PIVOT TALK BUSINESS
資本主義は成功するから滅びる、少子化の進行は必然なのか?
(250)
1.0万回視聴
2025年5月23日

「失われた30年」、止まらぬ少子化――課題山積の日本経済。80年前に少子化を予見し、イノベーションを説いた経済学者シュンペーターの理論に、再生のヒントはあるのか? 「イノベーションの父」の本質を、評論家・中野剛志氏に聞いた。 <ゲスト> 中野剛志|評論家 1971年神奈川県生まれ。東京大学教養学部...
シュンペーターが予言した「資本主義の滅亡」と日本の失われた30年の真相
資本主義が成功するからこそ滅びるという一見矛盾した理論を唱えた経済学者シュンペーター。彼が残した思想は、日本の「失われた30年」の謎を解く鍵かもしれない。イノベーションの本質と資本主義の未来について、評論家の中野剛志氏に聞いた。

Q. シュンペーターとはどのような人物ですか?
シュンペーターは20世紀最大の経済学者の一人とされ、ジョン・メイナード・ケインズと並ぶ存在です。ビジネスパーソンの間では「イノベーションの理論家」として特に人気があり、「創造的破壊」という概念で知られています。
彼の思想は企業がどうイノベーションを起こすかという狭い範囲にとどまらず、資本主義とは何か、社会はどう変化するのかという壮大な視点を持っています。経済学だけでなく、社会学や政治学も含めた学際的なアプローチが特徴です。
実はシュンペーターは日本との関わりも深く、戦前にはドイツのボン大学やハーバード大学で日本人経済学者が彼から学んでいました。シュンペーターも日本を大変気に入っていたようで、彼の遺品や手紙などは一橋大学に寄贈されています。
Q. なぜ今シュンペーターが注目されているのですか?
一つには、日本の「失われた30年」という長期停滞との関連があります。日本はバブル崩壊後、構造改革の名の下に市場原理主義的な政策を採用しました。小さな政府、規制緩和、自由化、民営化などを進め、競争を促進することでイノベーションが起きると考えられていました。
しかし皮肉なことに、シュンペーターの理論によれば、このような政策はイノベーションを阻害するものでした。さらに日本の構造改革は「創造的破壊」と称されていましたが、これはシュンペーターが意図した意味とは正反対のものだったのです。

日本は戦後の高度経済成長期には、実はシュンペーターの理論に沿った経済システムを持っていました。ところが平成以降、彼が「やってはいけない」と警告したことをやり続けた結果、長期停滞に陥ったと考えられるのです。
もう一つの理由は、世界的に資本主義の行き詰まりが感じられるようになったことです。リーマンショック以降、資本主義の根本から見直そうという動きが広がり、マルクスと並んでシュンペーターの資本主義論が再評価されています。
Q. シュンペーターの「資本主義は成功するから滅びる」という理論とは?
シュンペーターは、資本主義が普及すると人々の思考が合理主義的になると説明しています。この合理主義が行き渡ることで資本主義は成功するのですが、同時に致命的な問題も生じます。
一つは少子化です。合理的に考えれば、結婚して子どもを作り育てることは経済的に非合理です。資本主義が成熟するにつれて人々が合理的思考を身につけると、子どもの数が減っていくのです。
なぜこれが問題かというと、子どもや家族の存在は人間の時間的視野を拡大するからです。子孫がいれば、自分の寿命を超えた将来のことを考える動機が生まれます。これを「家族動機」(ファミリーモーティブ)と呼びます。

資本主義の発展には長期的な投資が不可欠です。例えば、東レは数十年もの赤字を覚悟して炭素繊維の開発に取り組みました。こうした長期的視野に立った投資は、「家族動機」があるからこそ可能なのです。
しかし資本主義が成功して合理主義が広がると、「家族動機」が衰退し、人々の視野は短期化します。自分の生きている間だけを考え、長期的な投資やイノベーションへの意欲が失われていくのです。こうして資本主義は成功した結果、自らの足元を掘り崩し、滅びに向かうとシュンペーターは予言しました。
Q. 「家族動機」は日本企業にどのように存在していたのですか?
かつての日本的経営では、会社が家族のような共同体として機能していました。終身雇用の下で、社員は会社への帰属意識が強く、自分が退職した後の会社の将来まで気にかけていました。
若い社員は「自分はこの会社にあと40〜50年いるかもしれない」という前提で、長期的な視点からスキルを磨き、先輩から学ぼうとしていました。短期的には負担が大きくても、長い目で見れば報われるという考え方です。
このように、日本企業では「家族動機」が会社という形で存在し、長期的な視野を持った経営が可能でした。それが日本の高度経済成長と技術革新を支えていたのです。
しかし市場原理主義的な構造改革の中で、終身雇用や日本的経営は「古い」「非効率」と批判され、解体されていきました。その結果、企業も個人も短期的な利益を追求するようになり、長期的なイノベーションが生まれにくくなったのです。
Q. 現在の状況はシュンペーターの理論からどう見えますか?
シュンペーターの予言した状態に近づいていると考えられます。特にリーマンショック以降、世界各国で産業政策が復活し、政府が主導して産業育成や技術開発に取り組む動きが広がっています。
中国が国家資金で半導体産業を育成したり、各国が脱炭素のための長期政策を打ち出したりするのは、民間企業だけでは長期的な投資ができなくなっているからです。政府は国家として存続する限り未来を考えざるを得ないため、長期的視野を持った政策を実行できます。

シュンペーターは資本主義が滅びた後、社会主義的な体制に移行すると予測しました。現在の産業政策の復活はその兆候かもしれません。ただし、最近では「ソーシャルインパクト投資」など、短期的な利益だけでなく社会的・環境的な長期的価値を重視する動きも出てきています。
Q. イノベーションを起こすために必要な条件は何ですか?
シュンペーターによれば、イノベーションは個人の起業家によってではなく、大企業の組織によって起こされるようになります。特に複数の大企業が競争している状態が最もイノベーションが起きやすいと言えます。
また、イノベーションには経済合理性だけでなく、「非合理的」な動機も必要です。自分の寿命を超えた未来のことを考え、短期的には赤字でも長期的な価値のために投資する精神が重要なのです。

今後のイノベーションのためには、人間の時間的視野をどう拡大するか、自分の死後に成果が出るようなことにどう取り組むかを考える必要があります。これがシュンペーター理論の核心であり、現代に通じる重要なメッセージなのです。