対する不満やフェミニズム批判を通じて若い男性層に訴えかけました。彼らの不満は「本来自分たちが得られるはずだった権利が女性に奪われている」という認識にあります。
Q. 若い男性層の反フェミニズム傾向の背景には何がありますか?
韓国では徴兵制があり、多くの男性は軍隊での厳しい経験を持っています。そうした経験のない女性が権利を主張することに対して反発が生じるという構図があります。イ・ジュンソク候補はこうした若者の不満を利用しようとしましたが、公開討論会で性差別的発言をして批判を浴び、結果として8.34%の得票率にとどまりました。ただ、20代男性の抱える不満や社会的分断は韓国社会の課題として残されています。
Q. 最下位の権英国候補(0.98%)はどのような人物ですか?
彼は元々労働運動家で、貧しい家庭出身ながら勉強してソウル大学工学部に入り、エンジニアとして働いていました。同僚の労働災害がきっかけで労働運動を始め、後に弁護士になりました。彼は労働者の権利問題や包括的差別禁止法の制定などを訴えました。興味深いのは、投票終了後に彼への寄付金が殺到したことです。これは「本当はあなたに投票したかったが、イ・ジェミョン候補を当選させるために戦略的に投票した」という有権者の気持ちを表しています。0.98%という数字は小さくても、韓国社会の変革への願望を示しています。
Q. 2位の金文洙候補(41.15%)は、ユン大統領の非常戒厳令を支持する人たちの票なのでしょうか?
必ずしもそうではありません。韓国の有権者にはバランス感覚を重視する人も多く、「イ・ジェミョン候補が大統領になると行政府と立法府の両方が共に民主党の支配下になるので、牽制のために投票した」という人もいます。この41%には様々な動機の人が含まれています。

また、金文洙候補を擁立した国民の力党内では、大きな混乱がありました。党内予備選で金文洙氏が選ばれたにも関わらず、党指導部は深夜に突然候補を変更しようとする非民主的な動きを見せました。これはユン大統領派による党内権力闘争の一環だったと見られ、選挙に勝つよりも党の主導権を握ることを優先した動きでした。
Q. 非常戒厳令とはどのようなものだったのでしょうか?
夜中に発令され朝には解除されたため「何もなかった」と思われがちですが、実際には極めて深刻な内容でした。国会と地方議会、政党の活動、政治的集会を禁じるという、過去の戒厳令でも見られなかった強硬な措置が含まれていました。

これは明らかに国会解散を意図するもので、憲法違反でした。大統領には非常戒厳令を発令する権限がありますが、国会の同意が必要です。その国会を解散させようとしたことは、独裁への志向を示しています。
Q. なぜこのような事態に至ったのでしょうか?
ユン・ソンニョル大統領と国民の力党には、対話を通じて問題を解決するという姿勢が欠けていました。国会で野党が多数を占めているのは有権者が選んだ結果ですが、それを謙虚に受け止めて協力するのではなく、「邪魔をする」と見なして強権的に排除しようとしました。また、大統領自身の不正に関する証拠が明るみに出そうになったタイミングで戒厳令が発令されたことから、自身の不正を隠すための動きだったという見方もあります。
Q. 非常戒厳令がなぜ短時間で解除されたのでしょうか?
市民と国会議員の迅速な行動が大きな役割を果たしました。野党議員を中心に多くの人が国会に集まり、市民も国会前に駆けつけました。さらに、動員された軍人の中にも命令に従わなかった人たちがいました。
韓国では軍人の人権を守る運動が市民レベルで行われており、軍人にも人権があるという意識が広がっています。また、過去の歴史教育を通じて「軍が国民に銃を向けることがあってはならない」という認識が共有されています。これにより、不当な命令だと判断した兵士たちが積極的に従わなかったのです。
Q. 韓国社会ではどのように市民運動が展開されたのでしょうか?
ユン大統領弾劾に向けた大規模な集会では、K-POPのアイドル文化と市民運動が融合する現象が見られました。集会ではペンライトを掲げ、少女時代のデビュー曲「出会い直した世界」が歌われるなど、お祭りのような雰囲気も生まれました。アイドルたちも政治意識を持ち、IUや少女時代のメンバーがデモ参加者にコーヒーを差し入れるなど支援しました。

このように韓国では、暴力的に対話を断ち切るのではなく、みんなで話し合うことの大切さという文化が育まれています。社会の分断がある中でも、苦しみを共有し、何をどう変えていくべきかを話し合う民主主義の実践が行われています。
Q. 今後の共に民主党政権の課題は何でしょうか?
イ・ジェミョン氏は行政手腕に優れた人物ですが、そうした人は効率性を優先して民主的プロセスを軽視しがちです。党内での議論をどのように活性化させ、政府をいかに牽制していくかが課題となるでしょう。選挙戦では攻撃にさらされ守りの姿勢だったため、今後どのような積極的ビジョンを打ち出すかは見守る必要があります。
Q. 日韓関係はどうなるでしょうか?
日本のメディアではよく「これで日韓関係はどうなるか」という視点で報じられますが、それ自体が問題です。例えば、徴用工問題や慰安婦問題は日韓の対立として捉えるべきではなく、戦時下における強制労働や性暴力という人類的課題として考えるべきです。
韓国側の批判は「日本一般」ではなく、具体的に植民地支配を決定した権力者に向けられています。ドイツのホロコーストを批判することが「反ドイツ」と見なされないように、これも「反日」ではありません。むしろ、こうした問題の解決は日本社会の労働者の権利を守ることにもつながります。
日本人が「日本バッシング」を恐れるのは、日本の歴史教育の不十分さも一因かもしれません。植民地支配がどのようなシステムで誰によって進められたかを正確に学んでいれば、それを自分と同一視することはないはずです。
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冒頭でも述べたように、リーダーと国民を同一視して語ることはできません。韓国の今回の選挙結果はそれを示しています。市民の民主主義への意識の高さが、韓国社会の強さと言えるでしょう。