教育新常識
【絶望か?希望か?】教育と遺伝の真実
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2025年5月13日

子育て・教育の新常識を一流講師から学ぶ。行動遺伝学の第一人者・安藤寿康氏に教育と遺伝の関係を科学的に学ぶ。学力は60%が遺伝、家庭環境が30%だと言う… <ゲスト> 安藤寿康|教育学博士 慶應義塾大学名誉教授 専門:行動遺伝学、教育心理学、進化教育学 1958年 東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒...
人は「生まれ」か「育ち」か?遺伝と教育の真実
子供の将来を考えるとき、多くの親が「遺伝子に勝ちたい」と思うものだ。一方で「努力すれば何でもできる」という考え方も根強い。子供の能力や性格は生まれつきのものなのか、それとも育て方で変わるのか?行動遺伝学の第一人者・安藤寿康氏に聞いた。

遺伝と環境、どちらが子供の能力に大きく影響する?

Q: 遺伝の影響を全く受けないものはありますか?
人間も他のあらゆる動物と同じく遺伝子からできています。遺伝の影響を全く受けないものは基本的にありません。ただし「決まる」という言葉は使わないことが重要です。「決まる」と言うと環境の影響をほとんど受けないイメージになりますが、実際には程度の差はあれ、すべてのものが遺伝の影響を受けています。
Q: 知能や学力はどれくらい遺伝の影響を受けますか?
IQや知能は遺伝の影響が特に強く、約50〜60%が遺伝で説明できます。つまり半分程度は遺伝の影響を受けていることになります。学力に関しては、遺伝が50%程度、家庭環境が30%程度の影響があります。残りは非共有環境(兄弟でも異なる経験や環境)の影響です。
Q: それはどうやって分かったのですか?
双子研究から明らかになりました。一卵性双生児は遺伝子が100%同じですが、二卵性双生児は普通の兄弟と同じく遺伝子の50%しか共有していません。しかし、両者とも生まれてからの環境は同じです。一卵性の方が二卵性より似ていれば、その違いは遺伝子の違いによるものと考えられます。世界中で何万組もの双子のデータを調査した結果、IQや知能は一卵性と二卵性の差が最も大きく出る特性だと分かりました。
遺伝子の仕組みと「隔世遺伝」の不思議

Q: 「トンビがタカを生む」と言いますが、遺伝的にはどう説明できますか?
これはメンデルの法則で説明できます。中学や高校で学んだエンドウ豆の色や形の遺伝を思い出してください。親が黄色(優性)と緑(劣性)の遺伝子を持っていた場合、見た目は黄色になりますが、子供に緑の遺伝子も伝わります。その子供同士が結婚すると、隠れていた緑の遺伝子が組み合わさって、緑のエンドウ豆が生まれることがあります。これが「隔世遺伝」です。
同じように、例えば親はそれほど頭が良くなくても、その親(つまり祖父母)が高いIQの遺伝子を持っていて、それが子供に伝わった場合、「トンビがタカを生む」現象が起こるのです。
Q: 遺伝子検査で将来の学歴や能力が分かるようになるのですか?
現在、IQに関わる遺伝子は約3900個見つかっています。これらの組み合わせから、ある程度将来の学歴や大学に入った時に落第するかどうかなども予測できるようになってきました。しかし、その予測精度はまだ15%程度と低く、結果を過信して「うちの子はダメだから勉強させない」などと判断するのは危険です。
年齢によって変わる遺伝と環境の影響

Q: 子供の年齢によって遺伝の影響は変わりますか?
意外かもしれませんが、年齢が上がるにつれて遺伝の影響は強くなります。幼い頃は遺伝率が40%程度ですが、青年期、成人期になるとだんだん上がっていきます。一般的には「生まれた時は真っさらで、いろんな経験をしていくと環境の影響の方が強くなる」と思われがちですが、実は逆なのです。
これは、子供の頃は親が作った環境の中でしか生きられないため、家庭環境の影響が相対的に大きいのですが、成長するにつれて自分の遺伝子型に合った環境を自分で選ぶようになるからです。勉強が好きな子は知的な環境を、音楽が好きな子は音楽的な環境を自ら選んでいくので、遺伝の影響がより顕著になるのです。
Q: 日本と海外で遺伝の影響に違いはありますか?
科目によって違いがあります。例えば算数・数学の場合、日本では環境の影響が比較的大きいですが、欧米では遺伝の影響の方が大きいという結果が出ています。これは、日本では九九やそろばんなど算数の技術に特化した訓練が家庭で行われることが多く、それによって環境の影響が強く出ているのかもしれません。
親としてできることは何か?

Q: 親として子供の能力を伸ばすためにできることはありますか?
子供の適性をよく観察することが重要です。子供が好きなことや得意なことは、大かれ少なかれ一生のものになる可能性が高いです。子供の持っている傾向をよく見て、それを伸ばしてあげる環境を作ることが大切です。
Q: 努力は遺伝に勝てないのでしょうか?
「努力も遺伝」と言うと誤解を招きますが、努力を続ける才能も遺伝の影響を受けています。何に対して努力できるか、どのように努力するかには個人差があります。ただし、遺伝だけで全てが決まるわけではなく、環境の影響も大きいので、適切な環境を与えることで子供の可能性を広げることができます。
Q: 親がすべきことは?
読み聞かせなど子供の知的好奇心を刺激する活動は学力に良い影響を与えます。ただし、因果関係を誤解しないことが重要です。例えば「成績がいい子は親から勉強しなさいと言われない」という現象は、「言われないから成績がいい」のではなく「成績がいいから言われない」というように、因果関係が逆になっていることもあります。
Q: 結局、子供の将来は遺伝と環境のどちらが大事なのですか?
両方が複雑に絡み合っています。遺伝の影響は確かに大きいですが、適切な環境も同じくらい重要です。遺伝子によって全てが決まるわけではなく、子供の持っている可能性を見つけ、それを伸ばす環境を提供することが親の役割です。遺伝子の影響を知った上で、子供の適性を見つけ、その子に合った道を探してあげることが大切なのです。