教育新常識
遺伝に勝つ親の行動4選
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2025年5月14日

子育て・教育の新常識を一流講師から学ぶ。行動遺伝学の第一人者・安藤寿康氏に、遺伝に勝つために親ができること4つのポイントを聞いた。 <ゲスト> 安藤寿康|教育学博士 慶應義塾大学名誉教授 専門:行動遺伝学、教育心理学、進化教育学 1958年 東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会...
教育は遺伝に勝てるのか?親ができることは思ったより少ない
子育ての悩みは尽きないものだ。「子どもの性格をより良い方向に導きたい」「自己肯定感を高めてあげたい」という親心から様々な教育法を試すものの、思うような結果が得られないことも多い。
そもそも子どもの性格や能力はどこまで親の教育で変えられるのだろうか?遺伝と環境の影響はどれくらいなのか?親としてできることは何なのか?
行動遺伝学を専門とする安藤寿康教授(教育学博士・慶應義塾大学名誉教授)の解説を交えながら、親ができることの真実に迫ってみよう。

Q: 子どもの性格形成には家庭環境がどのくらい影響するの?
答え:ほとんど影響しない
これは意外かもしれないが、行動遺伝学の研究によると、子どもの性格形成に家庭環境(共有環境)はほとんど影響しないことがわかっている。
性格とは、例えば外向的であることや神経質であることなど、「元々の持ち味」的なものを指す。これは学校の勉強のように意図的に学習できるものではなく、生まれながらの傾向が強い。
性格は主に「遺伝」と「非共有環境」の影響を受ける。非共有環境とは、一人ひとりに固有の、そして状況によって変わる環境のことだ。例えば同じ性格傾向の人でも、場面によって態度が変わることがある。普段はのんびりしていても、緊張する場面では神経質になるといった変化だ。
この場合、遺伝子がセットポイント(基本値)を決め、非共有環境によって一時的に変動するというモデルで説明できる。状況が変われば、また元のセットポイントに戻る傾向がある。
Q: じゃあ自己肯定感を高めようと声かけしたり愛情表現をする意味はない?
そういうわけではない。子どもを根本から肯定することは大切だ。
自己肯定感を高めるには、単に「あなたは素晴らしい」と口先だけで言うのではなく、親自身が子どもの行動や存在を心から受け入れることが重要になる。

子どもが失敗したり、親の価値観とは異なる選択をしたりしても、その背後にある肯定できる部分を見つけられるかどうかが鍵となる。そしてそれは、親自身がどのように生きてきたかに関わってくる。
親自身が自分を否定的に見ている場合、子どもの良さを見つけることも難しくなる可能性がある。つまり、子どもの自己肯定感を高めるには、まず親自身が自分を肯定することから始める必要があるのだ。
Q: 親の教育は子どもの学力に影響するの?
影響はするが、思ったより小さい。
行動遺伝学では、遺伝の影響と環境の影響を区別して測定することができる。例えば「読み聞かせをすると子どもの頭が良くなる」という一般的な見解があるが、そもそも親自身が本好きで知的好奇心が高いため読み聞かせをしていて、その傾向が遺伝子としても子どもに伝わっている可能性がある。
研究によると、遺伝の影響をコントロールしても、家庭環境として影響するものが2つある:
1. 読み聞かせ:遺伝的な素質の有無に関わらず、環境だけの影響として子どもの学力に影響を及ぼす。ただし影響力は約4%程度。
2. 整理整頓された家庭環境:散らかっていない、システマティックで混乱していない環境を与えることも学力に影響する。
また「勉強しなさい」と言うことについても、因果関係が逆転していることが多い。成績が良い子は親から「勉強しなさい」と言われないことが多く、勉強をしない子に対して親が言うことが多いのだ。
Q: 子どもの才能を伸ばすにはどうしたらいいの?
子どもが関心を持ったことを大切にするべきだ。
子どもが何かに興味を示したら、それを支援することが重要。ただし、あらゆる習い事をさせるというよりも、子どもが少しでも興味を示したものに取り組ませるアプローチが効果的だ。
子どもの興味が一見些細なものに見えても、それが将来思いもよらない分野に繋がることがある。子ども時代の「好き」を大事にすることで、その子本来の才能が開花する道が開けるかもしれない。

また、ある程度のしつけも必要だ。勉強の時間や基本的なルールを決めたら、それを守らせることも大切。これは子どもに規則正しい習慣をつけるためにも重要になる。
そして忘れてはならないのは、「無理させない」こと。子どもが明らかに苦痛を感じていることを続けさせるのは避けた方が良い。無理をさせることで一時的に成果が出ても、長期的にはその子の本来の能力が発揮されにくくなる可能性がある。
Q: 子どもの小学校受験のために勉強させることはどう考えたらいい?
この問題は複雑だ。小さい子どもに長時間勉強させて良い小学校に入れるケースはあるが、これも子どもの遺伝的な素質との兼ね合いで考える必要がある。
勉強への適性がある子どもは、早くから学習に親しむことでその才能を伸ばせる可能性がある。一方で、適性が低い子に無理に勉強させることは効果が低く、むしろ苦手意識を強める恐れもある。
いわゆる「逃げ切り型」(小さい頃は親の影響で勉強するが、大きくなると自分の適性に合った道を選ぶ)のケースもある。良い学校に入れば似たような友人と出会い、彼らに引っ張られて成長する可能性もあるが、それはあくまで確率の問題だ。
結局は、子どもの様子をよく観察し、無理にならない程度に挑戦させることがポイントになる。
Q: 結局、親としてできることは何?
最も大切なのは、子どもを四六時中考えるのではなく、親自身が自分らしく、自分にとっていい生き方をすることだ。
親は子どもにとって最も身近な大人のロールモデル。親が自分の好きなことや得意なことを楽しそうに追求している姿を見せることが、子どもにとって大きな影響力を持つ。子どものために無理して何かをする姿より、本物の情熱を持って生きる親の姿の方が子どもには伝わるものだ。

なぜなら、遺伝子はランダムにしか伝わらないため、親の興味と子どもの興味が異なることは自然なこと。親が自分の生き方を貫くことで、子どもも自分の道を見つける勇気を得られるかもしれない。
Q: 教育は遺伝に勝てるの?
勝ち負けを考えること自体が間違っている。教育がなければ遺伝的な素質も現れてこない。
例えば将棋の天才も、将棋という文化がなければその才能を発揮できない。大谷翔平も野球という環境があったからこそ輝けた。つまり、遺伝と教育は対立するものではなく、遺伝的な素質が教育や環境との相互作用で開花するのだ。
学校教育についても同様だ。日本の学校は教科学習だけでなく、部活動や学校行事など様々な経験の場を提供している。教科では光らない子どもが別の場所で才能を発揮することがある。
最終的には、子どもが様々な経験を通じて自分の好きなこと、得意なことを見つけられるよう支援することが大切だ。それは必ずしも親の期待通りではないかもしれないが、その子自身の幸せな人生のために最も重要なことなのだ。